北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の「ポスト・ハノイ」戦略の初手は「新朝ロ蜜月」を通じた対米交渉力の向上であることが明らかになった。特に、伝統的な友軍ロシアを新たなメッセンジャーとし、今後の朝米交渉に対する金委員長の“戦略変更”のシグナルを送った。非核化交渉の核心議題を北朝鮮の「体制保証」に替えるというメッセージで、交渉フレームの変化を予告したものと見られる。
26日付の「労働新聞」と「朝鮮中央通信」によると、金委員長は前日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との拡大会談で、ハノイでの第2回朝米首脳会談が「(米国の)一方的であり、善意に基づかない態度」のため決裂したと述べた。また、現在の情勢を「膠着状態」と規定し、「振り出しに戻りかねない危険な状況」に至ったという判断も隠さなかった。
さらに金委員長は「朝鮮半島の平和と安全は全的に米国の今後の態度にかかっている」とし、「我々はすべての状況に備える」と述べ、米国を圧迫した。金委員長が、今月12日に開かれた最高人民会議14期第1次会議の2日目の施政方針演説で明らかにしたように、米国が「正しい態度」と「共有できる方法論」を年末まで模索できなかった場合は、「新たな道」に進む可能性もあるという“第1次警告”を鳴らしたものと見られる。
このような情勢認識をもとに訪ロした金委員長が、プーチン大統領との会談で、北朝鮮の体制保証の要求を掲げたという点は注目に値する。25日の朝ロ首脳会談後の記者会見で、プーチン大統領が明らかにした「非核化の前提」としての体制保証の要求は、金委員長の対米交渉戦略の変化を示唆するからだ。北朝鮮事情に詳しい元政府高官は「これまで終戦宣言と制裁解除を要求してきた北朝鮮が、ハノイ交渉が決裂したことを受け、弱点とされる制裁問題を交渉の議題から外し、体制保証で交渉する方針を固めたものと見られる」と述べた。金委員長はこれに先立ち、施政方針演説で、「制裁解除問題にはこれ以上こだわらない」と述べた。同演説では、どのようなカードで交渉するかを明らかにしなかったが、今回は具体的な方法論を提示したわけだ。
北朝鮮の体制保証の要求は目新しいものではないが、北朝鮮が核開発に乗り出した理由であり、北朝鮮側の最も根本的な要求事項であることから、非核化交渉への険しい道を予告するものと見られている。体制保証の核心は軍事問題で、在韓米軍の駐留と韓米合同軍事演習を含め、国連軍司令部問題や米国の核の傘問題まで、すべてが交渉議題になり得るからだ。
体制保証の争点は、周辺国の利害関係が複雑に絡み合っている70年間近くにわたる古い難題であるうえ、北東アジアの安全保障の地形を揺るがしかねない事案だ。したがって妥協点を見出すことも容易ではない。元政府高官は「北朝鮮が体制保証を掲げると、状況は今よりもはるかに解決が難しくなる」とし、「結局、北朝鮮が非核化交渉の長期化を考えているということ」だと説明した。
ハノイ会談が物別れに終わった直後、深夜記者会見に臨んだリ・ヨンホ外相も「我々が非核化措置を取っていくうえで重要な問題は、安全を担保する問題だが、米国がまだ軍事分野の措置を取るのが負担だろうとみて、部分的制裁解除を相応措置として提案した」と述べた。結局、今度は北朝鮮側がハードルを高めている格好だ。ただし、金委員長が年末まで米国の勇断を待つと述べており、戦略の変更が固定化する前に、まだ交渉の余地はあるとみられる。
金委員長がロシアのウラジオストクで滞在した時間は2泊3日と長くはないが、「ポスト・ハノイ戦略」の青写真を示したという評価もある。韓国と中国に期待していた対米戦略のテコを、8年ぶりの朝ロ首脳会談を通じてロシアに拡大し、対外的地位の強化に乗り出したということだ。今回の会談で、朝鮮半島問題をめぐるロシアとの「戦略的・戦術的協同」の強化を強調し、「朝ロ関係発展の新たな全盛期」を決心したのも、同じ脈絡だと言える。統一研究院のホン・ミン北朝鮮研究室長は「北朝鮮が現在の構図で行けば、結局別の道に進む可能性もあるという点を、ロシアを活用して絶妙に示した」と評価した。金委員長がボールを再び米国に渡したということだ。