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「デフォルト」になった不公正…若者たち「怒っても変わらない」

登録:2019-12-10 04:33 修正:2019-12-10 16:55
[もし韓国の若者が100人だったら](3)「チョ・グク事態」で痛感した韓国社会は 

家賃30万ウォン払えるか心配で「塾でバイト」 
そこにはソウルの「数千万ウォン・コンサルティング」が 
「彼らだけのリーグ」私にはチャンスが来ない 

386世代について64人「よく知らない」 
386というより50代に包括的指摘 
既成世代は若者のせいにするのではなく 
持てる力で世の中を変えてほしい
「チョ・グク事態」と韓国社会//ハンギョレ新聞社

 地域や男女比率、学歴や学閥などを考慮し分類した満19~23歳の若者100人に会い、深層アンケートとインタビューを行った企画シリーズ「もし韓国の若者が100人だったら」。第3回は韓国社会の現在を見つめる若者たちの生の声を伝える。マスコミは「チョ・グク事態」をきっかけに「不公正言説」がついに爆発したと考えたが、若者たちはそれ以前からすでに全身で不公正な世の中を体感していた。ただ、そんな世の中に対する反応は、自分が置かれている「地位」によって、怒りまたは冷笑に分かれた。

 昨夏、法務部長官候補だったソウル大学のチョ・グク教授の子女の入試特恵疑惑が浮かび上がってから、多くの報道機関は若者の失望と怒りを扱った。このように「チョ・グク事態」を見つめる若者たちの反応は、雷と突風を巻き起こす巨大な積乱雲のように一つの塊として光が当てられた。しかし、ハンギョレが全国を行き来しつつ出会った100人の若者らは一つの塊ではなかった。100人の若者たちは割った竹のように互いに違う方向に分かれていた。

 根は同じだった。19~23歳の若者100人のうち79人は「チョ・グク事態」を見て「不公正」と感じた。しかし、「その剥奪感が怒りにつながったか」という質問に対して、若者たちの反応は分かれた。怒りを感じたのは「チョ・グク事態」で不公正を読み取った若者たちの半分ほどの40人だけだった。アンケート結果によると、怒りを感じるという回答の方が多かった唯一の集団は、ソウルの4年制大学に通う若者たちだった。彼らは、全16人のうち9人が「チョ・グク事態」に「怒りを感じた」と語った。非ソウル圏の4年制国立大学の学生は、10人のうち半分の5人が怒りを感じると述べた。非ソウル圏の4年制私立大学の学生は29人中12人、専門大生は28人中11人が怒りを感じると答え、前二者の若者たちより怒りの程度が低かった。そして高卒で就職や起業をするか現在無職の17人のうち、怒りを感じると回答した若者はわずか3人だった。

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「1時間30万ウォン」入試コンサルティングの世界が抱かせる冷笑

 ソウルの4年制大学に通う20歳のユン・ミンジョン(仮名)は、怒りを感じていない若者の一人だ。「延世大学に通う彼氏はとても怒っていますが、私は怒っていません。ただ『彼らだけのリーグ』だと感じました。入試不正があったとしても私が受けた不利益はないと思います。そもそも私にはそんな機会自体が訪れなかったはずだから…。『SKY(ソウル大、高麗大、延世大)』の学生たちだけがすごく怒っているみたいです」。

 21歳の大学生チン・ヘジ(仮名)もユン・ミンジョンと同様に怒りを感じていない。チン・ヘジは自ら「彼らだけのリーグ」を生で目撃してから、現実に対する冷笑が訪れた。ソウルで大学に通うチン・ヘジは、4カ月前から私教育(塾や習い事。公教育の反対語)市場の象徴である大峙洞(テチドン)の入試コンサルティング塾で1週間に4回バイトしている。チン・ヘジはそこでよく「現タ(現実認識タイム)」が訪れるという。チン・ヘジが働く塾は、受講生に対し自己紹介書の添削、面接の練習、大学進学相談を行っている。ハンギョレが確認したこの塾の「相談マニュアル」によると、面接コンサルティング費用は1時間当たり30万ウォン(約2万7300円)だ。12時間コースと24時間コースだけが選択でき、医学部や「SKY」の面接コンサルティングは24時間コースでのみ受けられる。割引はある。12時間コースは300万ウォン(約27万3000円)、24時間コースは600万(約54万7000円)ウォンが割引価格だ。時給1万ウォン(約912円)のチン・ヘジが600時間近く働いてやっと稼げる大金だが、塾はいつもにぎわっている。この塾では医学部を志望する学生のための1年のプロジェクトもあるという。このプロジェクトに申し込めば、自己紹介書に書くスペックを作ってくれる。受講生に医学の常識を説明するユーチューブチャンネルを開設して映像を撮ってこいと言い、編集などを手伝う。ユーチューブのチャンネルリンクを学習塾のウェブサイトにアップロードしてPRし、購読者を塾の金で集め、「バイト生」たちがレスをつけることまで行っている。

 チン・ヘジは、この仕事をしていて複雑な気持ちになった。「ソウルの大学に行かせるために保護者が数千万ウォン(数百万円)を平気で使うんです。私は家賃30万ウォンも手に入れるのが大変で気持ちが不安定なのに…。大韓民国では大学が本当に重要だという気がしました。たまに問い合わせの電話をしてくる親たちが『どうしてそんなに高いんだ』と怒りながら電話を切ったりするんです。その人たちの子どもが志望校に入れればいいんですけど、落ちちゃったら『自分が600万ウォンを使わなかったからうちの子は大学に行けなかった』と思うかもしれないと考えると複雑です。本当に『ヘル朝鮮(韓国社会の世知辛さを揶揄するネットスラング)』だという気がします。チョ・グクの娘と息子のような人が溢れているんだと思いました」。

 チン・ヘジは、「不公正」はすでに韓国社会のデフォルト(初期設定、前提)だと考えている。そのため、チョ・グクをめぐる疑惑が特に不公正なこととは考えていない。「チョ・グク教授程度の罪は罪でもないと思います。それよりずっと悪い政治家が多いですからね。そんな人は世の中のそこら中にいるということはとてもよく知っています。私が腹が立つのは、金と権力さえあればこのような不公正を合法的に享受できるという現実に対してです」。

 「彼らだけのリーグ」が簡単には崩れないという事実を、チン・ヘジは知りすぎているほどよく知っている。だから「チョ・グク事態」後に政府が打ち出した定時(秋に行われる大学入試)拡大政策も逆効果にしかならないと考えている。「入試制度が大統領の一言で変われば、このような塾はより生き延びやすくなります。教育政策がカメレオンのように変わって不安定であればあるほど塾に頼るしかないんです。私が通う塾では定時コンサルティングもしています。定時が拡大すれば、そうした需要がさらに増えるでしょうね」。

韓国社会では努力への公正な対価が提供されていると思いますか?

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期待なきところでは怒りも爆発しない

 怒りは期待から火種を得て、消えそうになると火山のように爆発する。期待のないところには、怒りが爆発する火種すらない。

 「両親に恵まれて特恵を享受するのは不公正ではありますが、とにかくそういうことが多いじゃないですか。私の知り合いでもないし、私が何をしたからといって何かが変わるわけでもないから。『お前らだけでやってろ』という感じかな。怒っているのではなく、私とはあまり関係のないことのように感じられました」。これが、京畿道高陽市一山(コヤンシ・イルサン)の携帯電話販売店で働く23歳のシン・ジヨン(仮名)が「チョ・グク事態」に怒りを感じなかった理由だ。

 音楽をやりたかったシン・ジヨンは、一時大学入試に備えていた。しかし入試費用を調達するには金が必要で、金が必要で働くようになったことで入試準備がまともにできなかった。そんな1年6カ月の悪循環を経験し、シン・ジヨンは結局、大学を諦めた。大学に行かなかったシン・ジヨンは、盆正月に家に居づらかった。良い大学に入った子を持つ親戚から「何で就職したの?」と聞かれると、悪いことをしたわけでもないのに縮こまってしまった。就職する時も同じだった。「資格不要、初心者歓迎」の求人を出したあるデザイン会社に応募したら、会社は「少なくとも専門大卒業じゃないと」と言った。そのようにできないことを除いていくと、残ったのはサービス職か事務補助だけだった。「家では技術を学べとか、早く仕事でもして家に金を入れろと言われます。でも実際に仕事をすれば、なぜ月給がそれだけなのかって。就職しても小言を言われ、しなくても小言を言われます」。

 シン・ジヨンは今やっている仕事が気に入らない。感情労働ばかりの販売職の日常から抜け出したい。しかし、家賃と生活費160万ウォン(約14万6000円)が足を引っ張る。月給180万ウォン(約16万4000円)で残るのは20万ウォン(約1万8200円)だけなのに、この金額では違う未来を準備することは困難だ。「お金のある人ばかりがお金を稼いで、ない人はずっとないみたい。私のように何か準備していてうまくいかない時に社会が保障してくれたらいいんですが、そういうのがなさすぎだと思います」。すぐに巡ってくる家賃の支払いに喘がざるを得ないシン・ジヨンには、この世を取り巻く数多くの不公正に憤る余裕はない。

 ソウルの4年制大学に通う23歳のハン・インギョン(仮名)もシン・ジヨンと考えが似ている。「怒りを感じたか感じなかったかで問うべきではないと思います。私は怒りをすでに通り越して解脱段階です。あきらめてる状態です。『チョ・グク事態』には腹が立たなかったし、何も感じませんでした」。

 ハンギョレが出会った若者たちに、不公正をはじめとする韓国社会の様々な問題の責任はどの世代にあると思うか尋ねた。100人中31人は50代、21人は60代と答えた。若者たちが主に50代に責任を問う理由は、その世代に対する剥奪感のせいだった。高校卒業後、市場で商売をしている20歳のカン・ジンソク(仮名)は50代がいちばんきらいだ。「経済成長期にもっとも好況を享受した世代だと思います。公務員も今は厳しいですが、その時は簡単になれたでしょう。おまけに、その時に買った土地も全部値上がりしてるし。そんな風に得るものはすべて得た人たちが年上風吹かすから嫌なんですよ。得たものは多いし力もあるのに、若者政策なんかに取り組んでる人はいないし、金は出さないし」。

 大邱(テグ)で大学に通う21歳のキム・イェジ(仮名)も同じ考えだ。「50代は典型的な既得権世代じゃないですか。楽に就職してあんなに多くの富を蓄積したのに、今の世代に対して情熱が足りないと言うのはちょっと違うと思います。何か社会に対する認識が誤っているのではないかと思います」。ソウルのある専門大に通う20歳のチョン・スジン(仮名)も「50代は凝り固まっています。話が通じないんで深い話をしなくなります。そんな人たちが高級官僚だから、いっそう息苦しくなる感じがします。学校の教授も同じです。くだらない話ばかり。問題は自分でも自分の何が問題なのか分かっていないということです」。

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若者たちは「386世代」を知らない

 しかし、若者たちは「チョ・グク事態」の時にマスコミが様々な若者たちの声を引用し、事態の責任者と名指しした「386世代(30代で80年代に大学に通った60年代生まれ。現在は586、86などとも)」についてはむしろよく知らなかった。「386世代」が主に今の50代を指す言葉であるにもかかわらずだ。ハンギョレが出会った100人のうち、64人(全く知らない40人、よく知らない24人)は「386世代を知らない」と答えた。残りの36人の中の15人も「聞いたことがある」程度だった。知っていると答えたのは21人(ある程度知っている12人、正確に知っている9人)だけだった。「386世代を知っている」と回答したソウル地域の21歳の大学生イ・ヨンウは「政治システムや政党、各種の市民団体、企業を主導しているのが今の586世代。民主化に一定の部分貢献したのは事実だが、彼らだけのカルテルを強固にすることで韓国社会に多くの問題を引き起こした」と言い、全北大学に通う22歳のイ・ジョンヒョンは「民主化運動が偉大なのは分かるけど、その経験を肯定的に活かすというより、20代を無視するために使っている感じが強い」と言うほどだった。ハンギョレが出会った大半の若者は「チョ・グク事態」以降、複数のメディアが掘り起こした386世代集団の「政治的偽善」にというより、好況を独占していた50代という、もう少し包括的な範囲の世代を名指しし、彼らが不況に耐える20代に現実を無視したところで上から目線で物を言うことに憤りを感じているように見えた。また我々は、「チョ・グク事態」の時にマスコミが掲げた若者言説は既成世代の目線で組み立てられていること、そして今の20代の若者は主流マスコミの言説に関心を寄せる余裕がないということを確認することができた。

 若者たちは力のある既成世代が20代を非難するのではなく、自らの持つ力でまずこの世の中を変えてくれることを望んでいる。「朴槿恵(パク・クネ)弾劾」後に新たに発足した政権に対する期待も大きかった。しかし、その期待は薄らいできている。イ・ジョンヒョンは昨年の大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)大統領に投票したが、今は支持する政党なしと明かした。「10代後半から民主党を支持していて、文在寅大統領にも票を投じました。文在寅大統領はただの大統領ではないと思います。朴槿恵大統領弾劾の後に、満塁の状況でリリーフ投手として登板したのです。大統領と与党も大変でしょうが、変わらないことが多すぎて失望してきています。来年の総選挙にはどこを選べばいいか確信が持てません」。

 失望を期待に変える呪文を、現政権はすでに持っている。「機会は平等で、過程は公正で、結果は正義の国」、さらに、機会が平等に保障されていない人々をも「結果の平等」政策で支える国。若者たちはそのような国になることを今も待ち望んでいた。

カン・ジェグ、キム・ユンジュ、キム・ヘユン、ソ・ヘミ記者

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/920074.html韓国語原文入力:2019-12-09 04:59
訳D.K

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