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韓国野党第一党党首の「統一部廃止論」、真の問題は「吸収統一論」にあり

登録:2021-07-14 08:35 修正:2021-07-14 09:02
イ・ジュンソク代表、「小さな政府論」を掲げ、統一部廃止を連日主張 
統一部廃止の思惑は「小さな政府」より「吸収統一」 
吸収統一論は国連加盟、南北基本合意書、首脳間合意に反する 
統一部廃止を目指して失敗した李明博政権を反面教師にすべき 
国民の力のイ・ジュンソク代表が今月13日午前、国会で記者団の質問に答えている/聯合ニュース

 突然登場した「統一部廃止論」をめぐる議論が熱を帯びている。野党第一党の「国民の力」のイ・ジュンソク代表が火付け役だ。イ代表は今月9日、CBSのラジオ番組「キム・ヒョンジョンのニュースショー」に出演し、「統一部を廃止すべきだ」と初めて主張した後、党内の反論とイ・イニョン統一部長官の要請にもかかわらず、主張を曲げていない。イ代表は12日には党最高委員会議で、「統一部廃止」を主張する理由として「小さな政府論」を掲げた。

 しかし、イ代表が政界入門後、これまで行ってきた発言を振り返ると、イ代表の「統一部廃止」主張の根底には、「小さな政府論」ではなく、「吸収統一論」があることを容易に推察できる。

 イ代表は自身の著書『公正な競争』(2019年6月出版)で「統一問題」についてこのように記している。いくつかの例を挙げてみよう。 「吸収統一のほかに何か方法があるだろうか」、「吸収統一とは北朝鮮体制を消すことであり、われわれが北朝鮮と妥協することはない」、「現政権は(北朝鮮と)相互共存すべきという立場を示しているが、わたしは北朝鮮政権が崩壊し、われわれが北朝鮮を掌握しなければならないと考えている」。イ代表はtvNの討論バトル(2018年3月13日)に出演した際も、「吸収統一以外にほかの案はない。制裁を維持すれば北朝鮮体制が崩れ、吸収統一が可能になるだろう」と主張した。イ代表は「中央日報」との映像インタビュー(6月28日)でも「吸収統一」を取り上げた。党首になってからも考えに変化がないことがうかがえる。要するに「北朝鮮政権崩壊→吸収統一」が唯一の現実的な経路という認識を持っているのだ。

 イ代表が公に吸収統一を掲げるのは、油の海での花火と同じくらい危険だ。政権獲得を目指す政党の党首が口にする言葉ではない。

 まず、「平和的統一政策の樹立と推進」の義務を定めた憲法第4条に反する。

 次に、1971年9月の朝鮮戦争後初の南北当局対話以来、歴代政府が進めてきた北朝鮮政策と南北関係の軌道を致命的に離脱する政策路線だ。国民の力の歴史的ルーツである民主自由党の盧泰愚(ノ・テウ)政権時代の1991年、南北の国連同時・分離加入と南北基本合意書採択、2000年、2007年、2018年の延べ5回にわたる南北首脳会談は、南北いずれもの吸収統一の試みを排撃する。国連加盟は国際社会で「ツーコリア」の併存を、基本合意書は両者レベルで「統一志向の特殊関係」に合意したものだ。イ代表の「吸収統一」の主張は、国際規範違反であり、基本合意書精神の否定に他ならない。

 さらに南北は双方の統一案に「共通性があると(初めて)認めた」2000年の6・15共同宣言第2項で、「過程としての統一」、すなわち「統一は未来のこととしていったん先送りしよう」という政治的合意に至った。以後、「統一論」をめぐる攻防は南北間はもちろん、韓国社会内部でも事実上姿を消した。この点でイ代表の「統一部廃止」を掲げた吸収統一の主張は時代錯誤的であり、突拍子もないことだ。

 何よりも吸収統一を掲げる限り、北朝鮮側の反発で南北当局の対話は消え、対峙と葛藤の渦で平和が大きく脅かされる。「北朝鮮崩壊論」的認識に陥っていた李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵(パク・クネ)政権でさえ、公に「吸収統一」を取り上げなかったのもそのためだ。

 三つ目に、朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代の1969年3月1日、「国土統一院」という名で超党派の共感の中で統一部が発足した歴史的脈絡を忘れてはならない。

 実際、統一部廃止論はイ代表一人の持論ではない。2007年12月の大統領選挙で圧勝した李明博政権の引き継ぎ委員会が「小さな政府論」を掲げ、外交部に合併させる方式で統一部を解体しようとしたが、まさに超党派の世論の反発によりあきらめざるを得なかった先例がある。民主党政権のイム・ドンウォン、チョン・セヒョン、イ・ジョンソクはもちろん、「全斗煥(チョン・ドゥファン)のゲッベルス」と呼ばれたホ・ムンドまで、歴代統一部長官が口をそろえて統一部廃止に反対したことは、この問題がいわゆる進歩だけの議題ではないことを示す。

 また、このようなこともあった。2009年8月18日、金大中(キム・デジュン)大統領が死去した際、朝鮮労働党のキム・ギナム書記とキム・ヤンゴン統一戦線部長など「金正日(キム・ジョンイル)国防委員長特使弔問団」がソウルにきた。李明博政権は北朝鮮特使弔問団の大統領への表敬訪問(8月23日)の際、「『アルファベット順で10分ずつ』割り当てられた他の外国弔問団と同様の基準を適用する」と公言したが、いざ会ってみると李大統領は北朝鮮特使団との面会にかなりの時間を費やした。大韓民国の大統領が、北朝鮮の最高指導者の特使を海外の弔問団のように接することを望むのは、あり得ないことだ。北朝鮮は「外国」ではない。歴代政権が外交部ではなく統一部を別に設けているのも、そのためだ。

 一方、イ代表の「統一部廃止」主張について、統一部は13日、「敵対と対決を通じた吸収統一を目指さない限り、統一部は存続すべきであり、さらに発展させなければならない」という公式見解を明らかにした。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1003427.html韓国語原文入力:2021-07-1404:59
訳H.J

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