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治安・福祉関連ネットワークに穴…彼の「危険信号」に誰も対応できなかった

登録:2019-04-19 09:15 修正:2019-04-19 10:38
2010年に監護所で統合失調症の判定 
その年に出所後、2015年末マンションに入居 
「他の人が自分を監視」 しばしばトラブル 
危険性を認知したがどうすることもできず 
 
警察、事件が起きた後になって前科を確認 
保健所・役場は病歴を知らず 
A氏、精神病歴者に登録もされていなかった
「晋州マンション惨事」被疑者のA氏が先月12日夕方、上の階の玄関前に汚物を撒いている。上の階の住民が設置した防犯カメラに写った画面=慶南警察庁提供//ハンギョレ新聞社

 17日、重症精神疾患者によって発生した「晋州(チンジュ)マンション殺人事件」と関連し、治安・福祉サービスと近隣の共同体など社会セーフティネットがもっときめ細かであれば事前に防ぐこともできたという指摘が出ている。度重なる住民らの申告にも関わらず、被疑者のA氏(42)の統合失調症の病歴や暴力の前科などは警察や保健所、町役場などでまったく把握されていなかったためだ。

 18日、警察の説明によると、被疑者のA氏は2010年に暴力行為で逮捕された後、公州(コンジュ)治療監護所で統合失調症の判定を受けた。また、A氏は2015年1月から2016年7月まで晋州の精神病院でも統合失調症の治療を受けたが、その後は何の治療も受けず、薬も服用しなかった。その間彼は、誰かが自分を攻撃しようとしているという被害妄想に悩まされてきた。

 このような被害妄想のために、A氏は2015年12月に晋州市加佐洞のJマンションに入居した後、マンションの管理事務所の常連の苦情者だった。ともすれば「上の家が虫を投げる」「他の人が自分を監視している」などの苦痛を訴えた。ある時はベランダの窓を開けて罵ったり大声をあげたりもし、隣りの家を訪れ階間の騒音に対して激しく抗議したり、汚物をまき散らしたりもした。

 このようなことのため、近隣の住民とのトラブルは頻繁だった。彼は今年に入って7回にわたり警察に申告されたが、このうち5回がマンションの住民たちとの摩擦だった。しかし、申告を受けて出動した警察は最後の1回だけ財物損壊の疑いで立件し、ほかの4回はすべて「単にマンションの住民の間のもめごと」と判断して何の処置も取らなかった。警察がA氏の前科記録や病歴を確認したのは、今回の事件が起きた後だった。

 A氏に治療薬や相談を提供すべきだった管轄保健所や役場も、A氏が精神疾患を患っているという事実を全く把握していなかった。保健所傘下の精神健康福祉センターは、登録された精神病歴者を管理しているが、A氏は登録されていなかった。本人や保護者がセンターに登録しなければ分からないが、A氏は自ら登録せず、独りで暮らしていたため、代わりに登録する家族もいなかった。

 このような点から、重症精神疾患者や精神疾患で犯罪を犯したことのある人は、本人の意思とは関係なく管轄警察署や保健所で把握するようにすべきだという意見が出ている。東国大学警察行政学科のイム・ジュンテ教授は、「不快感を与えた程度の事件で警察が被疑者を隔離することは難しい。そのうえ警察は精神疾患の履歴を照会することができず、保健所では精神疾患者の犯罪履歴を確認することができない。今回の事件は、病院で治療を受けなければならない人が社会の真ん中に放置されたもの」だと話した。高麗大学社会学科のファン・ミョンジン教授も、「重症精神疾患者が病院から出た時、社会で放置してはならない。地域社会で当事者のプライバシーを侵害しない範囲内で管理体系を備えなければならない」と述べた。

 政府の公式的な社会セーフティネットのほか、地域共同体の役割が重要だという指摘も出ている。A氏のような犯罪経歴のある精神疾患者を見守りながら、サポートしたり統制する隣人がいれば、家族のいないA氏でもその危険性を事前に発見できたためだ。慶尚南道のユン・ナンシル社会革新推進団長は、「住民がマンションを共同体と認識していたなら、A氏の問題を一緒に考え、解決策を探ろうとしていただろう。直接的な被害者数人ではなく、入居者団体レベルで問題を提起していれば、警察や保健所の対応も違っただろう」と話した。

 実際、被害に遭った近隣の住民らはA氏の危険性を何度も認知したが、住民たち自身も、マンション管理事務所もどうすることもできなかった。管理事務所側は「私たちは賃貸マンションの管理者である土地住宅公社に『A氏を退去させてほしい』と要請しただけ」と釈明した。

 光州市(クァンジュシ)光山区(クァンサング)でマンション地域共同体運動を繰り広げているパク・ジョンミン河南総合社会福祉館長は「重症精神病歴者は必ず兆候を見せる。そういうときこそ家族や友人が必要になる。誰かがそばにいたら、簡単に極端な状況にはいかない。また、役場、保健所の精神健康支援センター、福祉館、警察署などが重度精神病歴者の情報を共有し、一緒に管理しなければならない」と話した。

チェ・サンウォン、チョン・デハ、チェ・ユンテ、イ・ジョンギュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/area/890605.html韓国語原文入力:2019-04-18 23:23
訳M.C