司法壟断の捜査開始後、初めて裁判にかけられた人が出てその起訴状が公開されたことで、これまで「ヤン・スンテ司法壟断」の手足となっていた第一線の判事らの「恥ずかしい素顔」も同時にあらわになっている。大統領府と取引をしようとした“上層部”の裁判介入や裁判官査察などの内部統制は、“積極的”であれ“やむを得ず”であれ、すべて個別判事らの協力が土台となっていた。イム・ジョンホン元裁判所事務総局(行政処)次長の起訴状には、不当な指示であることを知りながら「人事上の不利益」などを懸念して結局これを断れなかった判事らの姿が随所に登場する。
■「ためらい」「拒否」したが、結局従った指示
司法壟断問題以降、高位裁判官を除き裁判業務から排除された判事は、蔚山(ウルサン)地裁のチョン・ダジュ(41、司法研修院31期)、昌原(チャンウォン)地裁馬山(マサン)支所のキム・ミンス(42、研修院32期)、昌原地裁のパク・サンオン(42、研修院32期)部長判事だ。彼らは検察にも公開召喚され、裁判所の懲戒対象にもなった。しかし、“積極的”に取り組んだ人のほかにも、ヤン・スンテ元最高裁長官を頂点とする事務総局の“上司”の指示に従った判事は少なくない。
起訴状によると、イム元次長は2013年12月にパク・チャニク(43・研修院29期、現弁護士)当時司法政策室審議官が作成した「強制動員者判決に関する検討」という文書などを、強制動員事件を担当する最高裁(大法院)の民事総括裁判研究官に渡すよう指示した。「パク審議官が、特定の事件を検討した事務総局の文書を裁判研究官に渡すのをためらった」ところ、イム元次長は「民事総括裁判研究官の同期である司法支援室の総括審議官に渡すようにしろ」とし、彼はタイトルなどを修正した後、その指示に従ったという。
2016年3月、ムン・ソンホ(43、研修院33期、現ソウル南部地裁判事)当時司法政策室審議官は、イム元次長から「パク・ハンチョル憲法裁判所長の発言を非難する趣旨の記事の草案を作ってみろ」という指示を受け、「記事の草案を作るのはちょっとどうかと思います」と答えた。しかし、イム元次長が「怒って大声で『とりあえず書いてみろ』と再度指示」すると、彼は2日後に「パク・ハンチョル憲法裁判所長、遠慮のない発言で法曹界に波紋」という見出しの記事の草案を報告した。
このように、事務総局の審議官らはイム元次長などの指示が不適切だということを知らないわけではなかった。チェ・ウジン(45、研修院31期、現大邱地裁金泉支所部長判事)当時事務総局司法支援室審議官も、ユン・ソンウォン当時司法支援室長から2014年12月に統合進歩党に関する事件の検討資料を担当判事らに渡すよう指示を受けた。彼は「不当な裁判関与または圧力になりうるという事実を認識し、事務総局が作って伝播したものではないように」見せるために、ソウル中央地裁の部長判事に「自然な形で作られた資料」のように渡してほしいと依頼した。
彼らの「選択」には、人事上の不利益への懸念が主に働いたとみられる。シム・ギョン当時司法支援室総括審議官(47、研修院28期、現弁護士)は、2015年9月、統合進歩党に関する訴訟を担当した全州地裁行政2部(バン・チャンヒョン裁判長)の審証を確認し、事務総局の資料を伝達しろというイ・ギュジン当時量刑委員会常任委員の指示を受けた。起訴状には彼が「上記のような指示が第一線の裁判に介入するもので不適切であることを知っていたにもかかわらず、従わない場合は自身に対する否定的な評価など有形無形の不利益がありうるという心理的負担」のため、裁判長に連絡したと書かれている。
■高裁部長判事「昇進落ち」の不安
起訴状に登場する判事らは、「憲法と法律によりその良心に従って独立して審判」すべきだったが、実際には不当な裁判介入を断固として阻止することができなかった。
光州(クァンジュ)地裁行政1部の裁判長として統合進歩党地方議会議員事件を担当したパク・ガンフェ部長判事(54、研修院21期、現弁護士)は、2016年1月、イ・ギュジン常任委員から事務総局の立場に沿って判決を下すか、それが難しければ判決期日を延期するなりしてくれと依頼された。起訴状によると、彼は「事務総局の要求に従わない場合、高裁部長判事への昇進から脱落しかねないという不安などから心理的負担を感じ、事務総局の立場に沿って『請求棄却』するよう結論を再検討することにし」たという。しかし、陪席判事らが反対すると、人事の時まで判決しなかった。
これに先立ち、事務総局の立場を伝えられたバン・チャンヒョン部長判事(45、研修院28期、現大田地裁部長判事)も「有形無形の不利益がありうるという心理的負担」から判決を一回延期し、事務総局が入れてほしいとした内容を判決当日に判決文に追加した。
朴槿恵(パク・クネ)大統領のセウォル号当日の行跡に疑問を提起した産経新聞の加藤達也元ソウル支局長の名誉毀損1審裁判長だったイ・ドングン・ソウル高裁部長判事(52、研修院22期)も、事務総局の要求に応じた。2015年11月ごろ、当時ソウル中央地裁のイム・ソングン刑事首席部長判事が彼に「判決の際に告知すべき内容を事前に検討を受けろ」と要求し、彼は作成された草案を伝えた。イム部長判事は「大統領を被害者とする名誉毀損罪の成立をむやみに認めてはならない」という部分を削除したり、「記事が虚偽だという点をもう一度説示」するよう要求し、彼は加藤元支局長に無罪判決を下しながらも、事務総局が要求した内容を「もう一度説示」した。彼は翌年2月、高裁部長判事に“昇進”した。