本文に移動

書類上離婚まで考えた…「父親の姓を継ぐのが当たり前ではない」=韓国

登録:2021-11-23 10:26 修正:2021-11-23 13:08
子どもの姓を「母親の姓」に変えたキム・ジエ、チョン・ミング夫妻 
「母親の姓を継がせる人はほとんど見られず、考える機会もない」 
政府、出生届の際に姓・本貫決定を検討中
今月9日、ソウル瑞草区のソウル家庭裁判所前で行われた「姓・本貫変更請求」許可歓迎記者会見に出席したキム・ジエさん(写真右)、チョン・ミングさんと、母親の姓を名乗ることになった娘=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 「この事件の請求は理由があるため、以下の通り判決する。事件本人の姓を『キム』に、本貫を『金海(キムヘ)』に変更することを許可する」

 たった2行だった。この短い判決文のために、キム・ジエ(35)、チョン・ミング(42)夫妻はこの数カ月間やきもきしていた。先月13日、二人はソウル家庭裁判所から子どもの姓と本貫を父親のものから母親のものに変更することを「許可」された。生後6カ月の娘のジョンウォンちゃんは、これからは「チョン・ジョンウォン」ではなく「キム・ジョンウォン」になる。本紙は19日、ソウル市城北区吉音洞(ソンブック・キルムドン)の自宅で家族と会った。

 2013年に結婚した夫婦は、7年後に子作りを計画し、母親の姓を継がせることを決めた。しかしすぐに壁にぶつかった。「子は父親の姓と本貫に従う」という民法第781条1項のためであった。婚姻届で「子どもの姓・本貫を母親の姓・本貫にする話合いをしたか」と問う条項に「はい」と記載しなかったため、子どもに母親の姓を継がせるのは不可能だった。今から母親の姓を名乗らせるようにするためには、二つの方法しかなかった。書類上離婚した後に再び婚姻届を出し、「母親の姓・本貫についての話合い」条項に同意するか、ひとまず父親の姓を継いだ後で裁判所に変更請求を出す方法だ。夫婦は変更請求を先に試みた。今年9月初めに裁判所に請求を出し、1カ月余りたってソウル家庭裁判所の「姓・本貫変更許可」判決を受けた。

 「ずっとはらはらしながら過ごしました。判決文を受けた後、虚しくも感じられました。(判決文に書かれた)この2行のために、これまであんなに気をもんだのかと思うと…。何よりもこうした性差別的な慣行が法律で定められていることに驚きました」(キム・ジエ)

 「裁判所で受理されなかったら、書類上離婚した後に婚姻届を出し直す方法まで考えていました。最後の方法としてです。裁判所で受け入れられて肩の荷が下りました」(チョン・ミング)

婚姻届の書式。「子どもの姓・本貫を母親の姓・本貫にする話合いをしましたか」に「はい・いいえ」をつける項目がある//ハンギョレ新聞社

 最初に母親の姓を継がせようと提案したのは妻のキムさんだった。結婚前にたまたまある育児バラエティ番組を見たのがきっかけだった。出産したばかりの女性芸能人は顔がぱんぱんにむくんで横になっているのに、義父母が赤ちゃんを見て「うちの○家(父方の姓)を継ぐ子孫が生まれた」と喜ぶ場面があった。キムさんは「当時は出産する考えもなかったけれど、屈辱を感じた」とし「生まれたばかりの赤ちゃんに『うちの○家の人』などと言う姿が、まるでマーキングするみたいだった。苦労して出産した女性は、子どもを産んだとたん排除された。そのとき初めて、子どもを産んだら母親の姓を名乗らせようと決めた」と述べた。

 夫のチョンさんも、妻の提案に従うことにした。「父親の姓」を基本値とする慣行と制度が間違っていることに同意した。それでも、実際に実践するのは容易ではなかった。当初、妻と「母親の姓・本貫についての話合い」条項に「はい」とつけることを約束して一人で婚姻届を出しに行ったチョンさん。「お父さんの姓を使いますよね?」という職員の質問に対し、多くの考えが脳裏をよぎった。

 「『両親には何て説明する? 本当に母親の姓を継がせていいのか?』と、一瞬いろいろな考えがよぎったんです。でも、今振り返ってみると、心の底に何かを奪われるという思いがあったようです。『周りの人たちはみんな父親の姓を継がせるのに、どうして俺は奪われなきゃならないんだ?』という思いです。奪われるという表現が浮かんだこと自体が、(韓国社会が)“傾いた運動場”だということでしょう」(チョン・ミング)

 「母親の姓を継がせるのはほとんど見られないので、考える機会さえないんです。法と制度が固定値として父親の姓を継ぐようにさせているから…もし制度が柔軟であれば、夫ももっと抵抗感が少なかったんじゃないでしょうか」(キム・ジエ)

 チョンさんが母親の姓を継がせなければと確信したのは、妻の妊娠・出産の過程をそばで見守ってからだ。赤ちゃんを9カ月近くお腹の中で育て、命がけで出産し、授乳するのに昼夜を問わず苦労している妻を見て、父親の姓を継がせるのが当たり前ではないことに気づいた。確信が持てるようになると、周りの目は大きな問題ではなくなった。両家の両親は、最初は戸惑った様子だったが、すぐに二人の決定を受け入れた。知人たちも心配する視線ではなく支持の気持ちを伝えてくれた。しかし、依然としてこの社会では「母親の姓」を使うことに慣れていない。偏見の交じった視線も受ける。チョンさんは「のちに子どもが自分から『どうして私だけお母さんの姓なの?』と考えるようになったら、それは良いことだと思う。母親の姓を名乗るのは、子どもが平等な価値観を持つのに役立つだろう」と述べた。

 二人は「父姓優先主義の廃止は固定値を正すこと」だと口をそろえた。キムさんは「男女平等を理由に姓・本貫変更を請求した私たち夫婦のような事例はほとんどないと聞いている」と言い、「周りの人も『母親の姓を継がせることができるの?』という反応が一番多かった。法・制度が父親の姓を固定値にしておいて、母親の姓を継がせることを考える機会さえ与えないのは間違っている」と指摘した。チョンさんも「父姓優先主義の廃止は男女の問題ではなく常識の問題で、平等か差別かの問題」だとし、「当然、廃止の方向に進むだろう」と述べた。すでに政府は、4月に発表した「第4次健康家庭基本計画」に、子どもの姓決定方式を子どもの出生届の際に親の話合いで決められるようにする案を検討するという内容を盛り込んでいる。

 「自分だけの庭園(ジョンウォン)をつくってほしい」という意味の名前をもつ娘のジョンウォンちゃん。キムさん・チョンさん夫妻はジョンウォンちゃんが男女平等な名前を受け継いだ分、平等な価値観を持った人に育ってほしいと願っている。

 「母親の姓を使うことを誇らしく思ってほしい。伝統という名で女性を差別してきた父姓優先主義の原則に、私たちは堂々と立ち向かったんだ。これからも偏見と差別に堂々と立ち向かうジョンウォンになってほしい。パパはあまりに多くを望みすぎかな? その代わり、いい大学に行けとか、稼げる仕事をしろとか、結婚しろというような小言は言わないから。君の人生を生きるんだよ、ジョンウォン。一緒に楽しく生きよう」(姓・本貫変更確定を受けた9日の記者会見で読んだチョン・ミングさんの手紙より)

パク・コウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/women/1020251.html韓国語原文入力:2021-11-22 23:16
訳C.M