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「朝鮮戦争以降で最も厳しい時期、韓国の外交座標が見えない」(1)

登録:2022-10-26 02:49 修正:2022-10-26 08:54
ウィ・ソンナク朝鮮半島平和づくり財団事務総長インタビュー
朝鮮半島平和づくり財団のウィ・ソンナク事務総長が17日午後、ソウル城北区城北洞の同財団の事務所で本紙のインタビューに応じている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 朝鮮半島平和づくり財団のウィ・ソンナク事務総長は2年前、『韓国外交アップグレード提言』という本を出版した際、次のように発言している。「外交官として働いてきた36年の間、韓国外交は行政とイベントにばかり偏っているという問題意識を感じていた。政策と戦略中心へとアップグレードしなければならないという考えを持ち続けてきた」

 近ごろ韓国外交が直面している状況を見ると、同氏の2年前の提言はそのまま有効だ。北朝鮮をはじめ、東アジア情勢は危険な状況へと突き進んでいる。この危機は今後、韓国の経済と社会全般に大きな影響を及ぼすとみられるが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交戦略と方向性を信頼するのは容易ではない。また海外歴訪や首脳会談のようなイベントが順調に繰り広げられているわけでもない。

 本紙は17日午後、ソウル城北洞(ソンブクトン)にある朝鮮半島平和づくり財団の事務所でウィ・ソンナク事務総長にインタビューした。ウィ事務総長は、北朝鮮の核と4強外交を熟知する代表的な戦略通として知られる。2009年から2011年にかけて朝鮮半島平和交渉本部長として北朝鮮核問題を指揮し、2011~2015年には駐ロシア大使を務めた。

-先月30日に東海(トンヘ)で実施された韓米日3カ国の対潜水艦共同軍事訓練は熱い論争を巻き起こしました。歴史問題が解決されていないのに、旭日旗を掲げた日本の海上自衛隊と共同訓練をするのは性急すぎるという声が少なくありません。どうお考えになりますか。

 「まず韓国の周辺情勢から話しましょう。米中対立が史上最高点にあり、ウクライナ事態で米ロ対立も似たような状況にあるわけで、その影響が結局は国際社会全般に及んでいます。今や国際情勢には『米国・西側』対『中国・ロシア』という大きな対立戦線があり、東アジアも例外ではありません。このような構図において、韓国は米国・西側の方に立たざるを得ないでしょうね。そっちの方に行くしかないんですが、どの程度の強さで、またどのくらいの速さで行くのかという問題が残ります。その問題を判断するには、周辺情勢とともに日本の目指すところを見なければなりませんが、韓日関係では日本が少しずつ右傾化することで、歴史問題に対する評価が違ってきていますよね。そういった日本の目指すところまでよく考えた上で、スピードと強さを決めるべきだと思います。韓米日軍事協力を全面拒否し、ひたすら韓米同盟だけで新たな時代の秩序を乗り越えていくというのは現実的な判断ではないと思います。ただし、協力は避けられないものの、国民世論と歴史問題の解決のための努力もにらみつつ、スピードと強さを調節しなければなりません。日本の右傾化が韓国の目指すところとあまりにも合わないとみるならば、(韓米日軍事協力には)限界があると明確に考えるべきでしょう」

-朝鮮半島の軍事的緊張が高まっています。北朝鮮は韓国に対する戦術核運用の可能性を開き、最近は相次ぐミサイル発射実験や砲兵射撃を行い、挑発を強めていますが、誰も7回目の核実験を疑っていない雰囲気です。北朝鮮は究極的に何を狙っているのでしょうか。米国との交渉への復帰は望めないとみるべきでしょうか。

 「北朝鮮の意図を解釈するには、朝米首脳会談の話を少々する必要があると思います。今の北朝鮮の挑発は、ハノイでの2回目の朝米首脳会談の決裂の延長線上にあるからです。北朝鮮は、首脳会談は事前調整を行わず、首脳同士で談判するかたちになるよう推進します。金正恩(キム・ジョンウン)とトランプはいずれも予測が難しいスタイルの指導者ですが、シンガポールでの1回目の首脳会談ではトランプが北朝鮮の主張を非常に多く受け入れました。だから会談そのものは成果を出しましたが、米国としてはそれをそのまま履行することは無理だったのです。とにかく金正恩委員長は期待が極度に膨らんだ状態でハノイに行ったのですが、今度はトランプ大統領が非常に強硬な態度へと急変して北朝鮮の提案を断り、多くの注文をしたために交渉が決裂、その後遺症が今にまでつながっていると考えられるわけです。実は、きちんとした交渉にするためには、シンガポールでトランプは柔軟さをもう少し抑えるべきだったし、ハノイでは強硬さをもう少し抑えるべきだったと思います。そうすれば、北朝鮮を現実的判断へと一貫して導けたでしょう。

 その後、トランプはバイデンに交代し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は尹錫悦大統領に交代しました。北朝鮮としては、トランプ大統領の時も不満がいろいろあったが、今はもはや期待すべきものはないと考えているでしょう。だから余計に挑発しているのです。このような状況はかなり長く続くでしょう。核実験もするでしょうね。偶発的な衝突の可能性も心配です。ただし北朝鮮の過去のパターンから考えると、核やミサイル実験などで自分たちの力量を十分に誇示したと考えた時点で方向転換してもいます。力量を誇示することで、より大きなものを交渉で得ようというわけです。今回もそうである可能性がありますが、その時期とはいつなのか。私はバイデン後の新たな米国政権に照準を合わせているのではないかと思います。ですから今後2年間は挑発が続くわけで、危機が高まる可能性は高いと思います」

-北朝鮮は憲法に「核保有国」であることを明示し、このところの相次ぐミサイル発射で戦術核を運用しうる段階へと近づいていることを誇示しました。「北朝鮮の非核化」という目標を修正すべきだとする主張が保守陣営と国民の力からなされていますが、「非核化」は依然として有効だとお考えですか。

 「北朝鮮が戦略・戦術核を開発し、戦術兵器をもって韓国の具体的ターゲットを名指ししながら演習を行うまでに至り、また憲法にも明示していますから、非核化という目標の達成がはるかに難しくなったのは事実です。北朝鮮の非核化という目標は非現実的だから修正しようという声があがるのも当然です。ですが私は、韓国の元外交官であり、韓国の安保状況を心配する立場にあります。非核化という目標の修正には反対です。米国内部では非核化よりも軍縮を優先しようと主張しえますが、私は同意しません。難易度が上がってはいますが、非核化という目標を堅持しつつ、より多くの努力を傾けるべきだと思います。統一への道のりが厳しいからといって、統一を諦めるわけにはいかないでしょう。私は北朝鮮の非核化問題もそう考えるべきだと思います」

朝鮮半島平和づくり財団のウィ・ソンナク事務総長=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

-米国の戦術核を韓国に再配備し、「朝鮮半島非核化共同宣言」を廃棄しようとの主張まで、政権与党では公然となされています。核開発や戦術核の配備といった方策は実際に可能なのでしょうか。また望ましい方向性なのでしょうか。

 「結論から申し上げますと、私はその2つの方策に対して否定的な立場をとっています。まず、核武装せよとの世論が国民の間で高まっているのは事実です。世論調査を見ると核武装を支持する統計が多く発表されていますが、現実的に考えて核武装が果たして可能かどうかをみなければなりません。これは今まで私たちが主張してきた非核化論議を180度覆すもので、途方もない政治的な転換なのですが、韓国のように対外貿易への依存度が世界で最も高い国で、国際的な圧力と制裁に耐えつつそれができるのか、私はほぼ不可能だと思います。また、核開発を行うには国内世論がまとまっていなければなりませんが、韓国は核政策に大きな差がある二大政党が代わりばんこに政権を担当していますよね。ですから、私は核武装はオプションではないと思います。2つ目の戦術核を持ってくるという問題は、まったくオプションではないとは言いがたいですが、これもまた大いに現実性に欠けると思います。まず、みなさんご存知のように米国が同意しませんし、米国の主張は、核がどこにあろうと米国が輸送や発射を短時間で行えば済むのに、あえて韓国に置いておく必要があるのかというものです。そして戦術核を韓国に配備すれば、北朝鮮に非核化を求める大義名分が弱くなります。それは、北朝鮮の非核化はもはや追求せず、『恐怖の均衡』を追求するということですが、非常に危険です。また、中国とロシアが大きく反発する可能性が高い。中国やロシアは戦術核のことを、自国を狙ったものだと解釈して対応するでしょう。こうした様々なリスクを考えると、戦術核配備は現実的ではないと思います。

 ならば、残るオプションは結局ひとつです。米国の拡大抑止(核の傘)を強化し、これを確実なものにするのです。これまで米国は、拡大抑止は確実に実行するから安心しろというような原則論を述べる程度にとどまっていましたが、これをもう少し精巧で確実なものへと整える必要があります。拡大抑止に関する明確なメッセージが北朝鮮に対しても、また韓国国民に対しても、なければなりません。この2つがないと、韓国国内からは核武装論や戦術核の再配備論が飛び出すようになっています。例えば、核の運用は米国が決定するにしても、韓国により多くの発言権を持たせよう、それはNATO型かもしれないし、それとは異なる韓国型を作ることもできるし、多国間型の協議体を設置することもできると思います。とにかく今より精巧なものを作り、普段の訓練にもそれを反映しなければなりません」

-もう少し精巧な拡大抑止には具体的にどのような方策がありますか。朝鮮半島周辺に原子力空母を常時配備したり、核搭載の戦闘爆撃機を頻繁に来させたりするということをおっしゃっているのでしょうか。

 「例えば、核弾頭は米国のカリフォルニアなどの複数の基地に保管されていますが、発射は米国が決定するとしても、管理や運用作戦には韓国が参加して核の傘をより確実なものにすることは、ひとつの方策として検討しうるでしょう。欧州ではNATO加盟国が現地の戦術核を米国と共同保管しているケースがあります」(2へ続く)

パク・チャンス大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1064139.html韓国語原文入力:2022-10-25 13:54
訳D.K

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