韓米軍当局の「後半期連合指揮所訓練」の事前演習が始まった10日、キム・ヨジョン朝鮮労働党中央委副部長は「南朝鮮当局者の裏切り的行為に強い遺憾の意を表する」という談話を発表し、その後、南北直通連絡線の午後の「終了通話」は行われなかった。北朝鮮は談話の内容を一般にも公開したことが確認されているため、場合によっては「決起・糾弾集会」をはじめ「直通連絡線の再断絶」などの強硬な対南対応が行われる可能性もある。
キム・ヨジョン副部長はこの日午前8時2分、対外用メディア「朝鮮中央通信」で発表した「談話」で、今回の演習は「我が国を力で圧殺しようとする米国の対朝鮮敵視政策の最も集中的な表現であり、我が人民の安全を脅かし朝鮮半島情勢をより危うくする、決して歓迎されない、必ず代価を支払うことになる自滅的な行動」と批判し、「警告を無視して強行する米国と南朝鮮側の危険な戦争演習は、必ずや自らをいっそう厳しい安保の脅威にさらすだろう」と主張した。下半期の朝鮮半島情勢を分ける「分水嶺」とされてきた韓米合同軍事演習は、事前演習である危機管理参謀訓練(CMST)が10~13日に、本演習である「後半期連合指揮所訓練」(21-2 CCPT)が16~26日に行われる。
この談話の発表後、北朝鮮は午後に行われる軍通信線を含む南北直通連絡線を通じた「終了通話」に応じなかった。直通連絡線開始・終了通話が正常に行われなかったのは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記の親書によるやり取りにもとづき「断絶」から413日ぶりとなる先月27日に通信線が復旧して以降、初めてとなる。統一部の当局者は「北側は午後の終了通話に応じなかった。これに関する北側からの別途の言及はなかった」と述べた。現在のところ、「終了通話」に北側が応じない「技術的不通」の状態であり、これを超えた「直通連絡線断絶の長期化」となるかどうかを判断するのはまだ早い。
キム副部長の談話は韓米両国に向けたものだが、分量と焦点の双方で批判の矛先は米国に向けられている。演習が延期や取り消しにはならず、規模を大幅に縮小したとはいえ行われることになったことについては、韓国より米国の意志が強く作用したのだろうという判断があるようだ。キム副部長は、ジョー・バイデン政権が「騒ぎ立てている『外交的関与』と『前提条件なき対話』とは、彼らの侵略的本音を隠すための偽善に過ぎない」と批判しつつ「我々はすでに強対強、善代善の原則で米国に相対するとしている」と述べた。1月の労働党第8回大会で金正恩総書記が「米国の対朝鮮敵視政策の撤回」こそ「新たな朝米関係樹立の鍵」とし「今後、強対強、善代善の原則で米国に相対する」と明らかにした対米路線を再確認した格好だ。キム副部長は談話の最後に「私は委任によってこの文章を発表する」と明らかにし、今回の談話が金正恩労働党総書記の意を込めたものであり「北朝鮮当局でまとめられた方針」(統一部当局者)であることを強調した。
これに対し、対南批判は分量と表現の双方で相対的に「節制」されたものとなっている。「裏切り的行為」の主体を複数形である「南朝鮮の当局者たち」と述べ、金正恩国務委員長との「親書による意思疎通」によって南北直通連絡線の復旧に先日合意した文在寅大統領を直に批判するかたちは避けた。これはキム副部長が3月30日の談話で文大統領のことを「米国産のオウム」と述べ、「厚顔無恥」「鉄面皮」などの感情混じりの表現を使って非難したこととは対照的だ。
キム副部長の談話は、最初は対外用メディア「朝鮮中央通信」のみで発表され、同日付の「労働新聞」には載らず、発表から1時間後の直通連絡線の「開始通話」も正常に行われた。雰囲気が変わったのは午後に入ってからだ。キム副部長の談話が一般の人民も視聴できる朝鮮中央テレビと朝鮮中央放送(ラジオ)でも報道されたのに続き、軍通信線を含む南北直通連絡線の「終了通話」が行えなかったのだ。北朝鮮の今後の「行動」の有無が懸念される。
北朝鮮の今後の対応について、談話で最も目を引くのは「我々に反対するいかなる軍事的行動にも迅速に対応できる国家防衛力と強力な先制攻撃能力の強化を加速する」と述べた部分だ。米国が制裁緩和や韓米合同軍事演習の中止などの「敵視政策の撤回」に関する友好的な実行措置を取らなければ、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験などの戦略的な軍事行動によって長期こう着局面にある朝鮮半島情勢を揺るがしうるとの「警告」と読める。ただ、今すぐ「行動」に移すという雰囲気は漂わせていない。元高位関係者は「ロケット砲などによる低強度の軍事行動の可能性は排除できない」と指摘した。
キム副部長はまた「米軍が南朝鮮に駐屯している限り、朝鮮半島情勢を周期的に悪化させる禍根は絶対に除去されないだろう」とし、韓米合同演習の根を在韓米軍に見出し「朝鮮半島に平和を宿らせようと思うなら、米国が南朝鮮に展開している侵略武力と戦争装備をまず撤去すべき」と述べた。1月の党大会で金正恩総書記が列挙した「先端軍事装備の搬入と米国との合同軍事演習」の中止に加えて「在韓米軍」問題に言及した部分に留意する必要がある。
韓国政府は、北朝鮮の今後の対応などを見守るとの慎重な反応を示した。統一部の当局者は「(今月1日のキム・ヨジョン談話が表明した、演習に反対するという)北側のこの間の立場を繰り返し明らかにしたものと見られる」とし「予断せず、すべての可能性に備えていくつもり」との「政府の立場」を明らかにした。大統領府関係者も「事案が重大であるだけに、ソ・フン安保室長が文大統領に直に報告したと聞いている」とし「北朝鮮の特異な動きについては何も知らない」と述べた。