「『パラサイト』で一緒に仕事をしてポン・ジュノ監督の緻密な演出力にたびたび驚かされた。その中でも一番緻密な点は食事の時間をきっちり守ってくれたことだ」
俳優のソン・ガンホが去年5月、フランスのカンヌ映画祭の公式記者会見で述べた言葉だ。「ポンテール」(ポン・ジュノ+ディテール)というニックネームが象徴する緻密な演出力だけではなく、俳優とスタッフの食事時間まで気を遣う細かい配慮を合わせた説明だ。ポン監督が映画『パラサイト』でアカデミー4冠王になるという新しい歴史を書きこんだことで、これを可能にした「ポン・ジュノ・リーダーシップ」にも関心が高まっている。
ポン監督は人に対する礼儀を徹底的に守ることで有名だ。誰にでも丁重で謙虚に接しながらもユーモアと快活さを失わないということだ。ポン監督と20年近い間柄の評論家キム・ヒョンソク氏は「いつ見ても礼儀正しく、相手が気楽さを感じるように接する。大きな賞を取って有名になった後も変わらない」と語った。彼は「周囲からねたみがあってもおかしくないが、彼の人柄を知る映画界関係者はみな一様に心から祝っている」と付け加えた。
ポン監督は一度結んだ縁を大切にする。彼はデビュー前にイ・ジュニク監督が代表を務めていたシネワールドでシナリオを書く機会を得て忠武路(チュンムロ、映画会社が集まる韓国映画業界の代名詞の街)に足を踏み込んだ。当時縁を結んだ映画会社「アチム(朝)」のチョン・スンヘ代表が2009年にがんで亡くなった時、カンヌから帰って来たポン監督が空港からスーツケースを引きながらまっすぐ葬儀場に向かったエピソードは有名だ。ポン監督と2009年『母なる証明』で一緒に働いたことがある映画マーケターのキム・ジョンエ「プラネット」代表は、「監督がマーケティングチームまで面倒を見るのは珍しいことだが、当時のチームメンバーは今までもポン監督と連絡してときどき会っている」と話した。
人に対するこのような態度は仕事にも直接影響を及ぼす。ポン監督のペルソナとなった俳優のソン・ガンホに出会ったのも、小さな縁を大切にしたことから始まった。ソン・ガンホが無名時代にオーディションを受けて落ちたことがある。当時助監督だったポン監督は「いつか必ず一緒に仕事したい」というポケベルの録音メッセージを送り、ソン・ガンホは感動した。後日トップ俳優になったソン・ガンホはデビュー作『ほえる犬は噛まない』の興行惨敗後に苦労していたポン監督の2番目の映画「殺人の追憶」に喜んで出演し、以後二人は「ホ・ホコンビ」と呼ばれ、多くの作品でぴったり呼吸を合わせた。
俳優に自主性を与えることで良い成果物を作り出しもする。ポン監督は『殺人の追憶』の撮影当時、クライマックスの決定的なセリフをわざと空白にしておいた。キャラクターをよく理解した俳優が直接考え出すのが良いという判断からだ。ソン・ガンホは悩んだ末にこのようなセリフを投げかけた。「飯は食っているのか」 。映画を代表する名セリフが誕生したのだ。ソン・ガンホはポン監督について「自分の主張を立てるより傾聴する。意見を交わして結局望むものを得る」と説明した。礼儀と配慮、コミュニケーションのリーダーシップが最終的に『パラサイト』の奇跡を成し遂げたのだ。