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n番部屋の取材記者は「博士部屋」を見て確信した 「これは捕まえないといけない」と

登録:2022-05-27 08:33 修正:2022-05-28 08:36
[ハンギョレ21企画-チョ・ジュビン捜査備忘録]「n番部屋」の地獄の扉を開けた人たち
韓国サイバー性暴力対応センターが2019年1月30日、ソウル鍾路区光化門広場前で死に至った違法・非同意撮影物流布の被害者のため「名もなき追慕祭」を行っている=キム・ヒョシル記者//ハンギョレ新聞社

 注目されなかった事件がある。手がかりがある。苦しみがある。

 2018年6月、C被告は懲役1年を言い渡された。ウェブカメラをハッキングし、他人の私生活を盗み見たうえ、女性の体が写っている写真167枚をツイッターに掲載した罪に問われたが、刑は猶予された(執行猶予3年)。初犯である点が参酌された(大邱地方裁判所、2018高単2006)。2020年、人々はCを「ウォッチマン」と呼んでいた。彼は執行猶予期間中、テレグラムで「ゴッサム部屋」を作った。

 2019年8月、大邱地方裁判所金泉(キムチョン)支院はL被告に懲役3年刑を言い渡した。16歳の被害者に性的暴行を加えたうえ、その場面を撮ってラインのチャットルームにリアルタイムで送信した罪に問われた。彼は「姓名不詳者」の指示に従ったと主張した(大邱地方裁判所金泉支所、2019高合41)が、捜査機関は姓名不詳者に関心を持たなかった。姓名不詳者は「ゴッドゴッド」こと、ムン・ヒョンウク。ムンはテレグラムでn番部屋を作った。

 2019年9月ある日の夜10時頃、ソウル銅雀(トンジャク)警察署に通報が入った。「スポンサーのアルバイトの面接を口実にヌード写真を要求された。送った写真で脅迫されている」。西大門(ソデムン)署や龍山(ヨンサン)署、江原道東海(トンヘ)署にも似たような通報があった。だが、その関連性に注目する者はいなかった。ばらばらの状態の加害と被害が、警察署のあちこちで捜査中の事件、ただありふれたサイバー性犯罪として増えていくだけだった。

 どこから間違っていたのだろう。

恐怖:2019年11月

フロは、先生は自分のやるべきことが分かっていないと言っていた。しかし、先生は分かっていた。よく分かっていた。彼女は休み時間になるとドアを閉めて外で何が起きようと気にしなかった― アリス・マンロー「貧乏少女」

 「まさにここですよ」。ソウル地方警察庁(市警)1階のカフェ「ソギョン」はコーヒーマシーンの作動音や人々の話声でいつものように騒々しい。天井の高さの分だけ響きが増した声は他の音と入り混じり、本来の方向を失ってしまう。市警サイバー性暴力捜査1チームのユ・ナギョム・チーム長が声を張り上げる。1年前、この場での「あるきっかけ」を思い浮かべようとしている瞬間、「ミンサン、これ一緒に飲もう」と最年長のチョ・スンノ捜査官の声が聞こえる。マスカットエイドをチームの最年少メンバーに分け与えるのに余念がない。

 2020年秋、彼らの姿はいたって普通だ。ユチーム長とチョ捜査官の2人は、ソウル地方警察庁サイバー性暴力捜査1チーム(以下、市警捜査チーム)で2年ほど一緒に働いた。現場経験が多いナムグン・ソン、キム・ミンギュ捜査官や「刺されたら血ではなく油が流れそうな業務マシーン」のカン・ギルビョン捜査官、1990年代生まれのチェ・ジフン、イ・ミンサン捜査官がチームのメンバーだ。普段は仲がいいが、たまにはケンカもする。その話をするのに笑い声が混じる。

 1年前、ここに座っていた時のことを思い出す。2019年11月15日午後5時、空は暗く空気は湿っている。間もなく雨が降りそうだ。ユ・ナギョム・チーム長のそばにが本紙のキム・ワン、オ・ヨンソ記者、ヤン・ジェウォン当時首相秘書室政策苦情チーム長が座っていた。キム・ワン記者は4日前、テレグラム「公式リンク○○○○部屋」記事を書いた。性搾取物テレグラム部屋のリンクを集めたものだ。「最初は日刊ベスト貯蔵所のような変な文化だと思った」。だが、情報提供に基づいてリンクに入り、部屋のあちこちを見回ってから、当惑は驚愕に変わった。あちこちの部屋で観戦者たちがよく言及していた部屋、「博士部屋」に至って確信する。「これは捕まえなければならない」と。手に握ったスマートフォン、6インチ画面の中で、地獄が広がっていた。それはここではないどこかの見慣れない風景のように思えた。だが、まさにここ、見慣れた悪が溶け込んでいるようでもあった。そこでは序列主義やいじめ、嘲弄、自己顕示、嫌悪が横行していた。

 それは序列に基づく世界だった。参加者たちは経験値ポイントによって「公職者」や「上流層」、「市民」、「中産層」、「片親家庭」などの等級が付けられる。市民等級以上であれば「市民部屋」(市民議会またはノアの箱舟)に参加し、熱心な活動(製作と共有)の見返りとして性搾取物を見ることができる。お金をもらって性搾取物を共有することもある。短く編集したり、時間が経った映像は無料部屋(一般博士部屋など)で広報用に使われる」(ソウル中央地検、博士の部屋運営者カン・フンの控訴状より)

 人間が弄ばれていた。被害者を責め立てる過程が事細かく中継された。一人の人間を破壊する過程をみんなで待っていた。楽しんでいた。足を踏み入れた全員が共犯だったが、皆が一緒に犯す犯罪なので、「罪悪感もn分の1程度になるようだった」(キム・ワン記者)。被害者を責め立て、観戦者の要求に合わせた性搾取物を製作した。そして自分の支配力を見せびらかしていた。互いの性搾取映像の希少性を強調し、競売にかけた。オ・ヨンソ記者は専門家の助言に基づき、この行為を「デジタル性搾取」と名付けた。

 キム・ワン記者は警察を紹介してくれる人を探す過程で、親交のあったヤン・ジェウォン・チーム長にメッセージを送った。彼は当時社会問題をあまねく扱う首相室政策苦情チーム長だった。前職の国会補佐官時代から警察組織に関心が高く、記者の間では昼夜を問わず働く真面目な性格で知られている。残酷な犯行をヤンチーム長に夜遅くまで転送した。彼は「吐き気がします」と言った。翌日、ヤンチーム長は警察に連絡し、警察庁は緊急会議を招集した。

テレグラム性搾取被害者と加害構造を指摘した2019年11月25日付のハンギョレ1面=ハンギョレ資料//ハンギョレ新聞社

「多くて2年6カ月の懲役刑」

 実際、吐きそうだった。ヤン・ジェウォン・チーム長も、様々な事件を取材してきたキム・ワン記者やオ・ヨンソ記者も、ベテラン捜査官の第一印象も似ている。「吐き気がしました」。できれば、目を背けたいし、認めたくないし、私とは関係ないものにしたい。映像の中の被害者の姿のためのようだ。「最初は映像の中の被害者の目がずっと頭に残っていました」(ヤン・ジェウォン・チーム長)。女性であるオ・ヨンソ記者は自分の身にも起こり得る犯罪だと思った。母親のユ・ナギョム・チーム長は9才になった自分の子供が生きていく世の中の残酷さに「吐き気がした」。

 本能的な拒否感は当たり前のことだった。ただ、振り返ってみると何かおかしい。何も知らなかったわけではなかった。慶北地方警察庁は「ゴッドゴッド」ことムン・ヒョンウクを2019年3月から追いかけていた。京畿南部地方警察庁はウォッチマンを9月にすでに逮捕した。ソウル市警も博士の部屋の存在を知っていた。しかし、それに関する記事はない。政府も特に何も言わない。司法府の判決も「長くて2年6カ月の犯罪」(キム・ワン記者がある地方警察庁から聞いた言葉)と思われていた。大学生追跡団「炎」だけが事態の深刻さに気付き、7月に通報し、記事を書き、心配していた。

 現実と地獄、ありがちな嫌悪と極端な犯罪、見逃してしたったことと重大なことの間のどこかに、事件を追跡した警察や記者、首相室の職員がいた。事件が知れ渡ってからは全国民がいるはずのところだ。一体、我々はどのような境界を越えてしまったのだろうか。「私と同じ時代を生きている普通の男性、インターネット掲示板の嫌悪勢力、テレグラムの残酷な犯罪者が同じ顔かもしれない」と思う度、背筋が凍る思いだったと、キム・ワン記者は言う。知っていたが、同時に知らないまま捜査し、記事を書いて、立法し、判決し、冗談を言い、おだて、蔑み、嫌悪した皆が地獄を築く道のどこかにいたことだけは明らかだった。ある種の罪意識と責任感を共有し、警察や記者、公務員はその場を離れた。

 市警の捜査チームの7人全員が博士部屋事件を追った。ホワイトボードにぎっしりと資料を貼り付け、睡眠時間を削って事件に取り組んだ。オ・ヨンソ記者は電話で被害者に話しかけた。萎縮した声で短く答えるだけの被害者もいた。切実な声で助けを求める被害者もいた。いつも「受話器越しに外の騒音が聞こえてきた」(オ・ヨンソ記者)。家族に知られることだけは避けたい一心で、おそらく自宅の外で密かに電話に出たのだろう。互いの安全のために、オ記者は携帯電話ではなく、会社の有線電話を使った。被害者と共に震えながら。

 10日後(2019年11月25日)、本紙は被害者の証言や被害者の証言、デジタル性搾取犯罪構造を盛り込んだ企画記事を掲載した。特に反応はない。記事に対するコメントを読んでいくと、「被害者に非があると責めるようなコメントもあって…(ユ・ナギョム・チーム長)」。ユチーム長は暗い気持ちで記事を2枚の文書にまとめ、課長に報告する。世の中はある程度固まったと思われていた枠組みの中で、いつものように騒がしい。与野党が予算案をめぐって争い、北朝鮮は海岸砲射撃を行った。女性芸能人が自ら命を絶った。いつものように起きる騒ぎなので、「特に異常なし」と書きそうな日々が過ぎていく。地獄のそばで。

「ハンギョレ21」パン・ジュンホ、チャン・スギョン、コ・ハンソル記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/971591.html韓国語原文入力:2020-11-26 14:57
訳H.J

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