2022年10月29日、ソウル龍山区梨泰院(イテウォン)で156人が死亡し、198人が負傷する惨事(11月9日23時現在)が発生した当時、路地の密度は1平方メートル当たり6人を超えたものと推定される。惨事が起きた路地の登記簿上の広さは160平方メートルなのに、当時は1千人以上の人が集まっていた。もしあの路地に1千人がいたとすれば、密度は1平方メートル当たり6.25人。専門家たちは1平方メートルに6人以上なら圧死事故が起きる可能性が高いとみている。
大混雑の地下鉄、遊園地、コンサート会場
このような危険な密集は、ソウルではそう珍しくない。代表的な状況が地下鉄だ。ソウル地下鉄の1両の定員は160人で、室内の広さは55平方メートルなので、1平方メートルに2.9人が適切な状態だ。ところがソウル地下鉄の2021年の最高混雑区間は民間企業運営である9号線の「鷺梁津(ノリャンジン)→銅雀(トンジャク)」区間で、定員の185%、1両に296人が搭乗していた(以下、平日通勤時間帯の最高混雑度)。この場合、密集度は1平方メートル当たり5.4人で、事故の危険性があるとされる6人に近づいている。また、地下鉄1~8号線の中で2021年に最も混雑した区間は4号線の「漢城大(ハンソンデ)→恵化(ヘファ)」区間で、定員の150.8%だった。1両に241人、1平方メートル当たり4.4人だ。
公共交通機関の利用者が急激に減ったコロナ禍以前は、さらに密集度が高かった。2011~2019年ソウル地下鉄で最も混雑した区間は2014年の9号線「塩倉(ヨムチャン)→堂山(タンサン)」区間で、定員の236%、一両378人だった。これは1平方メートル当たり6.9人で、梨泰院惨事の起きた路地の密度より高かった。1~8号線の中では、2013年の2号線の「舎堂(サダン)→方背(パンべ)」区間で202%だった。これは1両当たり323人、平方メートル当たり5.9人で、梨泰院惨事密度に近い水準だった。
このような殺人的密集は地下鉄だけでなく、ソウルのどこにでもある。週末の明洞(ミョンドン)中心街、ロッテワールドやエバーランドなどの遊園地、人気グループのコンサート会場周辺、北漢山(プッカンサン)などの週末の登山路、プロ野球試合時の蚕室(チャムシル)野球場、国家対抗戦時のワールドカップサッカー競技場、汝矣島(ヨイド)の桜祭りとソウル世界花火大会、新年に除夜の鐘を打つ普信閣(ポシンガク)などは人で溢れかえる。
実際、事故も起きた。2006年3月、蚕室ロッテワールド無料開放行事の際は11万人が殺到し、35人が負傷した。2000年12月の普信閣の除夜の鐘の時は6万人が殺到し、5歳の子どもが死亡、9人が負傷した。1992年、オリンピック公園体操競技場で開かれた米国のアイドルグループ「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」のコンサートでは、1万人以上が舞台の方に殺到し1人が死亡、60人以上が負傷した。
汝矣島花火大会を開くハンファのある関係者は「2000年から毎年開いており、かなり経験を積んできたが、あまりにも多くの市民が来場するため常に超緊張状態」だと語った。2022年10月8日、3年ぶりに開かれたソウル世界花火大会は100万人が集まり、警察官と消防士2700人など5700人が安全要員として配置された。
「過密な都市では事故の確率が高まる」
専門家たちは梨泰院惨事の背景の一つとして、ソウルの人口の多さと高い人口密度を挙げた。2021年末基準でソウルの人口は950万人、人口密度は1平方キロメートル当たり1万5699人。 ソウルの人口は韓国の他の6つの広域市より2.9~8.5倍多く、人口密度は3.6~14.8倍高い。
ソウルの人口は先進国の大都市の中で日本の東京(1404万人)の次に多く、人口密度はフランスのパリ(2万857人/平方キロメートル)の次に高い。しかし、東京はソウルより3.6倍も広く、パリの人口は219万人に過ぎない。ソウルは世界的な大都市である米国のニューヨーク、英国のロンドン、ドイツのベルリン、ロシアのモスクワより人口が多く、人口密度が高い。過密な都市の代名詞である香港よりも人口が227万人も多く、人口密度も2.4倍に達する。
イ・ミンウォン元国家バランス発展委員長(光州大学名誉教授)は、「首都圏集中の弊害がこのような惨事をもたらした。過密な都市ではこのような事故が起きる確率がはるかに高くなる」と指摘した。ソウル市立大学のチョン・ソク教授(都市計画)も「政府が今回の惨事を契機にバランスの取れた発展を最優先課題にしなければならない。ソウルと首都圏で開発を中断し、地方への道を開かなければならない。引退が増えていっている第1~2次ベビーブーム世代(1955~1974年生まれ)はもちろん、若い世代も地方で暮らせるようにしなければならない」と語った。
人が押し寄せる現象は全国だけでなく、ソウルの中でも起きている。人口約1千万人のソウルでのイベントは、光化門(クァンファムン)、江南(カンナム)、汝矣島の3つの都心と弘益(ホンイク)大学前など、いくつかの場所に集中する。キム・サヨル前国家バランス発展委員長(慶北大学名誉教授)は、「今回の惨事をみると、若者たちは首都圏だけでなく地方からも梨泰院に集まった。文化においてもソウル中心主義が現れたもの。各地域、各都市に適切な文化拠点を作らなければならない」と述べた。
都心の過密現象を緩和するためには、各ソウル圏域の自足性を高める案も必要だ。現在、ソウルの3つの都心以外の地域はほとんどベッドタウンであるからだ。例えば、フランス・パリの「15分都市」(徒歩や自転車で生活に必要なすべての基盤施設にアクセスできる都市)は、各地域の自足性を高め、都市内の移動時間を減らそうとする政策だ。公共交通ネットワークのキム・サンチョル政策委員は「マンション集合地のように閉鎖的で単純な用途(住居地)ではなく、都心の複合ビルのように低層は商業・業務施設が入り、中高層は住宅が入る複合用途の新しい住居地が必要だ。このような都市が通勤時間も減らす」と話した。
光化門・江南・汝矣島以外にも「公共空間」を
都市に公共空間を確保していくべきだという指摘もある。洪水の時、河川水量を調節する流水地のように、都市の人々が集まるところにこれを収容する余白の公共空間が必要だということだ。シシハン研究所のチョン・ギファン代表(建築家)は「ソウルにも政府が所有している土地がかなりあるが、良い場所はすべて企業に売られた。都市の中心にあるべき公園や図書館は、利便性の低い場所に追いやられている。既存の住居地に公園や遊び場さえない場合も多い。市民がどこに住んでいても人間らしく暮らせる条件を政府が提供しなければならない」と述べた。
大量輸送手段である地下鉄への依存を減らすべきだという意見も出た。 2020年ソウルで地下鉄の輸送分担率は39.7%で圧倒的1位だ。地下鉄は駅周辺に人々の活動を集中させる傾向が強い。今回の惨事が起きた梨泰院の路地に人が集まったのも地下鉄の特性と関係が深い。チョン・ソク教授は「地下鉄は多額の資金を投入し、多くの人を早く移動させる過去の交通手段。持続可能性に限界がある。今や都市の交通手段もBRT(バス高速輸送システム)や自転車などへと多様化していかなければならない」と指摘した。