企業の立場で最も管理しにくいのが‘評判リスク’だ。 大規模契約が破棄されたり、資金調達にあい路を体験したり、為替レートや金利が急変することなどはある程度まで予測と統制、対処が可能だ。 だが、評判リスクはいつどのようにして弾け、どこまで行くのか、まったく的確に把握できない時が多い。 企業が最も嫌う不確実性が核心であるのに加え、あたかもバタフライ効果のように客観的な因果関係が明確に分からないケースも多い。
最近、役職員の"本当に下品な振る舞い"のために頭を下げた企業が幾つもあるが、そのリストに大統領府が‘ユン・チャンジュン スキャンダル’で名前を上げた。 まだ進行形ではあるが、大統領府の危機管理能力を一度覗いて見よう。
リスク管理の最初の段階は危機識別と初期対応だ。 どんな事案が危険要因になり得るという点を素早く正確に認知して足早に対応することだ。 しかし大統領府随行団は被害女性と文化院職員が‘ホテルの部屋のドアを閉ざして泣き叫ぶ’状況を見ても事態の深刻性を正しく認識できなかった。 現地警察に申告がなされた後にはユン・チャンジュン氏を帰国措置することで逃れようとした。 事態の深刻性よりは直ちに大統領の訪米成果に及ぼす悪影響の方を強く憂慮した。 ユン氏個人の突出的行為と判断したとすれば、大統領府の危機識別能力は水準以下だ。 もう少し見守る必要があるが、ユン氏の行為は衝動的なセクハラではなく、故意的な性暴行未遂疑惑がますます深まっている。 結果的に大統領府が重大犯罪者を逃避させたことが判明することになれば、真に恥ずかしい悪手に違いない。
第二には‘透明性’だ。 その核心は事実関係を正確に把握することだ。 大企業の事故対応マニュアルは通常こうだ。 内部事故が起きれば本社次元で役員級を責任者として真相調査団を設ける。 責任者と一線職員など関連者は別々に調査するのが原則だ。 現業では叱責と責任を憂慮して事実関係を最大限隠そうとするためだ。 マスコミに公開する場合にはありのままに知らせることが原則だ。 訳もなく強度を調節すれば、かえって逆風に当たるケースが一度や二度ではないためだ。 ‘職員が知っていることは世の中が皆知っていること’というのがこの頃の大企業の認識だ。
大統領の国外訪問期間という状況を勘案しても、このケースの大統領府対応は0点に近い。 大統領随行団が被害女性と文化院職員、現地警察などを相手に事実関係を把握しようと努力した形跡はほとんど見当たらない。 加害者であるユン氏の言葉だけに依存したために、ユン氏が陳述を翻意するや淫らな真実攻防を行う形になってしまった。
最も重要なことは事前予防だ。 潜在的危険要因をあらかじめ遮断するなり最小化することだ。 すべての事故には常に兆候があるはずだ。 ‘ハインリッヒ法則’というものがある。 1930年代初め、米国のある保険会社の管理者であったハインリッヒが保険事故を分析して得た経験則だ。 大型事故は突然起きるが、それに先立ち軽微な類似事故が29回あり、類似兆候は300回も感知されていたということだ。 ユン氏は評判照会で与野党を問わず否定論が沸き立った人物だ。 不適切な人物という評価と助言にも関わらず大統領が職権で抜てきしたケースだ。 すでに予告された‘ユン・チャンジュン リスク’を大統領自ら無視した代価を今十分に払っているわけだ。
今後がさらに問題だ。 リスク管理の最終段階は事後措置だ。 賢い企業は世論の期待や予想より一次元高い対応策を出そうとする。 ‘そこまでやるなら いいよ’という友好的世論を得るためだ。 しかし大統領が参謀会議で謝罪の意向を表明したこととか、 何日間も広報首席の更迭について悩む姿を見れば、やはり水準以上の事後措置を期待することは難しそうだ。
キム・フェスン経済部政策金融チーム長