1972年の米中の歴史的なデタント以降、半世紀近く続いた米国の対中政策を180度修正した人物は、8年前のドナルド・トランプ大統領だった。第1次トランプ政権は、2017年12月に発表した国家安全保障戦略(NSS)で、中国を「米国の価値と利益に反する世界を作ろうとしている修正主義勢力」だと名指しした。米国が中国の発展を助ける「関与政策」を続ければ、このアジアの長い歴史を持つ大国は、自分たちが作った「自由主義的国際秩序」の責任ある一員になれるという期待を断念するという告白だった。
もはや中国と共には歩めないという判断は、米国の超党派的な決断でもあった。次に登場した民主党のジョー・バイデン政権は、この方針をそのまま受け継いだ。バイデン大統領は2022年10月に発表した新たな国家安全保障戦略で、中国について、世界秩序を再編成できる力と意志を持つ「唯一の競争相手」と位置づけ、これに対抗するために、米国の同盟国を結集すると宣言した。
時が流れ、米国の対中政策に再び意味深長な方針転換がなされた。第2次トランプ政権は4日(現地時間)、今後自分たちが推進していく国家安全保障政策の大きな枠組みを記した国家安全保障戦略の文書を公開した。この文書を支える二本柱は、自らが「柔軟な現実主義」と表現する独特の現実感覚と、トランプ大統領が1期目から強調してきた「米国第一主義」だといえる。
一つ目の柔軟な現実主義は、序文に記された「米国のエリートは、全世界に対する米国の永久的支配はわれわれの国益と一致する」と誤解してきたとして、「他国のことは、それが直接われわれの利益を脅かす場合にのみ、われわれの関心事になる必要がある」という一節から読み取ることができる。さらに、米国は他国に対し、その国の「伝統や歴史と大きく異なる民主主義やその他の社会的変化を強要しない」として、「このような現実的評価によって行動したり、われわれと統治制度や社会構造が異なる国とも良い関係を維持したりすることは、決して矛盾したり偽善的であったりするもの」ではないという驚くべき結論を下している。このような点を理解すれば、33ページにも及ぶ長い文書で、なぜ北朝鮮について一度も言及されていないのか、中国批判のために“伝家の宝刀”のように振り回してきた民主主義、価値、国際規則・規範という言葉がなぜ登場しないのか、ウクライナ国内での敵対行為を迅速に終結させることが、なぜ自分たちの「核心的利益」(core interest)と規定したのか、などが理解できる。
二つ目の米国第一主義は、「米国が(ジブラルタル海峡で空を支えているギリシャ神話の)アトラスのように、世界秩序を単独で支える時代は終わった」という文言に凝縮されている。米国は今後、「核心的国家利益」を狭くとらえ、軍事力を限定的に用い、その場合にも、同盟国にかなりの負担を押し付けることになると予想できる。米国がこの文書を通じて「民主主義の拡散」のために自ら付与してきた「神聖なる使命」を放棄したことは明らかだが、それが必ずしもモンロー主義という過去の孤立主義に回帰するという主張なのかどうかは分からない。
このような米国の微妙な立場が最もよく示されているのは、台湾政策を説明する一節だ。米国はこの文書に「台湾海峡でのどちらか一方による現状変更の試みも支持しない」、「(この地域における)軍事的優位を維持することによって、対立を抑え込むことが優先課題だ」、「第1列島線における侵略を拒否するために、軍事的能力を構築するが、米軍単独でそれを一手に引き受けることはできない」という内容を記した。実際に米国は、台湾の現状を変更しようとする日本の高市早苗首相のいわゆる「存立危機事態」発言とは距離を置いているが、それは台湾を完全に放棄するという意味では決してなく、それによって、結局は韓国と日本に絶えず費用分担を要求することになるだろう。
しかし、はっきりと覚えておかなければならない。トランプ政権が台湾の「現状維持」に力を込めたのは、そうせざるを得ないなんらかの本質的理由があったのではなく、それが米国にとっての利益になると判断したからだ。後日、大国間の取引を通じて米国の計算が変われば、台湾、そして場合によっては大韓民国も、簡単に捨てられる可能性がある。そのような事態を避けるためには、当面は米国の要求を誠実に履行し、必死にしがみつかざるを得ない。疲れたアトラスは同盟国に今後、傍若無人に過酷なむち打ちを続けるという明白な意思を示した。可能な限り最善を尽くしつつ、対米依存を大きく減らす新たな未来を描かなければならない。
キル・ユンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )