ソウル麻浦区(マポグ)の弘大入口(ホンデイプク)にあるカラオケボックス「A」には、およそ50日ぶりに歌声が響き渡った。8月に「社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)」が強化されたことから、近隣の大学街の若者たちがストレス解消のために訪れていたこのカラオケボックスは「休業」状態に入っていた。ソーシャル・ディスタンシングがレベル1へと緩和された12日午後2時ごろ、同店を訪ねたところ、店主のキム・シギョンさん(46)はうれしそうな顔をして看板を拭いていた。平日にもかかわらず、店では昼12時から3組が訪れ、マスクをしたまま歌っていた。キムさんは「お客さんが来ると嬉しいが、心配でもある。もともとは午後2時に開けるのだが、今日はうれしくなって12時から店に出ていた。常連さんたちが『今日は店を開けるのか』と連絡までしてきた」と言って笑顔を見せた。
クラブなどの遊興酒場、感性酒場、ハンティング屋台、カラオケボックス、大規模塾、ビュッフェ形式の飲食店など、大半の店が営業できるようになったこの日の街には、久しぶりに活気が蘇ったが、妙な緊張感も漂っていた。自営業者たちは冷え切った売上の回復への期待を示す一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が再び拡大し、ソーシャル・ディスタンシングが再び強化されるかも知れないという恐怖のため、店の防疫に余念がない様子だった。
企業が密集する地域の食堂は、昼からサラリーマンでごった返していた。先週まではCOVID-19感染を心配して主に社員食堂や弁当で食事を済ませる会社員が多かった。さわやかな秋晴れにソーシャル・ディスタンシング緩和がもたらした「心理的効果」も加わり、会社員たちは食事を終えた後もコーヒーなどの飲み物を手にし、三々五々散歩を楽しんでいだ。この日の昼12時ごろ、ソウル銅雀区(トンジャック)のある焼肉店は、昼食時にもかかわらずサラリーマンの団体客などでにぎわっていた。同僚たちと共にやって来た40代の会社員Bさんは「COVID-19防疫強化期間中、フードデリバリーで弁当のようなものを主に食べていたのだが、今日から(ソーシャル・ディスタンシングが)引き下げられたと聞いておごってあげようと思い、課の社員たちと一緒に焼肉を食べた」と話した。
ソーシャル・ディスタンシングが緩和されるやいなや、職場や同好会はしばらく止まっていた会食の約束を取り付けはじめている。焼肉店の店員Cさん(53)は「明日の夕方は8人、金曜日は10人の会食の予約が入ったのだが、会食の予約は本当に久しぶりだ。先週までは1週間ずっと予約がなかったため、食事をしに来るのに予約する必要がなかった」と言い、営業の正常化を喜んだ。趣味を共にするオンライン・コミュニティーなどにも「ソーシャル・ディスタンシング緩和記念『緊急オフ会』をやろう」という書き込みが相次いだ。
美容院でも感染者が出たため、売上に大きな打撃を受けていた美容業界も、売上を伸ばせると期待している。麻浦区でヘアショップを営むDさん(40)は、「ソーシャル・ディスタンシング準レベル3が発令された時は、みなあまり外に出ず、客がいない日もあり、周りには休んでいる店も多かった。政府がレベル1に緩和することを発表したら、道を歩く人が多くなったことがはっきりと見えて、お客さんが増えるのではないか」と期待を示した。
ただ、COVID-19で受けた打撃があまりにも大きいだけに、売上げが回復するには時間がかなりかかると自営業者たちはみている。麻浦区にあるコインカラオケ店の従業員のEさん(25)は「昼12時から2時までに30組が来たが、それでも普段の半分程度。一緒にアルバイトをしていた4人は全員辞めてしまい、残っているのは私だけたが、いつまた休業になるか分からないので不安だ」と話した。自営業者たちは再流行の可能性に神経を尖らせ、「セルフ防疫」に総力を傾けている。これまでテーブル客だけを受け入れていたビュッフェ形式の飲食店は営業を再開したものの、ビュッフェ利用の際はマスク、使い捨て手袋などを必ず着用してもらうようにしている。カラオケボックスでも、手袋とマスクを着用する雰囲気が日常化している。冠岳区(クァナック)でカラオケボックスを営むFさん(56)は「早くから出てきて換気をして客を迎える準備をしたが、COVID-19がまた拡散しないか心配で、リアルタイムで感染者数を確認している。防疫には気を使っている」と述べた。
防疫に対する市民の警戒心もいっそう高まっている。会社員のGさん(29)は、「ソーシャル・ディスタンシング準レベル3は大変だった。これからはみんなが防疫守則を順守し、もうレベルが引き上げられないことを願っている」と語った。