12日夜に拘束された尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の妻、キム・ゴンヒ女史は、尹錫悦政権の最大の「リスク」と言われてきた。「妻の役目だけに専念する」という大統領選挙当時の約束は守られておらず、3年間「陰の権力」として国政運営全般に莫大な影響力を行使したという疑惑を受けてきた。尹錫悦前大統領の絶対的な庇護の下、誰にも制御されず、ついに前大統領夫妻の同時収監という憲政史上初の事態へとつながった。
予告編がなかったわけではない。2021年11月、尹錫悦前大統領が「国民の力」の大統領選候補となり、本格的な大統領選挙の局面を迎えた当時、キム女史はすでにドイツモーターズの株価操縦への関与▽コバナコンテンツへの後援▽母親の療養給与不正受給などの疑惑に加え、巫俗や経歴詐称などで物議を醸していた。自身の問題が選挙前に大きな負担となったことを受け、キム女史は記者会見を行い、虚偽の学歴・受賞経歴などについて謝罪し、「静かな内助」を約束した。
しかし、政権発足とともに、キム女史は様々な噂と論議の中心に立った。慶尚南道金海市(キムヘシ)の烽下(ボンハ)村を訪問した際、コバナコンテンツの職員を同行させたのに続き、初の大統領外遊である2022年6月のスペイン・マドリードでのNATO首脳会議当時、民間人であるイ・ウォンモ人事秘書官の妻を随行団に加えたことで、「陰の権力者」だとして議論を呼んだ。現地僑民懇談会当時に着用したヴァンクリーフ&アーペルのネックレスなど高価なアクセサリーが財産申告から漏れていた事実が明らかになり、物議を醸した。このネックレスは最近、瑞煕建設のイ・ボングァン会長から贈られたことが明らかになった。翌年にはNATO首脳会議に出席するために訪問したリトアニアで、警護を受けながら高級ブランドショップでショッピングしている姿が現地メディアによって報道されたこともあった。キム女史を統制する第2付属室の設置要求が政界を中心に沸き上がったが、尹前大統領はこれを黙殺した。
権力型不正疑惑も後を絶たなかった。就任当初、ソウル漢南洞(ハンナムドン)の大統領官邸の移転工事会社選びに不当に介入したという疑惑がふくらんだのに続き、2023年5月にはソウル-楊平(ヤンピョン)高速道路の終点が従来の案とは異なり、キム女史一家の土地がある江上面(カンサンミョン)に変更されたという疑惑が上がった。同年9月、チェ・ジェヨン牧師がキム女史に300万ウォン(約31万円)相当のブランドバッグ(ディオールのバック)をプレゼントする映像が公開され、波紋が広がった。
「Vゼロ」(V0)と呼ばれたキム女史の権力が確認されたのは、いわゆる「ミョン・テギュン事態」が起きてからだ。政治ブローカーのミョン氏が、2022年の大統領選当時に3億7千万ウォン(約3900万円)をかけて実施した81回分の世論調査を無償で提供したのは、尹前大統領とキム女史だ。キム女史はその見返りに、キム・ヨンソン前「国民の力」議員の公認に影響力を行使したという疑惑を受けている。
特検の捜査過程で、大統領や警護処長などわずか5人だけが持つ盗聴防止機能付電話(秘話フォン)の権限をキム女史が持っており、大統領室をはじめ政府の全組織に直接連絡が可能だったという事実も明らかになった。12・3非常戒厳前日と当日、当時のチョ・テヨン国家情報院長とショートメールをやりとりしたという事実も尹前大統領の弾劾裁判で確認された。
キム女史問題が国政運営の「ブラックホール」になったが、尹前大統領はキム女史を最後までかばった。昨年1月、韓国放送(KBS)の特別対談ではディオールバッグの受け取りを「情に厚くて(断ることができず)」起きたことだと述べ、昨年11月の記者会見では「(キム女史の疑惑は)針小棒大どころか、ないものまででっち上げて妻を悪魔化させたもの」だと述べた。国会で成立した「キム・ゴンヒ特検法」には3回にわたり拒否権を行使した。
尹錫悦政権の聖域として君臨したキム女史は、12・3非常戒厳と弾劾政局を経て特検の捜査対象になった。キム女史は6日、ミン・ジュンギ特検チームの取調べに出頭し、自身を「何でもない人」だと主張したが、結局憲政史上初めて拘束された前職大統領の配偶者となった。