「明確にTHAAD(高高度防衛ミサイル)のためだと公式的に言ったことは一度もない。韓国旅行を中止するよう指示したが、それが中国国家旅游局職員の個人的な口頭指針なのか、それとも当局の公式措置なのかを確認し、調べてみなければならない。下手に対応するとかえって逆風に見舞われかねない。両国間の対立が激化した場合、かえって韓国が逆攻勢に遭うかもしれない」
昨年末からTHAAD配備に対するものと思われる中国の経済報復が波状的に進められている中、韓国の通商の主務省庁である産業通商資源部の次官・局長・課長が口を揃えてこう言っていた。韓国行きのチャーター便の運航中止措置以降、3カ月近く維持されてきた韓国政府の一貫した反応であり、“戦略的選択”だ。「追及すべきところは巍然として追及し、問題も提起する。(だが)政府対政府の正面対決に突き進むのは国益の観点からも避けなければならない」ということだ。
「韓国観光商品の販売禁止令」の場合、中国国家旅游局が指示したことが明らかになり、「当局の介入・主導」が明白になったが、その後も戦略的選択は変わっていない。ゲーム理論に喩えるなら、相手の報復に対する“慎重で落ち着いた対応”だけが依然として私たちの利益を極大化する“最善の反応”であり、まだ選択を変えるほどの他の誘因がないということだろうか。今年1月、産業部は韓国製の電気自動車バッテリーに対する補助金の中止措置に対しては「中国の裁量権行使とも見られる」との情勢判断を示した。化粧品に対する大規模な通関拒否の直後には「国際貿易での通関は、法規通りに行うものだ。韓国だけに差別的処置を取ったわけではない」との立場を表明した。要するに「証拠がない」いうことだ。
急に風が吹いて目の前の木から葉がはらはらと落ちているとしよう。(産業部の対応は)木の葉がなぜ落ちるのかを綿密に調査して、もし風が疑わしいのなら、目に見えないその風を写真で撮って証拠として見せろというようなものだ。
産業部の本業と任務に対する疑念も抱かざるを得ない。ある産業部高官は「中国は、韓国がTHAAD放棄に転じることを望んで脅しをかけている。THAADをめぐって韓国内部が分裂して揺れる状況を作り上げている。過敏に反応すれば、かえって弱みを握られ、(中国のペースに)巻きこまれる恐れがある」と話した。もちろん、外交・安保問題が経済領域にまで広がったため、通商担当経済省庁としてかなり困惑した立場に追い込まれたという事情はある。問題は外交安保チームが起こしたのに、収拾は通商当局が引き受けることになった格好だ。韓国製品を人質にした中国の巧妙な包囲攻勢が連日露骨化するのに、通商省庁の思考回路には“外交的判断”が主に働いているわけだ。そのため、今回の騒動が一段落して一日も早く沈静化することをただ待っているような無気力な対応も見られる。
産業界の一部では「断固たる対応を求める建議文を政府に提出すべき」との声もあがり始めた。しかし、ある経済団体の関係者は「政府が微温的な状況で、業界が建議文を提出したとしても、状況が変わりそうにない」とため息をついた。