「カンボジアにいる間に3回逃げました」
20代の青年Aさんは14日、8月初めにカンボジアでの仕事に就いたものの、1週間で3つの犯罪組織から脱出した経験をハンギョレに語った。借金に苦しんでいたとき、オンラインカフェで「チャット宣伝の業務に就けば、月に300万~500万ウォン(約30万~50万円)稼げる」という広告を見て、カンボジアに一歩を踏み出したのが災いのもとだった。
Aさんは、最初に訪れたシアヌークビルのある組織が、チャット広告業者ではなく「ボイスフィッシング」(電話で言葉巧みに個人情報や金銭をだまし取る詐欺行為)の組織だと気づき、すぐに監視を逃れて逃亡した。「一銭も稼がずに帰ることはできない」と考え、チュレイトム地域とカンポット地域の業者を順に訪れ、いずれも犯罪組織だと気づいて逃亡を繰り返した。
短期間ながら、Aさんが体験したカンボジアの犯罪空間の実態は想像を絶した。Aさんがこれらの組織で見聞きした話をもとに、カンボジアの犯罪組織の実体を探った。足を踏み入れるのは容易だが、抜け出すことは困難だった。
■「そこにいると撃たれる」…安心させて勧誘
Aさんはなぜ、その短期間に3つの犯罪組織を回ることになったのか。いずれの場合も「正常な業者」を標榜した犯罪組織の罠にかかったのだ。別の犯罪組織をおとしめることで信頼を得ようとする手口も使われた。Aさんが最初の業者から逃げる決心をしたとき、ちょうど出国前に連絡していたチュレイトムの2つ目の業者から電話がかかってきた。この業者は「ホテルから遠く離れた場所にいるのなら、こっちの車を送る」と言い、Aさんを救出するかのように振る舞った。実際に到着した場所は、15室ほどある建物の各部屋に人々を詰め込み、ボイスフィッシングを主な業務とする犯罪組織だった。組織側はこれを「TM」(テレマーケティング)と称していた。
犯罪組織であることに気づき、Aさんが再度連絡を試みた業者も同様に「そこで働いていたら銃で撃たれて殺されるから逃げろ」と言ってきた。「われわれは韓国人がやっている会社」だと言って安心させた。カンポット地域のボコール山近くの犯罪団地にあった3つ目の業者は「ロマンス詐欺」をする犯罪組織だった。今年8月に22歳の大学生Pさんが犯罪組織による拷問の末に命を失った現場の近くだ。
特に最後に訪れた犯罪団地は大規模だった。雇用契約書を提示するほどシステムが整っていた。Aさんは「従業員は1500人だと自慢していた。警察から逃れたり癒着したりしながら企業のように規模を拡大した」と述べた。組織の構成員の国籍は、中国、ベトナム、カンボジア、韓国など多岐にわたった。構成員たちは、最新のチャットGPTを利用可能に設定されたパソコンの前で、人工知能(AI)が翻訳した挨拶文を使い、さまざまな国籍の人たちと接触し、金をだまし取る仕事をしていた。
■「すでに犯罪者」…脱出は失敗かあきらめ
Aさんは、自分が3回も脱出に成功したのは奇跡のようなことだと考えている。カンボジアの現地警察が出動するためには、被害者の直接通報が原則であるうえ、正確な位置と監禁されている状態の写真や動画などまで要求する。Aさんは最後の組織に向かった道を覚えており、位置を把握していたおかげで、領事館のコールセンターの助けを得て、なんとか現地警察に通報して大使館職員に会うことができた。
組織で会った韓国人たちが、脱出を恐れたり望んでいなかったりする様子をよく見かけた。なにより、脅迫で委縮しているためだ。Aさんは「無断で写真や映像を撮っているのが発覚した場合、こん棒で1500人分殴り、ひどい場合は電気で拷問をするという話まであった」として、「逃亡や脱出を試みれば、当然拷問の対象になる」と述べた。警察への通報後、他の韓国人に一緒に行こうとさそったが「殴られるのではないかと思うと怖い」と言って断ったという。
すでに犯罪に加担してしまったため、自分からは引き返せないと判断したケースも少なくない。カンボジアでの勤務経験がある警察官は「被害者を救出に行ったとき、『監禁されたのではない』『これからも金を稼ぐ』というケースが一番もどかしい」として、「すでに犯罪に加担してしまい、処罰を受けることになると信じ込ませる組織のガスライティング(心理的操作)が続くため、自分から脱出をあきらめてしまう」と述べた。カンボジア警察が被害者の通報を強調することになったのも、被害者が救出を拒否することが繰り返された影響だという。
自分を「犯罪組織」の一員と認めてしまった被害者は、さらなる犯罪に加担しやすい。カンボジア韓人会のオク・ヘシル副会長は「命がけで救出して送り返しても、再び友人を連れて(犯罪組織に)戻るケースが少なくない」として、もどかしい状況を語った。