「警察も密陽市も、歪曲された話で罪を犯している。父の死の意味を無視して送電塔工事を強行しようとする術数でないならば一体何か?」
超高圧送電塔建設問題に心を痛め、結局農薬を飲んで亡くなった慶尚南道密陽(キョンサンナムド・ミリャン)の住民ユ・ハンスク(71)さんの長男ユ・ドンファン(44・写真)氏に、密陽市嶺南樓(ヨンナムル)の向かい側に設けられた“市民焼香所”で10日に会った。白い喪主の腕章をつけたユさんは焼香所を訪れる住民一人一人に挨拶しながらも、ふとボウッと空を見上げた。ユ・ハンスクさんは上東面(サンドンミョン)古井里(コジョンニ)にある自分の畜舎近くに765㎸の超高圧送電塔が建てられるという事実に、最近になってようやく気づき、この2日に農薬を飲んで4日目に死亡した。
ユ・ドンファンさんは警察の公式発表に憤慨した。ユさんは密陽(ミリャン)警察署が「豚の価格暴落」「飲酒」「家庭不和」などに言及して、事故原因を「複合的」と規定したことについて「とんでもない話だ」と言い切った。「自分が警察官の前で直接「送電塔のために農薬を飲んだ」と陳述した。しかし警察は、遺族の供述の中から枝葉的なものを巧みに織り交ぜて事実を歪曲し、故人の名誉を毀損している。」
息子のユさんが明らかにした事故当日の情況はこうだ。父が除草剤を飲んだ今月2日はキムジャン(キムチの漬け込み)をした日だった。夕方6時頃、ユさんは母親と一緒に調味料の材料を買いにでかけ、少し家を空けた。酒を飲んでいた父は帰ってきた母子に「キムジャンの日に調味料を買ってくるなんて手回しの悪さがどこにある」と怒った。ユさんは妻と軽い口げんかにもなったそうだ。
しばらくして息子が父親に呼ばれて行ってみると、テーブルの上には除草剤の瓶とコップが置いてあった。父親は息子に「私はお前たちのために最善を尽くした。これからはお前が自分で考えてやれ。だた一つだけ、お前のオヤジがユ・ハンスクだったということだけは忘れるな。汚い世の中あれこれ見るより、農薬飲んで一思いに死んでしまおう。幸せに暮らせ」と言った。言い終わるやいなや、父は息子の見る前で除草剤をあおった。夜8時50分ごろだった。止める間もなかった。ユさんはコップ全体を飲み込むことは出来ず、途中で床に吐き出したという。
息子のユさんは「農薬を云々するのは田舎の年寄りが悔しい時によく口にする言葉だから、始めは黙って聞いていた。ところがその瞬間、父が突然その農薬を飲んでしまった」と述べた。家族たちはすぐに冷蔵庫から牛乳を取り出して父に飲ませようとしたが、手のひらで押しのけてしまった。すぐ病院に運んだが、父は胃洗浄まで頑なに拒否したという。結局、食道が溶けたまま4日間耐えて6日未明、3時50分に息を引き取った。
ユさんは「父が酒を飲んでいて衝動的に農薬を飲んだというのは話にもならないこじつけだ」と言った。「酒を飲んだ理由が重要ではないか。家庭の不和だと? 両親は最近も二人で海外旅行に行って来るほど仲が良かった。警察と密陽市はキムジャンの調味料問題でちょっと腹を立てたことを家庭の不和と決め付けている。いったい何故、父が送電塔の問題で落胆して亡くなったということを認めないのか?」
家族と村の住民の話を総合すると、密陽三浪津邑(サムナンジンウプ)の7部落の一つである林泉里(イムチョンニ)で生まれたユ・ハンスクさんは、密陽で高校まで出て海兵隊の大尉として軍服務を終えた。除隊後、しばらく消防官として勤務したりもした。以後“中東特需”の波に乗ってある建設会社に就職し、中東の工事現場でも働いたという。そうやって貯めたお金で28年前に畜舎を建て、今も500頭あまりの豚を飼っている。ユ・ハンスクさんが古井里に定着したのは妻の実家である慶北・清道と相対的に近いからだという。
8年にわたり送電塔葛藤が続く間、ユ・ハンスクさんと家族は目と鼻の先に送電塔が建てられる予定であるという事実を知らなかった。古井里の他の住民の中にも正確な位置を知らないというケースがあった。ある住民は「あの山の向こうということしか知らない。正確な位置は分からない」と言った。息子のユさんは「ただ遠く離れたどこかに送電塔が入ってくるとばかり思っていた。少なくとも1キロほどは離れているとばかり思っていた。」と語った。ほんの1ヵ月前、韓国電力公社(韓電)の職員がやってきてから初めて、彼らは117~118番の送電塔が自分の畜舎から低い丘を挟んで建てられるということを知るようになった。遅まきながら畜舎を処分しようとしたが、正常価格の半分で出しても売れなかった。
古井里の住民ソン某(72・女)氏は「韓電職員がやってきた後、あの人は送電塔問題でものすごく落胆して、酒で日々を過ごすようになった。補償も受けられない事を知ってからは、豚の面倒を見ることも止めてすべてを放り出してしまった」と語った。ユさんと親しい間柄だったというハ某(72)さんは「中東の太陽の下で働いて稼いだお金をすべて投資して畜舎を建てたのだ。送電塔でそれが全部駄目になってしまうというのに、憤慨しないでいられるか。ユさんは村の行事などによく協力して、宴会にでもなれば豚も出してくれた良い人だった。事故がおきる数日前から、送電塔問題で本当に苦しんでいた。他の理由でそうなったというのは話にならない」と伝えた。
密陽/文・写真 イ・ジェウク記者 uk@hani.co.kr