今月8日、大阪市西天満の事務所で丹羽雅雄弁護士(朝鮮高級学校無償化裁判大阪弁護団長)にインタビューを行った。丹羽弁護士は日本の代表的な人権弁護士。
-朝鮮学校の法廷闘争に取り組んだきっかけは?
「2010年に、大阪にある朝鮮学校の関係者が訪ねてきて相談を受けたんです。当時、大阪府の橋下徹知事が『北朝鮮という国は暴力団のようだ』、『北朝鮮と関係を持つ学校や施設は相手にしない』と述べて補助金の打ち切りを決めました。補助金打ち切りに続き、10校の朝鮮高級学校が高校無償化制度から除外されました。相談を受けた時は大阪弁護士会の役員だったので事件は引き受けられませんでしたが、役員を辞めた後に弁護団を結成して市民と共に法的に対応しようと提案しました。訴訟にかかる費用は、財政的に厳しい朝鮮学校からは受け取らないことにしました。市民が寄付金を集めるとともに裁判が本格化したんです」
-法的にどのようなことに焦点を当てたのですか。
「日本政府は、朝鮮学校は総連と密接な関係があり、支援金が別の用途に使われる恐れがあると主張しました。朝鮮学校が『総連の不当な支配』を受けているという根拠を示すためでした。私たちは、朝鮮学校は民族教育を目的とする学校法人であるため、母国語と母国の歴史・文化の教育は民族教育にとって重要な意味があるということを強調しました。また『教育の機会均等原則』を掲げました。国連が教育差別を禁じていることも強調しましたね。平等に教育を受ける権利、自分が望む学校を選択する自由も私たちの主張の根拠としてあげました」
-大阪地裁での一審判決は唯一の勝訴です。裁判当日はどうでしたか。
「私たちより先に一審の終わった広島では敗訴しています。だからかなり緊張しました。傍聴席のいちばん前にはチマチョゴリを着た生徒たちが座っていました。生徒を標的とした攻撃のせいで今や学校の外では着られなくなったその制服をカバンに入れてきて、裁判所で着替えて法廷に入ってきた生徒たちでした。息づかいさえ聞こえない重い沈黙が流れた後、裁判官が主文を読みあげはじめました。私のような弁護士は、主文の最初の部分で裁判の結果が直感的に分かるんです。『勝った!』 まもなく女子高生たちが立ち上がって抱き合うのを見て、民族と国籍を越えた共通の感情を感じることができました」
-勝てたのはなぜだとお考えですか。
「まず、朝鮮学校の保護者と生徒たちが非常に助けてくれました。裁判官に子どもたちの気持ちを伝えるとともに、教育を受ける権利を示そうとしてきました。そのために朝鮮学校のすべての保護者と生徒を対象にアンケート調査を行いました。アンケート調査には、なぜ朝鮮学校を選択したのかなどの他、学校の良いところや良くないところなど、客観的な内容も多く含まれていました。弁護団は連絡会や朝鮮学校の関係者たちと模擬裁判も行いました。模擬裁判では、以前からこの問題をよく知っている方々は日本政府の立場から敗訴主張を、この問題をよく知らない方々は勝訴主張を展開しました。模擬裁判を通じて弱い部分をあぶり出し、論理をしっかり固めていきました。いつも終わったら必ず打ち上げ(笑)。韓国の市民団体の声明も証拠として提出しました。朝鮮学校は日本だけの問題ではなく、南北関係なく誤った戦争と歴史の問題だということを裁判所に理解させるためでした。これにより、在日同胞の教育問題に韓国は関心がないというイメージも払拭することができました」
-大阪の一審判決も最高裁で覆され、すべて敗訴しました。
「普遍的な人権の視点からみると非常に残念です。逆に韓国最高裁は、強制動員の被害者が日本企業を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で2018年10月に原告勝訴の判決を下しました。『日本の朝鮮半島支配は違法であり、違法占領は韓日請求権協定の適用対象ではない』というのが肝ですよね。人権という面で意味のある判決でした。しかし日本の司法府は、このような歴史的な認識にもとづく判決を下すことができなかったと思います。非常に残念です」