9人の命を奪ったソウル都心での交通事故の運転者が60代後半であるという事実が明らかになり、高齢運転者の免許資格について論議を呼んでいる。専門家らは、交通弱者でもある高齢者の免許資格を制限するよりも、自動緊急ブレーキ装置(AEB)の普及など、技術的な代案を考える必要があると指摘した。
今回の事故の運転者のC氏は今年で満68歳で、道路交通法の施行規則上の「高齢運転者」に該当するが、一般の運転者よりも厳格な資格維持の検査を定期的に受ける職業運転手でもある。事故の原因を運転者の年齢だけに求めることは断片的なアプロ―チだとする指摘が出ているのもこのためだ。3日、大邱慶北科学技術院のソン・ジュヌ研究員はハンギョレの電話取材で、「68歳の現役のバス運転手を高齢者とみなすには無理がある。海外の事例をみても、年齢を基準に運転を制限する場合、高齢者の移動権の問題や社会的孤立による健康悪化などの悪影響も生じるだろう」と述べた。運転を職業とする高齢者も多いため、これは生計にも直結する問題だ。
「高齢であるほど交通事故を多く起こす」というのも語弊がある。ここ5年間でみると、交通事故の全件数は毎年減っており、65歳以上の高齢運転者の事故の割合が2019年の14.5%から2023年には20%に上がっているのは事実だ。しかし、65歳以上の高齢者人口自体が急激に増えたことから事故件数も増える「人口効果」を考慮しなければならない。実際の運転免許所持者数に対する事故の割合を確認すると、最も事故を起こす年齢層は20歳以下であり、年齢と事故の割合は比例関係を示さなかった。
そのため、年齢に関わらず車両に先端の安全装置装着を義務づけることが、事故のリスクを減らせる案として議論されている。センサーを通じて障害物を認識し、ブレーキを自動作動させる「緊急ブレーキ装置」が代表的だ。まだ韓国では普及していないが、周辺に障害物が感知される際にアクセルを踏むと燃料を自動遮断する「アクセル踏み間違い防止安全装置」もある。
海外では新車に先端安全装置の設置を義務づける事例が少なくない。欧州連合(EU)は今年7月から、すべての新車に自動ブレーキ装置や後退時アシスト装置などの安全装置の装着を義務化しており、高齢運転者が多い日本も同様に、2021年から新車に自動ブレーキの装着義務化を、先月にはAT車に限りアクセル踏み間違い防止装置の設置も義務化した。
問題は古い車だ。韓国も昨年1月から新たに出る新車には自動ブレーキの装着が義務化されたが、すでに市中に出回っている古い車両は該当しない。高齢運転者を対象に、車両に自動ブレーキを設置すると補助金を支給する地方自治体もあるが、現時点では政府レベルでの普及対策はない状況だ。サムスン火災交通安全文化研究所のチャン・ヒョソク責任研究員は「高齢運転者は新車よりも年式が古い車両を使っているため、自動ブレーキの未装着率が高い」とし、「新車でも中古車でも、自動ブレーキが装着された車両を購入できるよう誘導する必要がある」と述べた。
専門家らは、政府レベルでの財政支援を通じて、先端安全装置の普及を進める必要があると助言した。大徳大学のイ・ホグン教授(自動車学)は「自動ブレーキなどを装着する場合に、政府が補助金を出したり保険料を割引するなどの財政的支援策を用いる手法など、総合的な対策を検討する必要がある」とし、「高齢運転者の場合、安全装置を装着することを条件に運転免許の更新をするなどの誘導策が必要だ」と述べた。