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■「韓国の極右をめぐる言説、誇張と誤解が多い」
シンクタンク「LAB2050」のイ・ウォンジェ理事長の司会(座長)で行われた総合討論で、「韓国人研究院」のチョン・ハヌル院長は、「韓国の極右をめぐる言説には誇張と誤解が多い」とし、極右の概念の妥当性と「20代男性の極右化」フレームを慎重に見直す必要があると強調した。
まず、チェ・ヨンジュン教授の研究チームの極右性向研究は、伝統的な保守層の特性を捉える水準にとどまっているとチョン院長は指摘した。さらに「極右に分類された集団が実際には伝統的保守と区別されず、極右性向の集団の中でかなりの人数が自分を『中道』や『進歩』だと認識するという点で、概念的にかなり曖昧だ」と批判した。実際、20代と70代以上▽男性・高卒以下▽販売・サービス職▽所得の二極化などで極右性向が高く現れたというチェ教授の研究チームの分析結果は、従来の保守層の分布と大きな違いはない。
特にチョン院長は、近年20~30代の男性などの特定集団に「極右」のレッテルを貼る傾向について、「代表性のない少数集団(西部地裁襲撃事件の拘束者など)の特性を全世代に一般化するのは、社会科学的に深刻な誤りだ」と反論した。韓国人研究院と進歩政策研究院が行った3~4月の世論調査によると、20代男性の58%が大統領の弾劾に賛成し、64%が西部地裁の暴動の主導者に対して「厳正に処罰すべき」と答えた。これは20代の男性が極右的で、不服従・暴力の象徴という一部のメディアのフレームと相反する結果だ。チョン院長は「20代男性の多数が弾劾反対、不服従、暴力に同調したというような一般化は根拠に乏しい」とし、「青年たちはインターネットコミュニティの極端な側面を盲目的に受け入れておらず、極端ではない中間にいる青年が多数」だと強調した。
またチョン院長は「極右という用語そのものが否定的固定観念を誘発し、回答者の率直な回答を妨げる」とし、客観的指標と共に主観的アイデンティティ(自分を極右・保守・中道・進歩と認識するか)の調査との結合が重要だと話した。 主観的に極右アイデンティティだと自分を規定する割合は、2〜6%にすぎなかった。さらに「韓国的な脈絡を反映した極右指標の開発が必要だ」として、弾劾に反対する態度、西部地裁事件に対する友好的な認識など、現実の政治イシューを含む韓国型の極右の基準を作る必要があると語った。
チョン院長は極右性向の社会的背景として、オンライン環境、社会的孤立、政治的効能感などを構造的要因を挙げながらも、「極右は実際には下から幅広く広がった現象というよりも、政界や一部の極右教団・メディアの扇動によって『上から』作られた側面が大きい」と指摘した。
[%%IMAGE2%%]■「多元化社会と政治システムの乖離」
討論者として参加した政治活動団体「ニューウェイズ」のパク・ヘミン代表は「韓国社会の極端化と極右現象は直接民主主義の過剰動員、政党の閉鎖性、そして市民の政治的効能感の欠如によるものだ」と診断した。パク代表はジェンダー、世代、文化など多様なアイデンティティが交差する多元化された現代社会で、市民は自己成長につながるプロジェクトとして政治に参加したがるが、「韓国政治は依然としてエリートの中年男性が主導し、政党内教育と成長モデルがなく、多様な市民がなかなか参入できない」と指摘した。
このため、直接民主主義が拡大し、ユーチューブなどのニューメディアの先導力が大きくなり、少数の過剰動員された党員が政党の意思決定に大きな影響を及ぼす現象があらわれた、というのがパク代表の分析だ。パク代表はこのような現象が寛容と自制を弱め、政治を過激化に追い込む結果を生んだと分析した。さらに「政党と議会が内的多様性を拡大し、政策議題の多様化を通じて討論と合意が日常化されなければならない」とし、「ユーチューブなどとの適切な距離の維持、陣営対立ではなく問題解決中心の構造転換が必要だ」と語った。
特にパク代表は「政党が多様な市民に自己成長の経験と政治的効能感を提供してこそ、民主主義が活発に作動する」と強調した。パク代表が率いるニューウェイズは、20〜30代の有権者と若い政治家をつなげ、多様な人が政治に参入し、地域問題を代議制モデルですみやかに解決する実験を進めている。
■「寂しさと能力主義、極右の感情の土壌」
書籍『大人にも遊び場が必要だ』の著者であり市民教育企画者のチュ・ウンギョン氏は極右的感情の背景として、孤独と能力主義、不平等が作った各自生き残りを図る社会を挙げた。チュ氏は「いくら忙しく働き一生懸命生きても、孤独で、誰も信じられない社会になった」とし、「競争と孤立、能力主義が皆を不安にさせ、結局自分がなぜこんなふうに生きていかなければならないのかさえも分からないようにした」と指摘した。
チュ氏は政治的見解の違いで人間関係が断絶し、学校と市民社会も陣営化に陥り、教師でさえ授業で話すことを恐れる現実を例に挙げ、「今は教育よりも治癒が必要な時代」だと診断した。
治癒の方法としては知性と感性、精神性を提示した。チュ氏は「真の市民力は、自分の人生の問題を批判的に考える知性、他人の苦痛に共感する感性、自分の内面の声に耳を傾ける精神性の統合から出てくる」とし、「共に行う遊びと市民芸術、小規模の集まりが市民性を育てるのに決定的な役割をする」と強調した。さらに「一緒に絵を画いたり、踊ったり、演劇をしながら生きているという喜びを感じる市民は、強い自我と自尊感覚を持つようになり、これが民主主義の重要な力になる」と述べた。
■「極右の暴力、他人事ではない」
『広場、その後』の著者であり「尹錫悦退陣のために行動する青年たち」の代表であるイ・ジェジョン氏は、最後の討論者として、2016年にドイツのあるスーパーで買い物をしていたところ、ドイツ人男性らに頭を殴られる人種差別を受けた経験を語った。イ代表は、最近韓国で起きた極右団体の騒動や西部地裁の暴動を見て、当時のショックを思い出したと語った。「他人事のように感じられた極右化現象が今や私たちの日常にも浸透している」とし、「特定の思想を貫徹するために物理力まで動員する過激主義が激しくなっている」と懸念を示した。
イ代表は極右現象の診断においてジェンダー、地域、学歴、所得など集団的特性だけを問題視するアプローチの限界を指摘した。「低い政治的効能感と孤独感、社会的関係性の資源のなさなど、構造的な問題に注目しなければならない」と話した。極右勢力を一つの集団に単純にまとめて診断するより、極右的思考に同調する段階から民主的憲政体制を攻撃する段階まで、多様な層位ごとに対応の戦略を変えなければならないというのがイ代表の見解だ。このため、「極右的主張に同調する段階では民主市民教育やデジタルリテラシー教育が必要であり、憲政体制を攻撃する段階では断固たる処罰が必要だ」と語った。