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[ルポ]「白ニョン島湿地帯は渡り鳥の中継地…DMZの一方的開発やめよ」

登録:2019-12-02 04:06 修正:2019-12-17 14:30
京畿道-ハンギョレ共同企画 
[DMZ現場報告書](8)「平和の道」の同伴者たち<終> 

「鳥と命の拠り所」「ハンス・ザイデル財団」など 
NGOの学者らが10年以上南北の生態系を調査 
持続可能な生態系、平和のため南北協力が必要 
DMZの南側の生息地破壊を防ぎ、野生生物の保全を
先月12日、仁川甕津郡白ニョン島ファドン村の平野で。「鳥と生命の拠り所」のナイル・ムーアズ代表が望遠鏡で鳥を観察している//ハンギョレ新聞社

 先月12日午後、西海最北端の孤島、白ニョン島(ペンニョンド)のだだっ広い平野に青い目の外国人が望遠鏡を持ってひとり立っていた。頭上に軍のヘリコプターがごう音を響かせて近づいてくると、野原の片隅にある貯水池で休んでいたガン数百羽が驚いて一斉に飛び立った。

 20年あまりにわたって南北を行き来し、鳥の生息地保全活動をしてきた「鳥と命の拠り所(Birds Korea)」のナイル・ムーアズ(56・鳥類学博士)代表は、気がかりな表情で野を眺めながら、しきりに頭を横に振った。

白ニョン島の位置//ハンギョレ新聞社

 仁川(インチョン)から船で191キロ、北朝鮮の黄海南道長山串(チャンサンゴッ)とは14キロ離れた白ニョン島の低山と丘陵、海岸のいたるところに重武装した軍人とものものしい軍事施設が北朝鮮からの攻撃に備えて神経を尖らせていた。

 2013年から毎年この時期に、白ニョン島で2~3週間ほど寝泊まりしながら鳥と湿地の調査を行ってきた英国出身のムーアズ博士は、白ニョン島の多くのタクシー運転手や、食堂や旅館の主人も顔見知りの親しい隣人である。

「鳥と命の拠り所」のナイル・ムーアズ代表が先月12日、仁川甕津郡白ニョン島のファドン村周辺で鳥と湿地の調査をしている//ハンギョレ新聞社

■白ニョン島の生態調査、今年で7年目 ナイル・ムーアズ博士

 「ファドン湿地は、わずか数年前の2013年の今頃でさえコウノトリ17羽をはじめ、コクチョウ、サカツラガン、ガン2千羽あまりが訪れて感動させてくれたけれど、今は何の価値もないデッド・スペースになってしまいました」。白ニョン島のファドン湿地で会ったムーアズ博士はカモが数羽浮いているだけの湿地を見て、深いため息をついた。

 彼は、ファドン湿地に鳥が来なくなったのは、湿地を横切る道路の開通と島全体を塗りつぶすように作られたコンクリート堤防などの分別なき開発のせいだと話した。コンクリート工場が3カ所もあるこの島は、コンクリートの道路と水路、橋、大規模なマンション団地開発など、島全体がコンクリートで覆われつつあった。

 彼がたどたとしい韓国語で白ニョン島が「東アジアの渡り鳥の移動経路」において重要な位置を占めており、保全が必要だと力説するその間にも、タゲリとノスリの群れが北に向かって休むことなく飛んでいった。先月1日と8日に白ニョン島で初めて発見されたカタグロトビやクロヅルなどがこの日も姿を現した。ムーアズ氏が取り出した手帳には、今回の調査で確認した鳥の種類、数、観察時間と場所が小さな文字で記録されていた。

仁川甕津郡白ニョン島ファドン村の入り口の塀に住民の顔が描かれている。住民の大半が北朝鮮黄海道出身の失郷民2世たちだ//ハンギョレ新聞社

 ムーアズ博士は「白ニョン島は、セマングム、錦江(クムガン)、牙山湾(アサンマン)などと比べると北朝鮮と隣接しているため、まだ環境が良くて生物多様性も豊かな方だが、鳥の種類と個体数は毎年減っている」と懸念する。特に朝鮮半島と山東半島を行き来する渡り鳥の中継地の役割をする白ニョン島に国際空港が作られれば、生態環境が破壊されるだろうと心配する。

 国土交通部は干拓事業で不毛の地となった127万平方メートルの用地に、民・軍兼用空港の建設を推進している。白ニョン空港建設は、北方限界線(NLL)と隣接しているため航空機の運航に慎重な態度を見せてきた国防部が電撃的に同意したことで、推進に拍車がかかっている。白ニョン空港は、政府の計画通りなら1154億ウォン(約107億円)の事業費を投じて来年着工され、2023年に竣工することになる。

 白ニョン島は、1991年に始まり2006年に完成した干拓事業により476ヘクタールの干潟が消え、干拓地と白ニョン湖ができた。韓国で14番目の大きさだったこの島は、干拓事業で8番目に大きな島となった。しかし、コメ余りで農地がそれ以上必要なくなると、干拓地は荒れ地として放置され、淡水だった湖も塩分濃度が高まり、農業用水としても使えない状態で放置された。

先月13日午後、海の向こう北朝鮮黄海南道長山串が望める仁川甕津郡白ニョン島頭武津に掲げられた太極旗が、強い雨風で半分ほど破れた状態ではためいている//ハンギョレ新聞社

 結局、住民だけがカキ、ワタリガニ、カレイなどが溢れていた黄金の漁場を失い、干潟に宿っていた生命も棲み処を失った。飛行機が離着陸するほど砂がしっかりしており、朝鮮戦争当時は天然の飛行場として使用されていた沙串(サゴッ)海岸(天然記念物391号)は、干拓事業後、潮の流れの変化でパサパサとした砂浜へと変貌した。

 ムーアズ博士は「空港ができれば観光客は訪れやすくなるだろうが、環境は破壊され、島はゴミなどで苦しむことになるだろう」とし、「韓国は1970~80年代のような金のない国でもないのに、経済マインドのみで考えてもよい未来は来ない。新しい考え方、別のやり方が必要だ」と述べた。彼は「白ニョン島は優れた景観と歴史、文化、生態などを持ち、持続可能なエコツーリズム、平和観光地として価値が高い。田畑や湿地、干潟の管理をしっかり行い、コウノトリを復活させれば、外国のようにファームステイ観光が可能になるだろう」と語った。

北朝鮮黄海南道龍淵郡と向かい合う仁川甕津郡白ニョン島鎮村里のハニ海岸に、北朝鮮の侵攻を防ぐための鉄条網と対戦車障害物が設置されている//ハンギョレ新聞社

■ 外国の研究者から見た南北非武装地帯の生態系

 10年以上も南北を行き来しながら、朝鮮半島の生態平和を研究してきた外国人研究者はムーアズ博士だけではない。15年前から北朝鮮で山林復元、有機農法などの協力事業をしてきたドイツのハンス・ザイデル財団韓国事務所のベルンハルト・ゼリガー代表(49・経済学博士)と梨花女子大学エコ科学部教授を務めたアマエル・ボルゼー博士(現在は中国の南京林業大学教授)が代表的だ。

 「鳥と命の拠り所」による調査の結果、朝鮮半島では約540種の鳥類が観察されており、特に非武装地帯一帯では、ハイガシラコゲラやタンチョウ、雁などの絶滅危惧種が多く棲息することがわかった。これは、民統線地域と国境地帯が外部の妨害から比較的安全で開発圧力が少ないためと分析される。

 ムーアズ博士は「最近、高城(コソン)地域で何千羽ものヒメウが夜にはDMZ北側の海金剛(へクムガン)岩で休み、昼には南側の巨津串(コジンゴッ)の海に餌を求めてやって来ているのを確認した」とし、「DMZと境界地域は陸上・海洋生物の実際の保護地域として、生物多様性を脅かす要素を適切に管理すれば、個体数を維持し、領域を拡大していける可能性がある」と述べた。「南北朝鮮は東アジア~オーストラリア間の渡り鳥の移動経路の中心地として、渡り鳥の生息地保護のために責任意識を持たなければならない」と強調した。調査によれば、西海岸の湿地はこの50年間で韓国の分別なき開発によって66%も減ったという。

先月14日午前、白ニョン島鎮村里の住民たちが対戦車障害物が並ぶ村の前のハニ海岸でカキを採っている//ハンギョレ新聞社

■ 韓国だけの一方的な非武装地帯開発計画は中止すべき

 研究者たちは、「北朝鮮でも干潟の埋め立てや森林伐採、川の浚渫などの開発が行われているが、韓国と比べればまだまし」とし、「韓国政府が一方的な開発をやめ、国境一帯の湿地に対する保護地域指定とラムサール条約への登録に積極的に取り組むべき」と強調した。

 ムーアズ博士は、「韓国は、DMZを平和プロセスの一部と見なしてDMZの未来について様々な開発計画を提案しているが、このような提案が生態系にどのような影響を及ぼすのか理解が足りず、国民に支持されているのかも明らかでない」とし、「北朝鮮と公式に合意した開発でないなら、DMZ内やDMZに直接影響を与える開発計画の一切を中止すべきだ。その代わり、DMZ一円の土地を買収し、その地域の農民を支援して生物多様性を豊かにしていくべきだ」と主張した。

 ゼリガー博士も「DMZ一円が世界的な生態・平和観光地になるためには、新しい建物や道路を作るのではなく、自然保護地域として統合管理しなければならない」と述べた。ボルゼー博士は「現在行われている開発プロジェクトが多い上、水陸両方で暮らす生物のための生息空間がほとんどないことが最大の問題だ。破壊されているDMZの南側の生息地の悪化を防ぎ、野生生物を保護することが何よりも急がれる」と述べた。

白ニョン島/文・写真 パク・ギョンマン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
白ニョン島の海岸に建てられた天安艦46勇士慰霊塔//ハンギョレ新聞社
https://www.hani.co.kr/arti/area/capital/919081.html韓国語原文入力:2019-11-30 11:13
訳J.S

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