クリスマス前日の先月24日昼、京畿道始興市(シフンシ)新川洞(シンチョンドン)の三美(サムミ)市場は、クリスマスプレゼントを買おうとする人々でにぎわっていた。品物を買った客は慣れたようすで地域通貨を取り出して計算を終え、商人たちは笑いながら客を見送った。「人足が絶えないのでうれしい」と、市場で子ども服と成人用の冬のズボンを売るイ・クムオクさんが笑いながら話した。イさんは「経済が厳しいのに始興市外で使うお金をこの市場で地域通貨で使うから商人たちが喜んでいる」と雰囲気を伝えた。
30年の歴史を誇る三美市場は、始興では最も古い伝統市場だ。昨年9月17日、始興市は地域愛商品券の一つである地域通貨「シル」を発売した。引っ越しや開業をすると隣人に蒸し餅(シルトク)をあげるように、地域通貨が市民の分かち合いとコミュニケーションの媒体になることを願う意味で「シル」という名前をつけた。シルは地域通貨の成功モデルに挙げられる。昨年9月に発行されたシルは、わずか1カ月で流通目標額20億ウォン分を全て販売した。市民から好評を受けると、始興市は追加で9億ウォン分を発行した。発売記念として始興市が額面価格の10%を割引販売したのが功を奏した。現金9万ウォンを出せば、シル10万ウォンをもらえるやり方だった。差額1万ウォンは市が負担した。
販売額が増えると、シルを使える加盟店も急速に増えた。発売から約3カ月めの先月28日基準で、三美市場の全ての店舗152カ所を含め、始興市内の商店街5千カ所が加盟契約を結んだ。三美伝統市場のパク・チュンギ商人会長は「地域通貨は始興市だけで流通し、大企業のフランチャイズは加盟店ではないため地域資金が市外に流出しない」とし、「クレジットカードの場合、伝統市場で手数料率が0.8~1.6%だが、地域通貨は両替手数料が全くなく、商人に大きく役立つ」と説明した。
年明けから全国の複数の地方政府が、地域経済を活性化させ、資金の域外流出を防ぐため、地域通貨の発行に積極的に乗り出している。大手企業への進出や高い賃貸料、最低賃金などで苦しんでいる小商人を支援するための地域通貨は、今年の発行規模が2兆ウォン(約1920億円)に上る見通しだ。これは2018年の全体発行額3714億ウォン(約355億円)の5倍をはるかに上回る水準だ。
3日、行政安全部の「地域(ふるさと)愛商品券を運営する地方自治体の現況」と題された資料によると、12月末を基準に全国17の広域市・道と226の基礎市・郡・区のうち、地域通貨を導入した地域は計66カ所だった。地域通貨は韓国銀行が発行する法定通貨ではないため、政府は「地域(ふるさと)愛商品券」と呼ぶ。
地域通貨の発行が急増する理由は、地方政府が大幅に増やした福祉手当てを地域通貨で支給するためだ。今年、京畿道は若者配当1753億ウォン(約168億円)、産後養生費支援423億ウォン(約41億円)、各市・郡の福祉手当1406億ウォン(約135億円)など3582億ウォン(343億円)を地域通貨で発行する。昨年、城南市(ソンナムシ)は180億ウォンの児童手当を地域通貨として支給した。全羅南道海南郡(ヘナムグン)も今年の地域貨幣(海南愛商品券)150億ウォン分を発行し、年間60万ウォンの農民手当などを地域通貨で支給することにした。
地方政府がこのように地域通貨の発行に積極的なのは、地域所得がソウルに流出する現象が日増しに深刻になっているためだ。昨年11月に産業研究院が発表した「全国16の市・道地域所得域外流出の決定要因」と題された報告書によると、2016年基準で全国16の市・道(世宗市を除く)のうち忠清南道など9地域から所得が流出した。流出規模は忠清南道が24兆9711億ウォン(約2兆4千億円)で最も多く、その次が慶尚北道(16兆1003億ウォン=約1兆5千億円)、蔚山(13兆6305億ウォン=約1兆3千億円)、慶尚南道(12兆205億ウォン=約1兆1500億円)、全羅南道(11兆5236億ウォン=約1兆1千億円)の順となった。
一方、ソウルは40兆3807億ウォン(約3兆9千億円)、京畿道は21兆9464億ウォン(約2兆円)が流入した。忠清南道、慶尚北道、蔚山(ウルサン)などの地方で発生した所得が、ソウルと京畿道へと大挙流出したのだ。ヤン・スンジョ忠清南道知事は先月末「道内で生産された付加価値が道民に分配されていない。道内の労働者が住居地を首都圏に置くため」だとし、「地域通貨を導入して所得の域外流出を減らす」と明らかにした。
すでに8つの市・郡で地域通貨を使う忠清南道は今年、公州(コンジュ)などの地域で地域通貨を追加導入した後、これを道全体に拡大する方針だ。この地域の生産の域外流出が激しいからだ。忠清南道の地域内総生産(GRDP)は京畿道、ソウルに次いで17の広域地方政府の中で3位だが、1人当たりの民間消費は1366万ウォンで全国15位圏だ。
モバイル決済システムの導入を計画している地方政府もある。江原道は今年下半期からモバイル商品券決済システムを導入する。このシステムが導入されれば、オンラインでも簡単に道内の小商工人の商品を買うことができ、発行や両替などの流通費用を減らすことができる。仁川(インチョン)は電子商品券「インチョナーカード」(仁川愛電子商品券)を昨年7月30日に発売した。
地域通貨が広域単位ではなく、主に基礎地方政府単位で発行される理由は、同じ広域内でも市・郡地域の所得が大都市に流出しうるためだ。京畿道のソ・ミンジョン庶民金融チーム長は、「京畿道の中でも水原(スウォン)などの大都市に地域所得が集中し、在来市場が多い・少ないなど地域別の特性があるため、個別市・郡の地域通貨の発行を支援する方針」だと語った。
専門家らは、地域通貨が地域経済を立て直せる代案の一つだと口をそろえている。仁川大学のヤン・ジュンホ教授(経済学)は、「京畿道のイ・ジェミョン知事が2012年に城南市長に在職していた時に発行した地域通貨(城南ヌリ)で、4年間で零細自営業者の実質所得が22.3%増えたと分析されている」とし、「国内経済状況とソウルが吸い取る経済的吸引力のため、地域が荒廃化している。地域通貨は地域経済活性化の力になるため、政府が地域通貨の発行を積極的に推進する必要がある」と述べた。