「本当に運がいいですね」
「自営業者の略奪者」企画取材を始めて、予備創業者として創業を試みた時、創業コンサルティング業者から最も多く聞いた言葉です。「良い店がちょうど一つだけ出てきましたが、情報をご存知な方だけが幸運をつかみます」と言うのです。なぜ、私にだけに、それも創業を試みた瞬間に幸運が訪ねてきたのでしょうか。私は本当に運が良い人なのでしょうか。
自営業をして廃業した人々を取材して、しばしば聞いた話も「運」でした。「以前はこの店で商売がうまくいったというのに、私には運がなかったようです」という話です。そばに別のカフェができて、流動人口が減って、賃貸料が突然上がって…自営業はうまくいくも廃業するも、結局は「運しだい」なのでしょうか。
こんにちは。探査チームのチャン・ナレです。その「運」の実体を把握するために、私に幸運をつかまえろといった創業コンサルティング業者に潜入してみました。取材結果は3回の記事(1.創業コンサルティングの実体 2.創業コンサルティング-フランチャイズの共生関係 3.新都市商店街の分譲“設計”という順)で書きました。
関連資格と経験が全くないのに、私は入社するやいなや“課長”の肩書を付けました。運のせいにする人々を選び出し、権利金を削り取る作業に投入されました。一銭でも多く受け取りたいという譲渡人と、一銭でも少なくしたいと思う譲受人の間で、権利金をもてあそんだ分だけコンサルティング手数料という月給を受け取りました。何も知らず、しかも人の意見に左右されやすい私のような初心者の創業者は、だましやすく“好都合な”購買者に分類されるということをその時知りました。情報が不足した市場で、自営業で儲ける“幸運”を教える専門家のふりをする創業コンサルタントの実体。彼らは毎年決まったように自営業市場に新しく進入する100万人余りを狙います。
契約当事者どうしが高額の手数料がのせられた権利金に合意したなら、何の問題があるのかという反論もあります。しかし、創業コンサルティングの悪だくみが十数年間続いたことで、初期創業費用は幾何級数的に増えました。創業コンサルティング業者らは、手数料が1500万ウォン(約150万円)も出ない店舗は取り扱いさえしません。彼らが契約一件当り創業者から受け取るお金は、基本が2千万ウォンから1億ウォン(200万円～1千万円)に達します。このような構造により、韓国社会の自営業は始めた段階で多額の金を失い、その金を挽回するためにもがく“ゲーム”のようになってしまいました。
さらに大きな問題は、創業コンサルティング業態自体が詐欺基盤の上にあるということです。業者らは偽の客を前面に出して権利金をまけさせ、売上と純益を膨らませて売買を仲介します。譲渡人と譲受人が互いに会えないようにする、別名「暗闇契約」を誘導するので、中間でごまかすことができるのです。無資格で店舗売買を仲介することは、公認仲介士法（宅建業法）違反です。現金取引が主流の権利金市場で、きちんと所得申告もせず、脱税が慣行化された構造です。報道後、相次いでホームページを閉鎖した創業サイトもやはり「虚偽売り物」で処罰が可能です。
取材をしながら最も苦々しかったことは、自営業者が創業コンサルティング業者の悪だくみにはまって、自ら他の自営業者の加害者になる構造でした。自営業者がよく口にする自嘲の中で「自営業で金を儲ける方法は、権利金商売しかない」という話があります。商売がうまくいかない店舗を権利金に高額手数料まで付けて売らなければならない瞬間、譲渡人も加害者になります。創業コンサルティング業者は「共犯」であることを悟らせ、譲受人に徹底した口封じをします。そして遠からず、譲受人だった自営業者はまもなく譲渡人になります。爆弾回しであるわけです。
人生100年という時代、賃金労働だけで人生を最後まで営んでいくことは困難です。それで今日も熱心に「創業」が薦められます。人生第2幕の設計のために、老年層も創業しなければならないと言い、就職が難しい青年層も「創業」で道を探せといいます。創業コンサルティング業者は、この隙間に正確に食い込みました。誰かが必ず商売しなければならないこの社会で、創業コンサルティング企業らはいくらまで利益を取るのが適正なのか何も基準がない権利金構造に寄生します。そのようにして韓国社会の多くの人々が、建物オーナーとフランチャイズ本社に労働の対価を上納する“現代版小作農”になると同時に、自営業市場に進入する次の人を対象に潜在的詐欺を準備する二重的存在になっていきます。自営業が廃業するのは「運」のせいではありません。
訳J.S
