「私どもは余命幾ばくも無い老人です。 私どもは多くは望みません。 ただ、生きてきた所で平和に暮したいだけです。 しかし、その夢はもう不可能になってしまいました」
8月18日、明洞聖堂でのミサで密陽(ミリャン)のハラボジ(おじいさん)とハルモニ(おばあさん)がフランシスコ教皇に伝えた手紙の内容の一節だ。 韓国電力が建てようとした高さ100メートル(35階建物相当)の巨大な送電塔は、今年で10年にわたって765キロボルト超高圧送電塔建設に対抗したお年寄りの戦いをあざ笑うかのように、密陽8か村にバベルの塔のように屹立している。11月末になれば“ぐつぐつと油が煮え立つような音”を出して高圧電流が流れ始める。 そうなれば、ハラボジやハルモニの夢は費えるのか?
手紙はこう続いていた。「送電塔が建つのを見守りながらも終えることのできない私たちの希望は、原子力発電所を止めることです。 金を崇拝する者の貪欲と傲慢でなく、正義と公平が息づく世の中に出会ことのです」。密陽のお年寄り達は変わった。
もちろん、政治権力と資本は鼻でせせら笑う。すでに送電塔建設は終わった。 一部のクズ同然の報道機関や知識人は一層強くこのようにバカにする。 つまらない希望は苦痛であり拷問だ、流れ者の連帯は実は苦痛の強要に過ぎないと。そのような連帯と希望の中で、村のお年寄りは病気に罹り、財産は失い、隣人も失い、訴訟にあった。 だから権力、資本の要求に順応して生きろと囁く。
言われる通り苦痛は大きかった。10年余りの戦いで、2011年の夏以後二人のおじいさんが自ら命を絶ったし、70人余りが刑事処罰を受けている。 9人に拘束令状が請求されたし、住民たちに降ってきた罰金だけで2億ウォン(1ウォンは約0.1円)余りに達し、裁判に付された人は20人を超える。工事が全面化された2013年10月から行政代執行(6月11日)直前までに152人の住民が現場で負傷し病院の診療を受けた。
負傷者の4人に1人は、脳出血や骨折などの重傷者だった。警察と外注ガードマンが浴びせた苛酷行為と性暴行と悪口、ヘリコプターの騒音、共同体の混乱の中で80人近くが精神科の診療を受けなければならなかった。
それでも7か村260余世帯の‘ハラボジとハルモニ’は、今も補償金の受け取りを拒否して、国家権力の刑事処罰と罰金爆弾に対抗して踏ん張っている。 どうして国家が資本の下手人になって、国民の生命と財産を強奪することを助長できるのか? 骨身に沁みた悔しさ故かもしれない。 しかし、彼らを捉えているのは‘手紙’で言及した通り、あきらめられないその‘夢’と‘希望’だった。 息子や娘、孫たちがもっと安全で平和で友愛に満ちて生きていける国に対する夢!
送電塔の戦いでは負けたが、不正な国家権力と無慈悲な資本の横暴、原発の危険性に対する国民的覚醒は深まった。 高圧送電線の戦いは慶尚北道清道(チョンド)、忠清南道瑞山(ソサン)・唐津(タンジン)、全羅南道麗水(ヨス)などに広がった。全国的次元の被害者連帯も作られている。 老朽原発閉鎖闘争は釜山、蔚珍(ウルチン)、月城(ウォルソン)、霊光(ヨングァン)などに広まっている。 三陟(サムチョク)市民は、原発建設に反対する平和的蜂起に成功した。 彼らがつけた火種はさらに大きな希望の火となって燃え上がっている。
夢が持ちこたえさせる力だとすれば、連帯の手は活力を吹き込むエネルギーだった。 9月20日に開かれた一日後援酒場「手を握って酒だ」は韓国市民運動史上最高の収益(8千万余ウォン)を上げた。 イ・チウ老人の死(2012.1)以来続いている密陽ロウソクのあかり文化祭は今週末で169回目を迎える。 167回文化祭では、農業応援に来たガンジー高等学校の生徒や市民150人余りが一緒に演劇「笑います、おばあさん」を観覧した。 釜山の‘劇団 仕事場’が位良里(ウィヤンリ)127番鉄塔の座り込みバラックを背景にハルモニ3人の人生と闘争を描いた演劇だった。
ロウソクのあかり文化祭は、今では暮らしの市場に進化している。このために「ミニファーム協同組合」は今年7月に出資金2400万ウォンでスタートした。住民100人余りが参加して、市民280人余りが連帯する都農共同体の基盤だ。 市場では毎回300万~400万ウォンの売上が上がっている。 規模は小さいが誠意と情熱は熱い。 7つの村毎にハラボジ・ハルモニ座り込みんだり休んだりして、訪問者たちが休憩もできる広間兼座込み場も用意された。
今月25日「ハンサルリム ソウル(生協)」は、秋の収穫広場でソウル市民太陽光発電協同組合と共に‘太陽蝶’が初めて羽ばたく行事を行った。 会員の一人一人が太陽蝶になって「原発と超高圧送電線をなくし、‘密陽’をエネルギー自立村のメッカにし、2億ウォンの罰金爆弾の負担を減らし、友愛と歓待の都農連帯共同体を建設しよう」ということだ。簡単にできる。 小さく手軽なミニ太陽光発電を家庭に設置すれば良い。ソウル市が原発一基減らし事業の一環で、設置費用の半分を支援しているので、市民は小さな誠意(34万ウォン)だけ加えれば良い。団体で申し込めば負担は一層少なくなる。 密陽で命を宿し孵化した太陽蝶が全国津々浦々を飛んで台風を準備している。
クァク・ビョンチャン先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )