「西海(ソヘ)公務員殺害」事件の核心人物であるソ・ウク前国防部長官が拘束されたことで、検察は文在寅(ムン・ジェイン)政権の大統領府の重要人物に対する取調べの準備を終えた。文在寅前大統領に対する調査の可能性も排除できない状況だが、これについてイ・ウォンソク検察総長は慎重論を展開した。
ソウル中央地裁のキム・サンウ令状専門部長判事は22日未明、「証拠隠滅および逃亡の恐れがある」としてソ前長官とキム・ホンヒ前海洋警察庁長の拘束令状を発行した。ソ前長官は2020年9月の海洋水産部の公務員イ・デジュンさん殺害事件の際に、軍事統合情報体系処理(MIMS)に記録された西海事件に関する60件の報告書を削除するよう指示した疑いが持たれている。また、大統領府国家安保室と共謀して「越北(北朝鮮に渡ること)の可能性が高い」との趣旨の合同参謀本部報告書を書かせたとの疑いも持たれている。
法曹界の内外では、令状発行の理由として「逃亡の恐れ」が示されていることが注目されている。前国防部長官で住所も一定しており、出頭調査にも応じていることから、裁判所の説明は納得しがたいというわけだ。この事件の被告発者で検察の取調べを控えているパク・チウォン前国家情報院長はこの日、フェイスブックに「前長官、庁長であり、住所および居住地が一定で、捜査にも誠実に協力してきた。裁判所の判断は尊重するが、逃亡および証拠隠滅の恐れが(拘束令状の)発行理由だというのは理解できない」と記した。
これに対し、令状発行の理由は細かく問うべきではないという意見も多い。ある部長検事は「通常、当事者同士が口裏合わせをすることが懸念されれば『証拠隠滅の恐れ』、重刑宣告の可能性があれば『逃亡の恐れ』との理由をあげる」とし、「疑惑成立に争いがあるケースでは簡単に令状が発布されない傾向を考えれば、疑いは軽くないと考えたわけだ」と語った。元判事の弁護士も「証拠隠滅と逃亡の恐れは事実上、一つの令状発布理由」だとし、「ソ前長官の疑惑の中には報告書削除指示があるため、すでに証拠隠滅の恐れが認められると考えた可能性がある」と語った。
ただ、拘束するかどうかは別として、ソ前長官の職権乱用疑惑は有無罪を争ってみる価値があるとする意見もある。MIMS削除はSI(特別取り扱い情報)の共有を防ぐための国防部訓令に則った行為であるとともに、極めて限定的な状況で情報判断がなされているからだ。公安捜査の経験が豊富なある弁護士は「特にソ前長官の諜報削除行為は、国防部や国情院などでは日常的に行われている情報管理方法であるため、法廷で疑惑の成否を争う余地はあるとみられる」と語った。
ソ前長官の拘束により、検察の捜査は変曲点を迎えるとみられる。とりわけソ前長官の拘束令状には、ソ・フン前大統領府国家安保室長とソ・ジュソク前安保室第1次長が共犯として示されていることから、文政権の大統領府の関係者に対する捜査は急速に進むとみられる。元検察官のある弁護士は「前政権の国務委員が拘束された。検察が考えている容疑がかなりの部分認められたかたち」だとし、「(大統領府に対する捜査も)やってみる価値があると考えるだろう」と述べた。
検察が最高意思決定権者である文前大統領に対する捜査に踏み切る可能性も排除できない。これに先立ち監査院は、イ・デジュンさんの遺体は北朝鮮によって焼却されたとする国防部の発表について、文前大統領が自ら再検討を指示したと明らかにしている。ソ前長官の職権乱用疑惑に文前大統領が介入したか否かを捜査する「足がかり」を用意したかたちだ。
イ・ウォンソク検察総長は20日の最高検察庁に対する国政監査で「証拠と法理に沿って、他の一切の考慮なしに捜査しなければならないというのが原則」としながらも「前大統領はその在任期間に国家と国民を代表した方であるため、慎重の上にも慎重を期さなければならない」と語っている。