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最高裁に遮られた正義…「司法クーデター」は立法府が阻止すべき=韓国

登録:2025-05-06 06:44 修正:2025-05-06 08:08
[ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏] 
尹前大統領の釈放とイ候補に対する拙速判決、「司法クーデター」の兆し 
尹前大統領の選挙過程における虚偽事実の言及は捜査すらせず 
裁判官の弾劾、刑事訴訟法・選挙法の改正を躊躇してはならない 
ソウル瑞草区の最高裁判所/聯合ニュース

 「我々は5つのクーデターを経験している。

 第一に、親衛クーデターだ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が軍を動員してクーデターを起こした。 国会の迅速な非常戒厳解除決議、市民の抵抗、軍と警察の消極的な任務遂行で防ぐことができた。

 第二に、世論クーデターだ。街にあふれ出た太極旗部隊と極右ユーチューバーたちが戒厳の擁護、弾劾反対世論を助長した。西部地裁への乱入事態と尹錫悦大統領の釈放で勢いが衰えた。

 第三に、憲法裁クーデターだ。ハン・ドクス大統領権限代行は、国会が推薦した憲法裁判官3人の任命を拒否し、憲法裁判所を無力化しようとした。尹錫悦大統領の罷免を阻止しようとしたのだ。

 第四に、司法クーデターだ。裁判所が内乱首謀者を釈放した。大統領選挙前に拙速裁判でイ・ジェミョン(共に民主党大統領選)候補の政治生命を終わらそうとした。控訴審の無罪宣告で難しくなったが、裁判所はまだあきらめていない。

 第五に、政治クーデターだ。尹錫悦大統領と親尹錫悦勢力は、ハン・ドンフン代表を排除することで、「国民の力」に極右勢力の政治的基盤を整え、永久に政権を握ろうとしたが、失敗した。今度はハン・ドクス権限代行を前面に出して、党内外の保守勢力を結集している」

 最大野党「共に民主党」の関係者が、昨年の12・3非常戒厳以降に起きている政治状況をこのようにまとめました。一理ある分析です。同関係者は、司法クーデターと政治クーデターは現在進行形であると診断しました。

ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏//ハンギョレ新聞社

 「政治クーデター」が与党「国民の力」支持者や保守派有権者の関心事である一方、「司法クーデター」はすべての人の関心事です。圧倒的1位の大統領選候補が6月3日の大統領選挙に出馬できるのか、大統領当選後も裁判を続けるのか、有罪確定判決が出れば大統領を辞任しなければならないのか、一つひとつがとてつもない爆発力を持っています。

 法律は政治を支える装置です。政治が優先であり、法律はその次です。ところが、いつからか法律が政治を締めつけるようになっています。破壊しています。

 法律を知らなければ政治を理解するのが難しくなりました。政治部の記者も法律について知らなければ記事が書けなくなりました。政治の二極化と政治の司法化によって現れる弊害です。

■6月3日までに被選挙権を剥奪する判決が出たら

 5月1日、最高裁(大法院)の全員合議体が共に民主党のイ・ジェミョン大統領選候補の選挙法違反事件を有罪と判断して破棄し、高裁に差し戻しました。ソウル高裁は翌日、事件を刑事7部(イ・ジェグォン裁判長)に割り当てました。直ちに初公判日が5月15日午後2時に指定され、召喚状と訴訟記録受付通知書が発送されました。まさに「超スピード」です。5月15日は、大統領選候補たちが候補登録を終え、本格的に選挙運動を行う時期です。

 イ・ジェミョン候補が裁判に出席しなければ、裁判所は公判日を再び指定します。再指定した日にも被告が出席しなければ、弁論を終結し、判決を言い渡すこともできます。初公判日の翌日である5月16日に判決が出る可能性もあるという意味です。

 高裁が5月16日に100万ウォン(約10万円)以上の罰金刑を言い渡した場合、イ・ジェミョン候補は再上告するでしょう。刑事訴訟法第374条が定めた上告期間は7日です。7日を計算する際、刑事訴訟法第66条に基づき、判決を言い渡した当日は除きます。5月23日までに上告すれば良いのです。

 上告すれば、最高裁は刑事訴訟法第378条に基づき、訴訟記録を受け付けたことを通知しなければなりません。この通知にも送達の手続きが必要です。被告は刑事訴訟法第379条1項に基づき、20日以内に上告理由書を提出しなければなりません。上告当日に送達が行われたとしても、大統領選挙後の6月12日までに上告理由書を出せば良いのです。

 最高裁が刑事訴訟法を無視して上告理由書なしに6月3日以前にイ・ジェミョン候補の被選挙権を剥奪する確定判決を下すことができるでしょうか。そのようなことが実際に起きたら、最高裁はもはや司法府とは言えなくなります。大韓民国はこれ以上国家とは言えなくなります。市民革命と流血事態が起きるでしょう。

 このような事態を防ぐためには、最高裁が確定判決を下すために宣告期日を指定する瞬間、国会が速やかに最高裁判事を弾劾訴追しなければなりません。そうしてこそ「司法クーデター」を防ぐことができます。

チョ・ヒデ最高裁長官をはじめとする最高裁判事らが5月1日午後、共に民主党のイ・ジェミョン大統領選候補の公職選挙法事件に対する全員合議体の宣告のため、ソウル瑞草区の最高裁大法廷に着席している=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 イ・ジェミョン候補の大統領当選後も問題は続きます。裁判が開かれ、懲役刑や100万ウォン以上の罰金刑が確定すれば、大統領職を退かざるを得ません。公職選挙法第264条(当選者の選挙犯罪による当選無効)を根拠に、「当選選挙」の犯罪ではないため、辞任する必要がないと言う人もいますが、間違った主張です。

 公職選挙法第266条(選挙犯罪による公務担任などの制限)は虚偽事実公表罪で「懲役刑を受ければ10年間、100万ウォン以上の罰金刑を受ければ5年間、『次の各号の一つに該当する職』に就任できず、すでに就任または任用された者はその職から退職される」と定めています。

 「次の各号の一つに該当する職」には「国家公務員法第2条(公務員の区分)に規定された国家公務員」が含まれます。国家公務員法第2条は「選挙で就任する政務職公務員」を「特殊経歴職公務員」に分類します。大統領もこれに当たります。

 したがって、6月3日にイ・ジェミョン候補が大統領に当選すれば、直ちに「現職大統領に対する裁判を継続できるのか」に大きな注目が集まるでしょう。6月3日より前に破棄差し戻し審を担当するソウル高裁が判決を言い渡さなければソウル高裁が、判決を言い渡した場合は再上告審の最高裁が、憲法第84条大統領の不訴追特権に「すでに進行中の裁判の進行」が含まれるのか否かを判断しなければなりません。

 もし裁判所が裁判を続けることを決めたら、どうなるでしょうか。第一に、大統領が裁判所を相手に憲法裁判所に権限争議審判を起こす案があります。第二に、現職大統領に対する裁判は公訴を取り消すか、在任期間に公判を中断するよう刑事訴訟法を改正する案があります。もし裁判所が違憲法律審判を提請すれば、憲法裁判所で違憲の可否を判断すれば良いのです。

共に民主党のイ・ジェミョン大統領選候補が5月1日、ソウル鍾路区のある屋台食堂で「あなたの一日を作る見えない英雄たち」というテーマで配達ライダー、宅配運転手など非典型労働者たちとの懇談会を行っている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

■大統領不訴追特権のない米国でもトランプ大統領の裁判中止

 韓国と同様に大統領制国家である米国は、この問題をどう解決したのでしょうか。米国の憲法には大統領の不訴追特権条項が存在しません。

 しかし、昨年11月にドナルド・トランプが大統領に当選すると、米国検察は裁判所に裁判手続き中止要請書を提出しました。トランプ大統領は2016年の大統領選挙当時、自分との関係の「口止め料」として元ポルノ映画俳優に金銭を渡し、会社の帳簿には別の用途で記載した疑いで有罪評決を受けた状態でした。

 検察の裁判中止要請の理由は「大統領の職務を尊重し、これに伴う重大な義務のため」ということでした。裁判所は「平凡な市民としてドナルド・トランプは刑事被告として有罪だが、大統領に当選した人物として被告を判決の深刻性から保護する理由がある」として、量刑免除の判決を下しました。主権者である国民が大統領を選出し権力を委任する大統領制の特性を考えれば、あまりにも当然の判決です。

 韓国の検察と裁判所が米国のように判断するでしょうか。そんなはずはありません。韓国の検察と裁判所、多数の検事と判事は司法カルテルという既得権勢力の一員です。

■尹錫悦を守るために捧げた不告不理の原則

 実はイ・ジェミョン候補の選挙法違反事件は、検察の起訴段階から間違っていました。「不告不理」という言葉があります。刑事訴訟法で公訴提起がない限り、審理ができないという原則です。検察は、尹錫悦前大統領が選挙過程で並べた数多くの虚偽事実については、起訴どころか捜査さえしませんでした。検察の持つ起訴便宜主義、起訴独占主義のためです。イ・ジェミョン候補を選挙法違反で起訴したのは、検察総長出身の大統領と検察が手を組んで行った「野党弾圧」です。

 政治家たちにも非があります。第16代総選挙を控えた2000年2月16日、与野党は公職選挙法第250条(虚偽事実公表罪)第1項の「当選目的の虚偽事実」を「所属や身分、職業、財産、経歴など」から「出生地、身分、職業、経歴など、財産、人格、行為、所属団体など」に大幅に拡大しました。政治家たちの嘘を徹底的に防ぐためだったと思いますが、結果的に検事と判事たちに政治家の生殺与奪の権利を与えた格好になりました。

 最高裁がイ・ジェミョン候補を有罪と判断した部分がまさに「行為」に関する虚偽事実公表です。世界的に虚偽事実の範囲をこれほど広く定めた国はほとんどありません。したがって、公職選挙法を改正して「行為」を削除する必要があります。

 公職選挙法をこのように改正すれば、裁判所が免訴判決を下さなければなりません。「イ・ジェミョンのための立法」という非難が高まるでしょうが、それでも改正すべきです。ちなみに「人格」は2015年12月24日の公職選挙法改正の際に削除されました。

5月1日、ソウル瑞草区の最高裁で開かれた共に民主党のイ・ジェミョン大統領選候補の公職選挙法違反事件の上告審判決に出席し、唇を引き結んでいるチョ・ヒデ最高裁長官/聯合ニュース

 まとめます。私が述べたこのすべての内容は、6月3日の大統領選挙でイ・ジェミョン候補が当選することを前提にしたものです。イ・ジェミョン候補が落選すれば、この複雑な論争は意味がなくなります。

 最高裁全員合議体の判決が世論に与える影響はまだわかりません。イ・ジェミョン候補を支持した中道層の一部の支持を留保し、「支持候補なし」だった保守層が結集するものとみられます。ちょうど国民の力の候補決選投票期間だったので、保守層が(世論調査で)過度に代表される可能性もあります。6月3日まで30日を切りました。どうなるのでしょうか。イ・ジェミョン候補は当選するのでしょうか。皆さんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1195688.html韓国語原文入力:2025-05-05 15:41
訳H.J

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