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[インタビュー]KBS放送で親日問題扱ったドキュメンタリー番組に放送中止圧力

登録:2015-12-20 23:18 修正:2016-01-30 10:00
KBSのイ・ビョンド記者が先月末、ハンギョレと会ってドキュメンタリー「勲章」が放送できなくなった過程について話している =キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 野心あふれる企画だった。 韓国現代史を包括する主題、これまで一般に公開されなかった新たな情報、韓国社会の長い理念論争構図の反映…。ジャーナリストならば誰もがうらやむほどの要素に満ちていた。 KBS(韓国放送)調査報道チームが企画した2部作ドキュメンタリー「勲章」に対する評価だ。 当初の計画では「勲章」は光復(解放)70年の今年、時事企画プログラムを通じて視聴者たちに公開される筈だった。しかし「勲章」はいまだに内部“デスキング”過程にあって、物理的に年内に電波に乗せるのが難しそうだ。 今年10月に製作スタッフは「事実上の放送中止手順を踏んでいる」という声明まで出して放送を求めたが、その間に社長が変わり、実質的に進展していない。 先月末「勲章」製作スタッフの1人、イ・ビョンドKBS記者に会った。 今年7月、韓国放送記者協会長に選出されたイ記者は、前例に従い現在はデジタルニュース部に属している。 彼は「勲章」放送中止問題に対して「放送日が延期され、検閲に近いデスキングがなされるなど、すべての過程が非常識で非合理的だった。 その後いわゆる“敏感な問題”について過度に保身を図る会社側の動きがあった」と批判した。

叙勲記録72万件を入手し分析し
親日附逆人物・スパイでっち上げ捜査らに勲章
“認め得る”“不適切”2つの視線に均衡努力
度々放送を先送りし放映要求要請文

その時から前例のないデスキング開始
「ペク・ソンヨプ、朴正煕夫妻を外せ」
親日附逆と勲章編は3分の1も“放送不可”
スパイと勲章編では
「ハン・ホング教授インタビューを無くせ」

■ 「勲章」はどんな番組?

 調査報道チームが「勲章」というアイテムに着眼したのは2013年だった。 勲章は国家が与える最高の栄誉だが、過去の政府がどんな人々に勲章を与えたかを調べれば、新しい視角で韓国現代史を表わせるだろうと考えた。 しかし、基礎資料を確保すること自体が容易ではなかったという。

 「2013年、行政自治部に叙勲内訳に対する情報公開を請求したが、“個人情報”だとして非公開決定をしたのです。 訴訟を提起して今年1月に大法院(最高裁)で『公開しなさい』という趣旨の判決を受け取りました」

 訴訟まで行って受け取った資料は実に66万件に及ぶ。その上、叙勲理由などがきちんと明らかにされていないので、他の経路から6万件余りの資料を追加で入手した。 合わせて約72万件の資料を分析してみると、親日附逆(反民族的親日行為)の経歴ある人々と“スパイでっち上げ”事件の捜査官が大挙して勲章を受けていた事実が主要関心対象に浮上した。 これに伴い「スパイと勲章」(1編)、「親日と勲章」(2編)という2部作の下絵が描かれた。

 「軍事独裁時期、罪のない人々が不法な連行や拷問でスパイの冤罪を着せられたが、『スパイと勲章』編ではこうしたことを犯した人々に対する勲章授与は不適切だったということを知らせたいと思いました。 『親日と勲章』編は企画の趣旨がやや違います。 例えばソ・ジョンジュ詩人の場合、日帝徴兵を称賛する詩を書くなどの親日附逆行跡を見せたが、文学界に寄与した功労を認められて勲章を受けました。 これについて『功績は功績として、罪は罪として』という観点と『功績が罪科を越えられない』という二つの観点が交錯しています。 したがって親日行跡者らの勲章を見つめる韓国社会の対立した二つの視線をバランスよく伝えようとしました」

 「スパイと勲章」に該当する事例は、朴正煕・全斗煥政権の時に多かったし、「親日と勲章」に該当する事例は李承晩・朴正煕政権の時に多かったという。 執権期間が長かった朴正煕政権時の事例が多いことは、もしかしたら当然かもしれない。

■釈然としない理由で延期、また延期

 5月末に「勲章」 2部作は6・7月にそれぞれ一編ずつが放送される予定だった。ところで6月初め、“MERS”事態が起こり、放送予定日が7月に延期された。 この時までは「勲章」は“放送予定リスト”に載っていたし、製作スタッフも特別な問題は感じなかったという。

 しかし6月24日、KBS「ニュース9」の「李承晩政府、韓国戦争勃発直後に日本亡命を打診」報道が物議をかもし、雰囲気がガラッと変わったという。 保守団体が韓国放送を攻撃し始め、イ・インホ韓国放送理事長はこの報道を問題にして緊急理事会を招集した。 イ記者は「7月初めに“アイテムの順序が変わるようだ”という話を伝え聞いた。 そして、その後見ると『勲章』が“放送予定リスト”から消えていた」と話した。

 あてもなく待つ日が続いた。 普通、時事番組は少なくとも1カ月前には放送予定日が決まる。 放送予定日が先に決まれば、取材、映像撮影などの製作を進め、放送予定日の10日前頃にデスキングを受ける。 6月頃にすでに製作をほとんど完了した「勲章」はチーム長のデスキングまで終えた状態だったが、放送予定日は延ばされ続けた。

 「放送予定リストから消えたことに対して抗議して『放送してほしい』と言うと、『8月は1カ月間ずっと光復(解放)特別企画が予定されているので難しい』と言われました。 その後、8月下旬に再び問題提起をしたところ、今度は『9月は1カ月間経済興しシリーズが予定されている』と言うのです」

 結局、製作スタッフは9月8日、社内掲示板に要請文を上げて、「早急な放送を要求」した。 要請文は2000件の照会数と240件の推薦を記録するなど、社内で熱い関心を集めた。 そのためか10日後の9月18日から時事製作部長が主管するデスキング会議が開かれ始めた。

■ 「放送予定もないデスキング、非常識な事態だった」

 しかし2時間ずつ10回にわたりなされたデスキング会議は製作スタッフにとってまた別の“苦役”だったという。 イ記者は「デスキングではなく“内部検閲”に近かった」と話した。 デスクは「親日と勲章」編を主に問題にした。 イ記者は「例えばデスクは『ペク・ソンヨプ、朴正煕などが受け取った勲章は、朝鮮戦争時の功績で受けた武功勲章であり、親日附逆行跡とは関係がない』として除くよう指示した。 韓国政府が岸信介らの日本人に勲章を与えていた事実も無くせと言った」と話した。 また特に李承晩・朴正煕関連の部分は、放送で言及すること自体を敬遠する態度が見えたと話した。 原稿全体の3分の1ほどが“放送不可”通知を受けもした。 これに対して製作スタッフたちは「企画意図自体が親日行跡者の勲章に対して二つ相反する見解を共に表わすこと」として対抗した。

 「スパイと勲章」編に対しては、スパイでっち上げ事件の被害者が「スパイではないという保障はない」という論理を前面に出して“でっち上げ”という表現を使うなと注文した。 取材源の一つであったハン・ホング聖公会大教授(元国家情報院過去事委員会委員)のインタビューを削除しろとの注文まで出された。 ちょうど保守団体、マスコミなどがハン教授に対して「大統領をさげすむ発言をした」として攻撃を浴びせていた時期だった。

 イ記者はインタビューの途中で「デスクの正当なデスキング権限を否定するつもりはない」と何度も強調した。 報道機関が組織的な結果を作り出すために、デスキングは必要不可欠な過程ということをよく知っているということだ。

 「製作スタッフに意図があるならば、デスクの意図もあるものです。 良い放送を作ることが最終目標ならば、互いに意図が違って論争になっても、十分に合理的で常識的な結果を導出できます。 しかし『勲章』の場合には、放送予定日が決まっていない状態で内部検閲に近いデスキングがなされるなど、全体的な過程自体が非常識で非合理的であったために問題だと主張するのです」

■ 「公営放送は“多様な声”を伝えるべき」

 何よりもイ記者は、今回のデスキング過程が良い放送を作るための作業ではなく、「社会的に敏感な問題について過度に保身を図る、“顔色伺い”のためと見られるので納得できなかった」と話した。 「李承晩・朴正煕に関連した部分について、できるだけ言及しない方式で避けようとするなど、政治社会的な論議を最小化しようとしているのではないかという疑いを持った」ということだ。 また、会社側のこのような態度が、公営放送の構成員をして自ら検閲させる悪影響を及ぼすと批判した。 そのような次元で「勲章」の経験は、公営放送内部の現実を示す象徴的な事例と言える。

 イ記者は韓国社会全体で民主主義が後退している状況に関して、公営放送が自分の役割を果たせずにいる現実を重要な背景として挙げた。

 「李明博政権以後、ますます“非常識”を力で押しつける事態が繰り返されているが、これに対して公営放送は力で押さえられた小さな声まで紹介する“多様な声”を視聴者に伝達すべき責任があります。 財閥の会長も、隣りのおじさんも、貧しい町内のおばさんも同じ受信料を払っていて、それが公営放送の核心だということを私たち構成員がみな一緒に心の中に刻んでほしいと願っています」。「勲章」のデスキングはまだ終わっていない。 11月にデスクが送った最終原稿に対して、製作スタッフたちが「内容に同意し難い」と反発して異見が埋まっていない。 11月23日、コ・テヨン社長が新しく就任した後、大々的な人事発令が出た。 イ記者はインタビューの後、「最近局長・部長などのデスクが留任したので、『勲章』が早い時期に放送されるようこれらの方々と再び誠実に議論してみようと思う」と明らかにした。

 彼は「昨年の“大統領府放送介入”問題でキル・ファンヨン社長の解任事態を体験して、韓国放送内部で多くの反省と今後は上手くやろうという議論が多くされた。KBSで新たに主要な席を務める方々もやはり当時のそのような動きに積極的に参加されたので、その方々が今後そのような不幸な事態が繰り返されないよう努力されるだろうと信じている」と話した。 その言葉の中には、信頼というより、もっと切実な願いが含まれていた。

チェ・ウォンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/media/722696.html 韓国語原文入力:2015-12-20 19:28
訳J.S(4446字)

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