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尹大統領、検事時代の言葉使い直らず…韓国社会の「言葉の品格」が危うい

登録:2023-06-19 03:34 修正:2023-06-19 08:56
ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏 
 
論理があり傷つけない言動は 
言葉で行う政治の基本徳目だが 
「被疑者に屈辱」与えた習性は相変わらず 
「荒っぽい言葉使い」社会的拡散懸念
尹錫悦大統領が13日、ソウル龍山の大統領室で行われた第24回国務会議で発言している=ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社

 「身言書判」という言葉があります。中国唐代の官僚の抜擢(ばってき)基準です。容貌が秀でており、弁が立ち、文章がうまく、判断力が正確だというような意味でしょう。

 「四宜斎(サウィジェ)」という言葉があります。朝鮮時代の儒学者、茶山丁若鏞(タサン・チョン・ヤギョン)が全羅南道の康津(カンジン)に配流されたときに住んでいた家です。「4つのことを当然なすべき所」という意味です。考え方は淡白であるべし、容姿は厳粛であるべし、言葉は控えるべし、行動は慎重たるべしということです。文在寅(ムン・ジェイン)政権の大統領府の元参謀、長官、次官が今年初めに作った政策フォーラムの名でもあります。

 身言書判と四宜斎にはどちらも「言葉」が含まれています。言葉の重要性は昔も今も変わりません。特に政治家は弁が立たなければなりません。政治は言葉で行うものだからです。

 政治家の言葉は正直でなければなりません。真実が込められていなければなりません。華やかでなくても理路整然としていて、品位と説得力がなければなりません。核心を突いていながらも他人を傷つけてはなりません。実に難しいですよね。

「四宜斎」の教訓とは程遠い尹大統領

 大韓民国の最高位の政治家である尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の言葉使いはどうでしょうか。尹大統領は話し好きです。歴代のどの大統領よりも口数が多い。ためらうことなく堂々としています。表情はいつも自信に満ちています。だからでしょうか。行き過ぎがよくあります。過ぎたるはなお及ばざるが如しです。

 今月13日にテレビで生中継された国務会議での発言がそうでした。共に民主党のクォン・チルスン首席報道担当による天安艦艦長に対する侮辱問題に言及したものでした。

 尹大統領は「英雄たちの犠牲と献身を記憶し礼遇することは、国民主権主義と自由民主主義をうたった憲法精神の実践だ」とし、「英雄たちの犠牲と献身を歪曲し、おとしめることがあってはならない」と語りました。ここでやめていたら問題はなかったでしょう。

 ところが「このような行為は大韓民国の国家アイデンティティを否定する反国家行為」だと述べたのです。反国家行為ですって? 言い過ぎです。

 尹大統領は、民間団体に対する補助金の監査結果については「途方もない不正が摘発された。横領、リベート授受、虚偽受領、私的使用、書類ねつ造など、不正の形態も様々だった」と述べました。地方教育財政交付金の合同点検については「学齢人口は減っているのに、税収が増加して教育交付金が急激に増加している中で補助金は乱発され、検証と管理が全く行われていないため不正の土壌となっていた」と語りました。そう言うことはできるでしょう。

 ですが「国民の血税が政治ポピュリズムの餌食となり、前政権だけで400兆ウォン(約44兆2000億円)も国家債務が膨らんだ。これは納税者に対する詐欺行為であり、未来世代に対する搾取行為」だと述べました。文在寅政権が納税者に詐欺をはたらき、未来世代を搾取したというのです。

 行き過ぎな発言だと思いませんか。パンデミックで生存の危機に瀕していた国民のために財政拡張が不可避だったことは、わざと無視しているのでしょうか。

 尹大統領は先日、韓中関係について、「韓中関係は常に相互尊重と友好増進、共同の利益の追求という大原則をもってやってきている」と述べました。ここまででやめておけば、ちょうどよかったのですが。

 ところが、ケイ海明駐韓中国大使の最近の発言を「不適切な振る舞いを国民は不快に思っている」と非難したのです。大統領が一介の大使の発言を自ら非難したことで、大統領の格も落ちてしまいました。与党のユン・サンヒョン議員が「大統領がまるで外交争いの前面に立ったような格好」だと言ったほどです。

 尹大統領の多弁と万機親覧(君主がすべての政治にかかわること)は、検事時代から形成されてきた言語習慣です。部長検事、ソウル中央地検長、検察総長の時代には、部下たちと2時間かけて夕食を共にしたとすれば、1時間50分間は一人で喋っている、そういうタイプだったそうです。彼の部下として仕えていた検事たちの証言です。茶山丁若鏞の四宜斎の教訓とは正反対の姿です。

言葉で屈服させようとするハン長官

 言葉数が多く、言葉がとげとげしいことに関しては、ハン・ドンフン法務部長官も尹大統領に負けていないようです。ハン長官は今月12日に国会本会議場で、民主党を離党したユン・グァンソク、イ・ソンマン両議員に対する逮捕同意要請の理由を説明しました。

 民主党の議員たちの多くがハン長官のせいで反対票を投じたというのはよく聞く話です。民主党議員が逮捕同意に対する反対の理由をハン・ドンフン長官のせいにしたのは卑怯なことです。

 しかし、ハン長官が一体何と言ったのかを見る必要があります。最後の部分が問題でした。

 「本日表決される犯罪事実の核心は、『民主党の党代表選挙でソン・ヨンギル候補を支持する対価として、民主党の約20人の国会議員に現金封筒を配った』ということです。その犯罪事実に従えば、論理上、必然的にその封筒を受け取ったと目される約20人の民主党の国会議員が『ここ』にいらっしゃり、表決にも『参加』することになります。最近の逮捕同意案の採決結果を見ますと、そのおよそ20人の票は採決の結果を左右する『キャスティングボート』になるものとみられます。『現金封筒を配った疑いが持たれている人たちの逮捕の可否を、現金封筒を受け取った疑いが持たれている人たちが決めること』は、公正でもなく、公正にも見えません。国民も同じ考えだと思います。今や国民はこのような状況をすべて知っており、この重要な表決の過程と結果を見守っていると思います」

6月12日の国会本会議で、ハン・ドンフン法務部長官がユン・グァンソク、イ・ソンマン両議員に対する逮捕同意要請の理由を説明している/聯合ニュース

 いかがですか。ハン長官の発言は適切だったと思いますか。 私には不適切だったように思えます。

 ハン長官は「逮捕同意案を否決すれば現金封筒を受け取った議員のせいだと国民は考えるだろうから、民主党議員は素直に賛成票を投じよ」と言いたかったようです。民主党議員を屈服させようとしたのです。民主党議員はおそらく侮辱されたと感じたでしょう。

 長官は高度な政治的判断や政策決定を行う政務職公務員です。大統領に劣らず重要な政治家です。自分の言葉と行動に対して政治的責任を取らなければなりません。民主党議員の逮捕同意案への反対表決とは離れて、深く考えてみるべき問題です。

 言葉が「きつい」のは大邱市(テグシ)のホン・ジュンピョ市長も負けていません。ホン市長は4月9日に文化放送の「100分討論」に出演し、「政治力がなく初心者である大統領を選んでおいて、老練な3金(金泳三、金大中、キム・ジョンピル)政治のような対話と妥協をしてほしいというのはナンセンス」だと述べました。その通りですが、尹大統領がこれを聞いたら気を悪くするでしょう。

 ホン市長はかつて、自身と仲の悪い党内の政治家に対して「ゴキブリ」「膿(うみ)」「がんの塊」などの毒舌を浴びせたこともあります。

ホン・ジュンピョ大邱市長が5月11日、大邱市役所東仁庁舎の記者室で懇談会を行っている=大邱市提供//ハンギョレ新聞社

強大な権限、言葉で屈服させようとする検事

 どうしてこうなのでしょうか。尹大統領、ハン長官、ホン市長の共通点は何なのでしょうか。

 元検事、それも特捜部の元検事だということです。検事は誰もが言葉使いが荒っぽいのでしょうか。そんなはずはありません。ほとんどの検事はまったくそうではありません。

 しかし、自ら捜査を行う特捜部の検事たちは、その可能性が高いのは事実です。理由があります。

 第1に、特捜部検事の持つ強大な権限です。検事も人間です。国が一時的に与えた権限を自らの権力や能力だと勘違いしやすいのです。

 第2に、一種の「捜査技法」かもしれません。かつて検察には、被疑者に屈辱を与えて口を割らせるために、意図的に暴力的な言葉や罵詈雑言を浴びせる検事たちがいました。

 慶北大学法学専門大学院のキム・ドゥシク教授は、2009年に『不滅の神聖家族』という著書を出版しています。同書によると、1990年代半ば、建設工事の施行者だったミョン・ソンフン社長は、検事にひどい罵詈雑言を浴びせられたうえに緊急拘束されました。その後、彼は心境を次のように明らかにしました。

 「私もこれまで事業をしてきて、いつも会社に行けば社長、社長と言われ、社会活動もしていたため、それなりに人としての待遇を受けていたんですが、生まれて初めてあのような目に遭い人間以下のものとして扱われると人はおかしくなるんですよ。確かに真っ暗な夜なのに、視野が白く見える。瑞草(ソチョ)警察署まで歩いていったら、人が通り過ぎる様子が白い板に灰色の人が歩いているように見えるんです」

 お分りでしょうか。私はかなり前に社会部で法曹界に出入りしていた時、特捜部の検事たちが暴力的な言葉や荒々しい罵詈雑言で高位公職者や企業家たちの口を割らせたという「武勇伝」をよく聞きました。あの時はそのような検事たちが格好よく見えたりもしたものです。今思えば、そのような検事も私のような記者も情けない人たちだったと思います。恥ずかしいことです。

 まとめます。先日、「正教会(社会正義を願う全国教授の会)」という団体が、ケイ海明中国大使と対面した民主党のイ・ジェミョン代表を批判する声明を出しました。ですがそのタイトルは「民主党のイ・ジェミョン代表、チャジャン麺(韓国のジャージャー麺)は喉を通ったか」でした。びっくりしました。2018年9月、平壌(ピョンヤン)を訪問したサムスン電子のイ・ジェヨン副会長ら韓国企業のトップたちが、食事中に北朝鮮の祖国平和統一委員会のリ・ソングォン委員長に「冷麺が喉を通りますか(こんな状況でのうのうと冷麺を食べられるのかという皮肉の意味合い)」と暴言を吐かれたことがあります。南北経済協力がなかなか進まないことに対する不満だったといいます。私は当事者でもないのに、記事を読んで侮辱されたと感じた記憶があります。

 実に心配です。どうして韓国の大学教授の言語水準が北朝鮮の当局者の意図的な暴言の水準にまで落ちてしまっているのでしょうか。情けない限りです。もしかしたら、大統領をはじめとする主要政治家の言葉使いが日を追うごとに荒くなっていることと関係している現象なのではないでしょうか。みなさんはどう思われますか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1096381.html韓国語原文入力:2023-06-18 08:00
訳D.K

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