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【韓国大統領選】広場で気づいたみんなの願い…忘れえぬ大統領選挙となりますように

登録:2025-05-27 08:47 修正:2025-05-27 10:13
大統領選挙D-7、広場の市民の求めているもの
今月21日に取材に応じたソ・チャンウォンさん(27)のかばんに、広場でもらったバッジとリボンがついている=コ・ナリン記者//ハンギョレ新聞社

 「性平等勝ち取るぞ」、「500日になる前に高空にも春が来ますように」、「民主同徳に春は来るか」、「被害者の声を聞け」…

 20代の男性で異性愛者、非障害者、正規労働者のソ・チャンウォンさん(27)が、レインボーバッジをつけた出勤かばんから各種の「闘争はちまき」を取り出しはじめた。左手にはセウォル号惨事を追悼する黄色い腕輪と梨泰院(イテウォン)惨事を追悼する紫の腕輪をつけていた。以前は社会問題に関心を持ったことも、集会に参加したこともなかったソさんは、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の弾劾を求めるために初めて出かけた広場で「すでに闘っていた」女性、惨事の被害者、性的マイノリティー、障害者、非正規労働者に出会い「目覚めた」。ソさんに、大統領選挙に出馬している候補たちに提案したい政策を尋ねた。内乱から半年、ソさんは広場で考え抜いた「改めて出会うべき大統領」の役割を一気にまくし立てた。「差別禁止法と生活同伴者関係法の制定、黄色い封筒法の再推進、障害者脱施設支援法の制定をしてほしい。特に、誰が大統領になったとしても、高空籠城中の労働者を地面に連れ戻してくれる人であるべきです」

 「目覚めの広場」を経て、ついに第21代大統領選挙が6月3日に行われる。ハンギョレは、尹前大統領の弾劾集会の舞台に立って発言した多様な8人の市民の話を聞いた。広場の発言者でもあり聞き手でもあった彼らは、大統領選に出馬している候補に、広場で知った人々の苦しみと社会問題の解決を求めた。

 彼らが候補たちに提示した課題は、「自身の問題」に限られない。高校生の娘を持つ父親は「平和」の価値を語った。学校外の青少年は社会的マイノリティーの誰もが差別されない世の中を、露店商は自身よりも苦しい境遇にある都市貧民を崖っぷちに追いやらない世の中を願った。「人工知能(AI)大国」、「企業がやりやすい国」などの、有力候補の示す抽象的な青写真、そして政争と票計算で汚れた大統領選挙に失望したと語った。寒い冬の広場で共有された生の痛みと懸念から温められたものが、大統領選挙局面において候補たちの言葉から「すっかり消え去ったように思える」と口をそろえた。

自身の願いにとどまらないみんなの願い

 実用音楽の入試に集中するために高校を中退した学校外青少年のミン・ジファン君(17)は、「社会問題に関心もなかったし、よく知りもしなかったけど、尹前大統領が非常戒厳を宣布したのを見て腹が立って」、昨年12月7日に初めて集会に参加した。その日から30回ほど広場で人々の声を聞いた。「私が何気なく日常を生きている間にも、ある人は高空で座り込み、女性は性犯罪の被害にあい、障害者は移動することさえ難しいということを知ったんです」。大統領選挙後の社会にミン君が望むのは、広場で学んだことと関係している。ミン君は「労働権を誰に対しても保障し、女性が安全に生きていける、差別のない平等な社会を作る大統領が登場すべき。広場を代表する議題の一つだった差別禁止法の制定も絶対に必要だ」と述べた。

 「広場市民」がハンギョレに語った新大統領に望むことは、ほぼ本人の問題を脱して広場で出会った市民の生にかかわるものだった。アイデンティティーを明かしても安全だった広場の雰囲気の中で、多くのマイノリティーが自身の問題を語り、それに共感したことが大きく影響していた。ミン君は「弱者とマイノリティーは、自分が思っていたよりはるかに冷たく恐ろしい世の中で生きているということを知って、大きな衝撃を受けた」と話した。広場で自身をフェミニスト社会人だと紹介し、発言に立ったチョン・ダウンさん(27)も、「語られたことが『彼らの問題』ではなく『みんなの問題』だととらえられた。自然と自分との直接的な関連がなかったり、よく知らなかったりした社会問題や人々の生に関心を抱くようになった」と話した。

 内乱事態がもたらした衝撃と弾劾局面であらわになった深刻な社会対立が呼び起こした願いも強かった。高校2年生の娘を持つ父親であり、「開かれた軍隊のための市民連帯」で活動するパク・ソクチンさん(56)は、「これまでは軍隊と平和のような言説を語りながらも、『社会は変わっていっているのか』と疑問を抱いていたが、広場の市民たちが内乱の再発を防ぐために軍隊にも民主主義と平和が必要だという声をあげるのを見て、希望を見出した。聖域視されてきた軍隊も、今回の事態を機として平和を渇望する市民たちの統制下にあるべき」と述べた。

 仁川(インチョン)で塾を経営し、授業すら延期して集会に参加してきたキム・ブミさん(56)は、尹前大統領の支持者の極端な行動を前にして挫折したことで、新しい大統領に対する希望を膨らませたと話した。キムさんは「広場で尹前大統領の支持者たちに悪態をつかれたり暴行されたりしたことで、仲間の市民と争うということそのものにとても心が痛んだ。自分と考え方が違うという理由で市民を極と極に分裂させたのがこの3年の結果だろう。容易ではないだろうが、このような憎悪政治を克服する方法を探ることこそ新大統領に最も求められる課題」だと話した。

みんなの願いは大統領選挙のどこに

 重度障害を持つ女性で大学院生のウィ・ユジンさん(25)は、障害者である自身のアイデンティティーを歓待し、心配してくれた広場と、大統領選挙局面での議論のテーマとの隙間にいらだちを感じていた。ウィさんが昨年12月に「戒厳が解除されていなかったら部屋の中で一人で死んでいたかもしれない」という障害当事者としての恐怖を語った瞬間、広場では共感のこもったペンライトの光が揺れた。「『バックラッシュ』を心配しながら舞台に立ったけど、多くの方がこたえてくれて、安国(アングク)駅での障害者移動権デモにも参加してくれるのを見て、障害者権は当事者である私たちだけが重要だと考えていたテーマではなかったということを感じました」

 だが、共に民主党のイ・ジェミョン候補と国民の力のキム・ムンス候補が提示した10大公約には、障害者はもちろん農民、女性、労働者、性的マイノリティーなどの、広場の主役と考えられていたマイノリティーが見えない。ウィさんは「公約を見ると経済成長の話ばかりが主をなしていて、社会的マイノリティーの議題は依然として周辺部、付け足しへと追いやられていると思った」と話した。1月に「気候危機を心配する市民」と自己紹介して舞台に立った会社員のチョ・ウンへさん(35)も、「性的マイノリティー、女性、障害者、労働者の声が、どれもよく見えない。人工知能、半導体、先端産業ばかりを語っているのがもどかしい」と話した。

 大統領選候補の視線がバラック村や市場を訪れるという形式行為にとどまらず、政策的にも低いところにとどまることを願う声も強かった。ソウル東大門区(トンデムング)の露店商のチャン・インスクさん(56)は、広場でホームレス、バラックの住民、都市貧民の境遇を聞いた。「広場に行くまでは自分がいちばん低いところにいると思っていましたが、もっと大変な人も多かった。選挙の時に苦しんでいる人のことを考えているふりをするだけでなく、実際にホームレスやバラックの住民のような弱者を崖っぷちに追いやらない政府が必要です」。今回の大統領選挙を前にしても、候補たちはさんざんバラック村や市場などを訪ねているが、2人の有力政党候補はいずれも10大公約で「貧民」問題に言及していない。

22日に取材に応じたソウル東大門区の露天商、チャン・インスクさん(56)が、3月の集会で舞台に立った際に手にしていた横断幕を掲げている=コ・ナリン記者//ハンギョレ新聞社

 多様な人々の問題を学び、目覚め、共に解決することを誓った広場の願いが薄れた大統領選挙を前にして、市民たちは政界に改めて訴えた。「どの候補が大統領になろうが、広場に大きな借りがあるという気持ちを忘れてはなりません」(パク・ソクチンさん)。「広場から発せられた暮らしの声を一つも欠かさず傾聴し、政策に反映しなければなりません。8年前の政権交代以外の社会大改革には失敗してきた経験をぜひ振り返ってほしい」(チョン・ダウンさん)

コ・ナリン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1199501.html韓国語原文入力:2025-05-27 05:00
訳D.K

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