自動車メーカー は名に死活を賭ける
現代自動車「アスラン」の命名に1年半かけ
55年韓国内製作1号の自動車名「シバル」
初めての出発という意味で時の世相を表し
95年誕生の「アバンテ」は発展・前進の意
”身分区別作り”は韓国的特色
国際化と共にハングル車名はなくなった
1955年、韓国で作られた初の自動車が登場した。「シバル(始発)」だ。 最初の出発を意味した。 国際車両製作が作ったシバル自動車は、産業博覧会で大統領賞を受賞し関心を集めた。 シバルタクシー、シバルバスも登場した。 シバルを買うための”契(無尽)”も作られた。 自動車の分割払い金融の元祖とも言える”シバル契”だ。
「新しいもの」、「初めての出発」を強調したシバルは、その名前とは裏腹に新しい車ではなかった。 戦争後に転がっていたアメリカの軍用車量を修理して作った再生車だった。 それ以前にも軍用車を修理して乗ることはあっただろうが、正式に名前をつけて出されると韓国自動車産業の始祖となる車両になった。
フランスの哲学者ジャン・ボードリヤールは、現代資本主義社会を「事物を代替する記号が作ったイメージが現実を支配する」と述べた。 消費者の頭の中でどう位置づけられるかにより市場での成功が決まる。名前はその開始点だ。
だから自動車メーカーは車の命名に死活を賭ける。 自動車業界の説明を聞くと、新車の名前を決めるために1000個以上の候補を考えることもある。1000対1の競争率を突破するのに1年を越すことも珍しくない。 車名広報費用も年間100億ウォン(約10億円)を超える。 グローバル業者が車名を変えれば、広報費用だけで2億ドル(約2100億ウォン)以上かかるという推算もある。こうして作られた自動車の名前は、世界では約2300万個に及ぶと業界は見ている。
実際、現代自動車が今月発売予定の「アスラン」(獅子(ライオン))は命名だけで1年6か月かかった。 社内公募等を通して候補群を作った後、商品・マーケティング部署などの3回にわたる投票を経た。 現代自動車関係者は「直観性、伝達力、ターゲット消費層、会社固有のネーミング体系などを複合的に考慮した」と説明した。
車名は世相の鏡
韓国で自動車産業が成熟しだす1980年代中盤以前には戦略的アプローチはほとんどされていなかった。 輸出を念頭に置いた”現地化した命名”にも馴染みがうすかった。
その代わり、世相を反映する名前が多かった。1962年にセナラ(新しい国)自動車は日産との技術提携を通じて「セナラ」を作った。 翌年に韓国GMの前身である新進工業に吸収されると、漢字の車名を付けた「新星号」を発売した。 始発、セナラ、新星(明けの明星・金星)を意味する新星号など、すべて”新しい出発”を強調した。
当時は技術提携を結んだ海外完成車メーカーの半組立車両(CKD)を持ち込んで製作し、車名もそのまま使うことが多かった。新進自動車工業がトヨタと提携して作った「コロナ」や「クラウン」等がその代表だ。
1980年代に入ると自信が出始めた。独自モデルが多くなり輸出も増えた。 韓国最長寿モデルでありスポーツ実用車(SUV)の代名詞である双龍(サンヨン)自動車の「コランド」は、そうした変化を代弁する。 双龍自動車の母胎になった河東煥自動車製作所が新進工業の後身である新進自動車工業と共に新進ジープ自動車工業を作り、1974年にお披露目したコランド(当時は「新進ジープ」)は、1983年に社名をコファに変えたこの会社が「韓国人はできる」(Korean can do)、「韓国人がやり遂げた」(Korean do it)という意味で作った名前だ。 重化学工業育成政策の光が見え始める頃の”産業の担い手が主人公の時代”を反映する車名だ。
自動車産業成長期が続いた1990年代には”軽快”や”情熱”を表現するスペイン語やフランス語などラテン語系が活用された。 1995年に発売され1000万台販売達成を控えている現代自動車「アバンテ」はスペイン語で発展、前進を意味し、アバンテの輸出車名である「エラントラ」もフランス語で情熱を意味するエランとトランスポート(運搬)の合成語だ。 生計型自営業者の足になった韓国GMの「ダマス」もスペイン語で”良い友達”という意味だ。(会社側説明)
車名分化と痕跡をなくした韓国語車名
車種が増えて輸出が本格化すると名前も国際化した。 ハングルや漢字は痕跡をなくした。 全世界を縫って進むという意味の大宇自動車(現 韓国GM)の「ヌビラ」と双龍自動車の「ムッソ」を除けば、1990年代以後にハングル車名を付けた車はない。 今年8月に発売されたルノーサムスン自動車の新型「SM7」は、新進工業の新星号と同じく新星を意味するが、名前は英語の「ノバ」を使った。 自動車業界関係者は「輸出および現地化戦略などにともなう結果」と説明した。 ヤン・チャンヨン済州大学教授(英語教育学)は「外来語の目新しくエキゾチックな効果が希少性を通じて注目度を上げる効果がある」と分析した。
代わりに命名法は一層多様化した。1970年代に入り動物(現代車「ポニー(小型の馬)」)や風(起亜自動車「プリサ(涼風)」)等を活用した名前が使われ始めた。
音楽・神話・地名も使われた。 現代車「ソナタ」は器楽のある分類を表し、「アクセント」も音楽から取られた。 路とゼウスの合成語である双龍車の「ロディウス」や、黄金の地を意味する伝説中の地名を借用した起亜車「オピラス」は神話を利用した。 余暇文化に対する関心が高まると現代自動車「サンタフェ」(アメリカの休養地)や起亜車「ソレント」(イタリアの休養地)等、地名に由来する名前も多くなった。
韓国的特色…社会的区分付け
韓国の完成車メーカーが付ける車名には、身分と地位を表わす傾向があるという指摘もある。 現代自動車の「ダイナスティー」(王朝)、「エクウス」(凱旋将軍の馬)をはじめ起亜自動車の「エンタープライズ」(成功した企業家)、双龍自動車の「チェアマン」など、大型車には高い身分を象徴する名前が列をなす。
2000年代以後、韓国の完成車メーカーも外国メーカーのようにアルファベットと数字を組み合わせた”アルファニューメリック”を増やしているが、車名を通した”区分付けマーケティング”も露骨に行われた。 海外メーカー等は最近、起亜自動車のKシリーズやルノーサムスンのSMシリーズのように数字とアルファベット程度で車両の大きさなどを示す。
チェ・ヨンヒ釜山経済大学教授(国語国文学)は「韓・中・日の自動車名に見られる文化研究」で「日本も初期には車名に身分付けする特性を見せたが、その後は多様な名前に変化した」として「韓国は大型乗用車の場合、特に身分や地位の高さを表す(区分付けする範疇に属する)名前が多い」と分析した。