韓国政府は、サムスン電子労組のストライキ予告を4日後に控えた17日、「緊急調整権の発動の検討」を示唆することで、労使に妥協点を探るよう圧力をかけた。ストライキが現実化すれば、半導体をはじめとする国内産業全般に及ぼす衝撃が大きいため、これを阻止しようとする政府の危機感が反映されたものとみられる。
キム・ミンソク首相はこの日、政府総合庁舎で国民向け談話を発表し、「サムスン電子のストライキにより国民経済に甚大な被害が懸念される状況が発生した場合、政府は国民経済を守るため、緊急調整を含む可能なあらゆる対応手段を講じざるを得ない」と述べた。談話には、緊急調整権を発動する所管省庁のキム・ヨンフン雇用労働部長官や、半導体産業を担当するキム・ジョングァン産業通商部長官らが同席した。14日のキム・ジョングァン長官の発言を皮切りに、キム首相まで「緊急調整権」に触れたことで、サムスン電子の労使に対する政府の圧力が強まったといえる。
緊急調整権は、2005年の大韓航空パイロット労組のストライキを最後に発動されていない。政府が21年ぶりに「強硬手段」を切り出した背景には、今回のストライキが現実化すれば国家経済に及ぼす影響が致命的だとみているためだ。過去4回発動されており、2回は労使合意でストライキが終了し、2回は政府による強制仲裁が行われた。
政府は、今回の労使対立が単なる賃金交渉を超え、産業全般の労使関係の基準点となる可能性も意識しているようだ。特に政府は、サムスン電子で営業利益連動型成果給制度が定着した場合、他の大企業の労組へ要求が拡散する「先例効果」を注視しているという。
ただし、大統領府は「緊急調整権」を実際に発動するかどうかについては、慎重な姿勢を見せている。カン・ユジョン大統領府首席報道官は同日の会見で、「緊急調整権について大統領府も深く検討しているか」という質問に対し、「事後調整が再開された以上、まだ対話の時間は残っており、対話を通じて調整できるよう最大限の支援を惜しまない方針」だと答えた。
結局、18日に開かれる第2回事後調整会議の結果が、今後の政府対応の分水嶺となるものとみられる。大統領府関係者は「18日に決裂すれば、(緊急調整権の発動の可否について)本当に決断しなければならない状況だ」と述べた。
2大労総からは懸念の声があがった。韓国労総はこの日、声明を発表し、「単に経済的な波及力が大きいという理由だけで緊急調整権を適用しようとする試みは、事実上、大企業の労働者のストライキ権を制限する先例につながる恐れが大きい」と批判した。民主労総のチョン・ホイル報道担当もハンギョレの取材に対し、「経済的な理由で緊急調整を発動すれば、造船・自動車などの主要輸出業種はもちろん、すべての事業場でストライキが不可能になる」とし、「憲法で保障された権利を侵害することはあってはならないことだ」と述べた。ソウル科学技術大学のチョン・フンジュン教授(経営学)は、「政府が緊急調整を行って仲裁したからといって問題が解決するわけではなく、むしろ労使の対立を助長する恐れがある」と指摘した。
■ 緊急調整権
緊急調整権は、「労働組合および労働関係調整法」第76条に基づく制度。争議行為が「著しく国民経済を害したり、国民の日常生活を危うくする恐れが現に存在する時」に、雇用労働部長官の決定によって発動できるよう定められている。緊急調整権が発動されると、労働組合は争議行為を直ちに中止しなければならず、30日間は再開できないうえ、中央労働委員会の最終仲裁案を受け入れなければならない。憲法が保障する労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)と衝突せざるを得ないため、歴代政府も「最後の切り札」として発動を控えてきた。