「(右派の)石原慎太郎元東京都知事ですら、関東大震災の朝鮮人虐殺を否定するという発想はなかった。少なくとも1990年代までは、右翼も虐殺を否定しようとする人はいなかった」
韓国でも相当な反響を呼んだ『九月、東京の路上で―1923年関東大震災ジェノサイドの残響』を書いたノンフィクション作家の加藤直樹氏は、最近『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』という新しい本を出版した。『トリック』は関東大震災当時の「朝鮮人暴動が実際にあった」「朝鮮人虐殺はなかった」という主張を論破する本だ。1923年9月1日に起きた関東大震災以降の数日間、日本では「朝鮮人が暴動を起こした」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが広がり、平凡な日本人で構成された自警団が朝鮮人や中国人労働者などを虐殺した。軍の一部も虐殺に加わった。朝鮮人虐殺被害者は数千人にのぼると推定される。
10年ほど前までは、加藤氏がこのような本を書く必要はなかった。23日、東京でインタビューした加藤氏は「歴史修正主義が1990年代から日本の主流となり、日本の暗い歴史はなかったことにしてもいいという空気が出てきた。理屈に合わなくても大きな声で言えば通じるようになった」と悔しさをにじませた。加藤氏は『トリック』を出す前にすでに「朝鮮人虐殺否定論」を論破するインターネットサイトを運営していたが、「本の持つ力がある。ホームページだけでは足りないと感じた」と語る。
実際、虐殺否定論は現実政治にまで浸透した。小池百合子東京都知事は3年連続で東京都墨田区の横網町公園で開かれる朝鮮人虐殺追悼行事に追悼文を送らないと明らかにした。小池知事は追悼文を送ることを拒否し、「東京で起きた大きな災害後、さまざまな事情で犠牲になられた方々に対し哀悼の意を表する」とし、朝鮮人を対象に別途の追悼文を送らないとした。しかし加藤氏は「『多くの事情で亡くなった方』は虐殺された人しかいない。だが小池知事は殺されたという表現すら使わなかった」とし、「虐殺否定論を信じたり(まともな)説だと考えられると思っているという証拠ではないか」と批判した。
加藤氏が『トリック』で言及した虐殺否定論の“トリック”は精巧ではない。関東大震災直後、一部の日本の新聞は朝鮮人による暴動が起きたというデマをそのまま記事化したのだが、これを引用したり、朝鮮人の暴動の噂を聞いたが実際に行ってみたらそうではなかったという手記から前の部分だけを引用したり、正確でない数字を継ぎはぎしたりして、朝鮮人の大半は地震で死亡したと主張するなどだ。
加藤氏は2000年、石原元都知事の「三国人」発言をきっかけに朝鮮人虐殺について調査し始めたと話した。石原元知事は当時、「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。大きな災害が起きたときには大きな騒擾事件すら想定される」と述べた。加藤氏はそのとき「朝鮮人虐殺は昔の話ではないと感じた」と語った。ところが、「そんな石原でも追悼文を送らない理由を見つけられなかった」という。
加藤氏は「大きな災害が発生すれば少数者を犯罪者にする扇動は世界のどこでも発生する。重要な点は、政府と社会がこうした動きを防げるかどうかだ」と指摘した。