#事例1 「大韓航空子会社で航空機の出発・到着を地上で準備する地上操業サービス、手荷物搭載・荷役、航空機給油などの業務を遂行する『韓国空港』はすでに『1年単位』で弾力労働制を施行している。24時間交代勤務体系で『一日12時間を超えて働く日』が月平均9日、『11時間連続で休憩時間が保障されない日』が月平均6日もあるため、労働者は社内で2~3時間仮眠をとり操業現場に追い立てられている。こうした弾力労働制の実施によって、昨年は地上操業労働者が過労死する事件も発生した。韓国空港ではすでに1年単位の弾力労働制が施行されていて、与野党が合意して弾力勤務の期間を延長してもこれ以上大きな影響はない。弾力労働制自体を廃棄しなければならない」(ソ・ウソク民主韓国空港支部広報部長)
#事例2 「サムスン電子サービスに所属し、現場で家電製品の修理業務を担当している。主に夏にエアコン修理が集中的に発生する『季節集中業務』だ。政府が週52時間勤務制を導入し、来年からは労働時間短縮の恩恵を受けることになり、業務が集中する夏にも週末を家族と共に過ごせると期待していた。だが、現行3カ月の弾力労働制の単位期間を6カ月~1年に延ばせば、夏季を通じて仕事ばかりの毎日になり家族と一緒に過ごす時間と週末の休憩時間を奪われることになる。また、夏の炎天下ではしごを登り、主に屋上や建物の外壁で仕事をするので、過度な労働時間で過労死や墜落死した労働者もいる。仕事が集中的に増えれば、労働時間を非正常的に増やすのではなく、労働者を雇用して労働者の数を増やさなければならない」(クァク・ヒョンス サムスン電子サービス支会首席副支会長)
#事例3 「放送撮影現場でスタッフとして仕事をして15年になった。希望連帯労組放送スタッフ支部が、放送スタッフ291人を対象に実施した結果によると、労働時間の短縮が施行された今年7月以後もスタッフの一日平均労働時間は17.7時間に達することが明らかになった。私もほとんど20時間に近い労働に苦しんだし、今も同様だ。弾力労働制をすれば、週64時間の仕事が出来るが、一日単位の労働時間の制限規定はないので、一日12時間ずつ5日間で合計60時間となる仕事を、3日間一日20時間ずつの方式で仕事をする。例年になく暑かった8月には、30代の若いスタッフが仕事を終えて帰宅したところ突然死したこともあった。それでも放送会社は、状況改善のための答を出そうとしない」(キム・トゥヨン希望連帯労組放送スタッフ支部支部長)
13日、国会で正義党の主催で開かれた「弾力労働時間単位期間拡大にともなう被害事例」懇談会では、このような事例があふれた。今月5日、大統領府であった与野党・政府の国政常設協議体で「企業の困難を解消するために、弾力労働制を拡大適用する」という合意内容と関連して、与野党が弾力労働制の単位期間を6カ月~1年に拡大する案について共感を築いていることに対する反論だ。
弾力労働制単位期間拡大の問題点について、懇談会に参加したイ・フン労務士は、使用者の賃金削減手段としての悪用と労働者の健康権の脅威を挙げた。
「単位期間を1年以上に拡大すれば、事業主は年間312時間の延長労働に対する加算賃金支給義務を免除されることになる。弾力労働制の単位期間拡大は、賃金削減手段に悪用される可能性が高い。弾力労働制を導入すれば、週52時間に延長労働12時間を加え週64時間の労働が可能だ。(弾力労働制の)単位期間を6カ月に拡大すれば、3カ月以上延長労働が可能で、1年に拡大すれば6カ月以上の延長労働が可能になる。「労働災害補償保険法」では、業務時間が12週間に週当たり平均60時間(4週間では週当たり平均64時間)働いた場合、脳出血、心筋梗塞など脳心血管系の疾患を発病したときには業務上災害と見る。単位期間を6カ月に拡大しても、12週間で64時間の労働時間が発生し、労災補償保険法上でも過労死の危険が高く、労働者の健康権を深刻に脅かしかねない」
「午後10時は早退、夜12時は定時退勤、午前2時は残業」という言葉に代表される長時間労働で有名なIT業界の状況と関連して、オ・セユン民主労総ネイバー支会長は「単位期間が拡大すれば、長時間労働の合法化と手当ての最小化手段に悪用されるだろう。これは労働尊重を強調してきた政府の正しい態度ではない」と指摘した。
イ・ジョンミ正義党代表はこの日の懇談会で、「2018年に初めて開いた『週52時間労働時代』が、弾力労働制の単位期間拡大により根本まで揺らいでいる」として「企業が労働力を集約的、効率的に使う経営技法を見つける努力は怠って、競争力を云々しながら再び非人間的な長時間労働体制に戻ろうとしている」と明らかにした。イ代表は、文在寅(ムン・ジェイン)政府に対しても「任期内にOECD水準の年間1700時間(韓国は2000時間余り)台の労働時間に進入し、過労社会から抜け出すと話していた政府が、使用者の不当な要求に相槌を打っている」と批判した。さらに「弾力労働制を拡大する場合、現在の雇用労働部の過労死関連基準とされている『12週平均60時間の超過労働』が随時可能になる。文字どおり『合法過労死』が可能になる」と付け加えた。弾力労働制の単位期間拡大に対する対応と関連してイ代表は「この問題が決して最低賃金法の算入範囲改悪の前轍を踏まないようにする」とし「労働者の健康権を守り、労働組合が対話のパートナーとして尊重されるよう最善を尽くすことを約束申し上げる」と明らかにした。