原文入力:2010-07-25午後06:39:24(4078字)
創刊22周年企画 大論争<韓国社会 未来を語る> 2部、'進歩改革、福祉国家を語る'
①なぜ、福祉国家なのか
我が国社会の代案体制として福祉国家を主に主張する声が非常に高い。学界と市民社会、政界まで広がった。進歩改革陣営の一部では、これを理念的媒介として政党統合を試みようとしている。福祉国家が無意味なスローガンではない、それなりの市民権を獲得し我が国の社会に急速に近づく局面だ。
<ハンギョレ>は去る5月以来、創刊22周年企画‘韓国社会の未来を語る’の1部として、進歩と保守の未来論争を行った。7回にわたったこの論争で、国家ビジョン、成長、分配戦略など掘り下げた。引き続き2部として‘進歩改革、福祉国家を語る’を用意し、5回にわたり連載する。その初回として韓国福祉の現住所を社会権次元で新たに光を当てたノ・デミョン博士(韓国保健社会研究院研究委員)の文を載せ、合わせて福祉国家研究者であるコ・セフン高麗大教授のインタビューを通じ福祉韓国の進む道とそのための課題を調べた。
去る10年間、韓国の福祉制度は急速に成長した。だが、多くの貧困層はその恩恵を受けられずにいる。国民年金や健康保険に加入できず、福祉の死角地帯にいるためだ。実際に2009年我が国社会の所得不平等と貧困率は1980年代初期水準に戻っている。福祉の成長にもかかわらず、低賃金労働者は増え、資産不平等はさらに深まり、教育機会の格差までが拡大している。福祉の量的成長にもかかわらず、その効果が非常に低調だということだ。
未来韓国のための代案的福祉パラダイムが出てこなければならない所以だ。この点で注目しなければならないことは社会権だ。社会権とは、市民が生存保障および生活向上のために国家に要求できる権利を意味する。所得保障権、労働権、住居権、健康権、教育権などを示す。こういう権利を国家が保障することにより、最小限の人権が保障されることができる。福祉もまた、恩恵授与ではなく、すべての市民に与えられた堂々たる普遍的権利という視角に基づいている。韓国の福祉は今や社会権的観点から再照明され、新しく設計されなければならない。
青年期 教育機会差別、壮年期 雇用住居不安、老年期 貧困自殺急増…‘福祉政策再設計’至急必要
我が国の福祉制度は深刻な構造的問題を抱えている。誰でも皆同じく適用されえない普遍主義の欠如がその核心だ。職場の有無により、正規職か非正規職かにより、福祉恩恵の格差があまりにも大きいということだ。こういう様相は1987年の民主化以後、社会保険の適用範囲が拡大する段階から現れ始めた。高賃金と雇用が保障された正規職労働者に、さらに多くの福祉恩恵が与えられ、低賃金と雇用不安に露出した非正規職労働者は福祉恩恵から排除される、いわゆる‘二元化’問題が発生した。
貧困層(経常所得中間値の50%以下の階層)は、非貧困層に比べ社会保険に加入していない集団の比率が2倍くらい高い。これは福祉拡大が所得格差を減らすのではなく、更に増やす結果を持たらしていることを示す。こういう傾向は外国為替危機以後、より一層深まった。去る10年間、中産層の比重が大きく下がったことは、すなわち正規職と非正規職に分離した労働市場の二重構造、すなわち福祉恩恵の二重構造が招いた結果に他ならない。
一言で言えば、我が国社会の福祉制度は本来の役割を果たせずにいる。たとえ一定部分改善された点があるとしても、本質的に雇用・教育・住居など人間の尊厳のために必ず必要な最小限の権利、すなわち社会権を保障することができないという問題を抱えている。その上、最小限の生存のための基礎生活保障制度があるが、これは全体貧困層の約3分の1だけに恩恵が戻るだけだ。
社会権の危機と言うことができる。これは貧困層だけに該当するものではない。大多数の市民が体験していたり体験する問題だ。18~65才の勤労年齢層を見てみよう。これらの人々は今、労働権、教育権、住居権の危機を最も総体的に経験している。失業、雇用不安、低賃金の危険に露出し、早期退職の圧力まで受けている。一度、労働市場から退出すれば元の働き口に復帰する可能性も希薄だ。
結婚初期には住居準備のために貸し出し償還負担に苦しみ、子供が成長すれば重い私教育費負担を抱えることになる。職場から退出すれば、借金に苦しみ信用不良者に転落しかねない。‘貧しい老年’もまた、これらの人々を待ちうける。これら勤労年齢層の暮らしを実質的に改善しようとすれば、福祉制度だけでは限界がある。労働権、教育権、住居権保障政策との連係が必要ということだ。
老人は貧困と社会的疎外を最も大きく被っている危機集団だ。2008年、我が国の社会老人貧困率は48.6%で、経済協力開発機構(OECD)国家中 最も高い。これは、ここ数年 OECD国家中1位を占めている老人自殺率につながる。福祉を伸ばしたというが、実状は老人貧困さえ解決できない状況である。今後、高齢化は私たちの未来をさらに暗たんとさせる。老人人口の基礎生活を保障しようとするなら、所得保障権、健康権の他にも文化的権利も必要だが、我が国社会はまだ老人たちに最小限の所得保障すらきちんとできずにいるのが現実だ。
青年世代はどうか? 20~30代の相当数は各種競争で機会さえ得られないケースが数多い。階層移動どころか自己実現の機会に大きな制約を受けている。両親の教育水準と所得水準により、私教育費競争で差別を受ける機会不均等を体験し、大学に入っても学費と生計費負担で学業成就に困難を来す不均等を経験する。大学序列と学業成就が働き口に大きな影響を及ぼすのは言わずもがなだ。非正規職になれば正規職への進入は夢のようなことだ。
就職をしたといっても資産形成ははるかに遠い。結局は両親の財産と所得に大きな影響を受けることになる。貧困が代々伝わる現象が構造的に現れるほかはない状況だ。これらに機会均等を保障するためには、普遍的な基本権である社会権を強化する努力の他には別に答えを探しにくい。老人と青年層の状況は韓国の社会政策もまた社会権に基づいていないことを語る。
‘普遍主義’欠如した福祉、階層間格差 悪化させ
所得不平等・貧困率も1980年代水準 抜け出せず
賃金差別と学歴差別を容認する労働政策、私教育により代替された教育制度、重疾患にかかればあまり役に立たない医療保障制度もまた社会権を保障する福祉制度ではない。同様に市民の住居権を保障できない開発政策も社会権を保障するものではない。最低住居基準があると言っても、これを実践する具体的な政策がないならば、それもまた、社会権の不在を意味する。その結果は低賃金働き口を転々とする路上生活者や箱部屋居住者や考試院(訳注:2坪ほどの狭い貸部屋、トイレ・シャワーは共同)居住者だ。こういう住居貧困層が増加している。
このように社会権の危機が深刻化されている状況で、我が国社会の未来を楽観することは難しい。すでに相当期間‘雇用なき成長’または‘貧困誘発型成長’を体験してきた状況であり、経済成長ではこの問題を解決できない。一度貧困層に墜落すれば、基礎生活を維持することが難しく、なかなか再挑戦の機会も与えられないということを市民は体で知っている。各種政策懸案を巡り尖鋭な葛藤が広がる原因もまさにここにある。また、国民が福祉政策を強化しなければならないと話しながらも、なぜ福祉支出増加にともなう租税負担を敬遠するのかを語ることでもある。
社会権が保障されない社会で、自身と家族の暮らしを守ることができる唯一の方法は譲歩や妥協をせずに経済的に有利な地位を死守することだ。利己心と拝金主義が社会権が失踪した席の代わりをする。こういう観点で見れば、我が国社会は社会権強化を通じて基礎生活を保障し、機会均等を保障し、連帯的実践を広めなくては未来を楽観することが難しい。社会統合の国民的力量を期待することも困難だろう。
社会権強化のためには福祉支出を増やさなければならず、租税負担の増加が避けられない。もちろん国家財政的余力と社会的合意が前提にならなければならない。新しい制度の導入にともなう福祉支出の増加により、一種の‘福祉疲労感’が存在し、財政健全性に対する憂慮もあるが、我が社会が社会権強化のための財政支出に耐えられる余力がないわけではない。福祉支出の増加が財政健全性を悪化させると断言できることでもない。
2010年の今日、私たちの社会の福祉は相変らず成長に直接的に役立つ領域に財源を集中する選別的投資戦略から抜け出せずにいる。それでも、いつまでも選別的投資戦略に依存できるわけではない。福祉拡張過程に現れた問題点に対する改善は必要だが、社会権の危機を克服するためには福祉拡大は持続しなければならない。
西欧福祉国家のように‘縮小指向的’福祉改編ではなく、‘拡張指向的’福祉改編にならなければならない。そして断絶している社会権を総合的に連係し普遍的権利として位置づける福祉改編にならなければならないだろう。ある西欧学者の表現のように、私たちの社会はこれ以上 国家と社会の責任を個人に転嫁する‘低品質福祉国家’を基盤にしては発展できない。個人の経済社会的権利と義務を新たに位置づける役割は、今や大きな政治の問題として残っている。
文:ノ・デミョン博士、韓国保健社会研究院研究委員
企画協力:キム・ホギ延世大教授(社会学),イ・テス コットンネ賢都社会福祉大教授(社会福祉学),チェ・テウク翰林国際大学院大学教授(政治学)
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/431949.html 訳J.S