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野党ユン候補の「THAAD追加配備」根拠、朴槿恵政権も一蹴していた

登録:2022-02-05 03:45 修正:2022-02-06 18:55
大統領選挙テレビ討論ファクトチェック 
中長距離ミサイルの90度近い「高角発射」を根拠に追加配備を主張 
北朝鮮、韓国を狙える「コスパの良い」短距離ミサイルを1000発以上保有 
2016年当時の国防部長官も「北朝鮮がまともなら高角発射する理由なし」
国民の力のユン・ソクヨル候補が3日午後、ソウル汝矣島のKBS公開ホールで行われた放送3社合同招請「2022大統領候補討論」に先立ち、リハーサルの準備をしている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 「ブルックス元在韓米軍司令官も、さらなるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)は必要ないと言ったが、安保不安を煽って票を得ようとして経済を駄目にするという指摘がある」(共に民主党イ・ジェミョン候補)

 「ブルックス元司令官は、星州(ソンジュ)にあるTHAADはパトリオットや低層防衛システムと連係させた場合に効果的だと言ったのであって、あの方がTHAADの追加配備は必要ないと言ったという事実はない」(国民の力ユン・ソクヨル候補)

 3日の大統領候補4者討論で、共に民主党のイ・ジェミョン候補と国民の力のユン・ソクヨル候補は、THAAD追加配備問題をめぐって上のように衝突した。両候補は、ヴィンセント・ブルックス元在韓米軍司令官の同じ発言をめぐり、このように異なる見解を示した。

THAADの追加配備は必要あり? なし?

「韓国へのTHAAD追加配備は不要」としたブルックス元司令官の2020年11月の米国「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」とのインタビューの内容は、多数の韓国メディアが引用報道した//ハンギョレ新聞社

 ブルックス元司令官は、2016年4月から2018年11月まで在韓米軍の司令官だった。韓国と米国がTHAAD配備を決定(2016年7月8日)し、慶尚北道星州にTHAAD発射台が設置された時期(2017年4月)の在韓米軍司令官だったため、韓国に配備されたTHAADを誰よりもよく知る人物だ。

 ブルックス元司令官の発言は、2020年11月2日に米国のRFAが報じた。ブルックス元司令官の肉声インタビューの内容は次の通り。

 「THAADは韓国の(低高度ミサイル用である)パトリオットミサイル防衛システムレーダーや(弾道弾早期警報レーダーである)韓国のグリーンパイン(Green Pine)レーダーなどの、その他のミサイル防衛システムと統合することによって、北朝鮮のミサイルの脅威から韓国を防衛できます。これはより良い統合防衛システムになるでしょう」

 RFAはブルックス元司令官のこの発言を伝えつつ、「ブルックス前司令官は2日、RFAに対し、韓国にTHAADを追加配備する必要はないと主張した」、「既存のTHAAD発射台を他のミサイル防衛システムと統合すれば、北朝鮮のミサイル攻撃から韓国を防衛できるため」と報道した。

 ブルックス元司令官の発言を伝えつつ、その意味をより明確に解説したものであり、記事のタイトルも「ブルックス前司令官『韓国にTHAAD』追加配備は不要」だった。多くの国内メディアがこの記事を引用報道してもいる。

 記事を書いた記者が恣意的な解釈をしたのでないのなら、ブルックス元司令官の発言は「韓国にTHAADを追加配備する必要はない」という意味に近いだろう。しかし国民の力は「ブルックス元在韓米軍司令官はインタビューで『THAADとパトリオット、グリーンパインレーダーなどを統合すれば、より効果的』と言ったのであって、THAAD追加配備について言及した事実はない」と繰り返し主張している。

朴槿恵政権の国防長官も「北朝鮮がまともなら高角発射は不要」

 ユン候補は3日の討論会で「北朝鮮から首都圏を狙うとすると、高角で(ミサイルを)発射するケースが多いため、当然(THAADは)首都圏に必要だ」と述べ、THAAD追加配備の必要性を繰り返し強調した。韓国軍のミサイル防衛システムにおいては、パトリオット2・3、天弓2などは20キロ前後の低高度と30キロ前後の中高度対応なので、これより高い高高度でミサイルが飛んでくれば、THAAD(50キロから150キロ)で対応すべきだという論理だ。

 通常、弾道ミサイルは30から45度の角度で発射するが、高角発射は垂直に近い。これは近距離を狙うためにわざと発射角度を上げるものだ。北朝鮮が先月30日に発射した中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12型」は、本来の射程距離は4500~5000キロだが、高角で発射したため飛行距離は約800キロと短かった。

先月31日付「労働新聞」の報道によると、北朝鮮は「地対地中長距離弾道ミサイル『火星12型』の検修射撃試験を30日に行った」。このミサイルは射程距離が4500~5000キロだが、高角で発射したため飛行距離は約800キロと短かった/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 北朝鮮は、米国領グアムやハワイ、日本などを射程距離内に収める中長距離ミサイルの発射実験を実施する際には、高角発射を行って意図的に飛行距離を縮めている。中長距離ミサイルの開発能力は向上させるものの、米国を過度に刺激しはしないとの意図からだった。

 狭い朝鮮半島の中で、北朝鮮が射程距離1000キロを超える中長距離ミサイルで韓国を攻撃するためには、高角発射を行わなければならない。しかし、韓国を狙った安価な短距離ミサイルを1千発以上保有しているのに、北朝鮮があえて高価な中長距離ミサイルを高角発射する理由はない。北朝鮮にとって高角発射は「コストパフォーマンス」が低すぎるからだ。

 朴槿恵(パク・クネ)政権時代の国防部も「高角発射は現実性に欠ける」と判断している。2016年7月20日、ハン・ミング国防部長官は国会に出席し、北朝鮮が射程距離3000キロ以上の舞水端(ムスダン)ミサイルを高角発射して首都圏を攻撃する可能性を一蹴した。

 当時、ハン長官は「北朝鮮には、ミサイルの高角発射以外にもソウルを攻撃する火力と資産がある。スカッドミサイルだけでも数百発」とし「北朝鮮がまともなら舞水端ミサイルを高角に発射する理由は全くない」と述べている。

ミサイル防衛概念図=国防部//ハンギョレ新聞社

 朴槿恵政権が発行した「2016年国防白書」でも「首都圏にとって脅威となる北朝鮮の弾道ミサイルはスカッド系で、飛行高度が低く飛行距離も短いため、THAADよりパトリオットの方が有用な迎撃兵器システム」だと評価している。2月4日付「東亜日報」社説も「野党もTHAADの追加配備を掲げたが、直ちに短距離ミサイルへの対応が急がれる中、中長距離用の迎撃ミサイルを導入しようというのは現実性が疑問視される主張以外の何物でもない」と主張している。

 首都圏を狙った北朝鮮のミサイル高角発射は、理論上は可能だが可能性は非常に低い。ユン候補の主張のように「北朝鮮が首都圏を狙って高角発射するケースは多い」とは考え難い。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1029804.html韓国語原文入力:2022-02-04 18:25
訳D.K

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