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“予告された家庭内暴力殺人”に目をつむる社会…“安全離別”を保障せよ

登録:2018-10-29 23:23 修正:2018-10-30 07:46
「家庭内」認識で出動しても消極対応 
「接近禁止命令」してみても従わなければそれまで 
女性団体会見「国家が強力対応せよ」 
反意志不罰罪の廃止・逮捕をまず要求
29日午前、ソウル市鍾路区の世宗文化会館前の階段で開かれた「国家の家庭内暴力への対応を強力糾弾する記者会見」参席者が、家庭内暴力への強硬対応を求めるプラカードを持っている=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 家庭内暴力の加害者である夫は、Aさんと6歳の息子をとうとう探し出した。Aさんが9月に家庭内暴力被害者のための“憩いの場”から出所して間もなくのことだった。暴力に耐えられず離婚訴訟中だったAさんは「住民登録閲覧および謄抄本交付制限」と「住民登録番号変更」を申請していたが効果はなかった。夫はAさんの印鑑を盗用して、息子を自身の住所に転入させ、Aさんの現住所を知った。夫が自宅を訪ねて来始めるとAさんは再び憩いの場に隠れざるを得なかった。

 Aさんのように隠れることが出来なかった被害者の一部は命までも失う。離婚して、電話番号を変え、改名して、引越しまでしても、家庭内暴力加害者の追跡と暴力は止まらない。最近起きたソウル市江西区(カンソグ)登村洞(トゥンチョンドン)の駐車場事件も“予告された家庭内暴力殺人”事件だった。「韓国女性の電話」など690の女性団体は29日、ソウルの世宗(セジョン)文化会館前で「国家の家庭内暴力への対応を強力糾弾する」記者会見を行い、9年間に少なくとも824人の女性が親密な関係の男性に殺害されたと明らかにした。家族や恋人関係で発生する女性対象犯罪が何件起きたのか、国家の公式統計は存在しない。「家庭内暴力犯罪の処罰等に関する特例法」(家庭内暴力処罰法)が制定されて20年が過ぎたが、家庭内暴力を“家庭内”の問題と考える認識も相変わらずだ。“予告された殺人”が続くのもそのためだ。

■従わなければそれだけの「接近禁止命令」

 「警察に(家庭内暴力を)申告しても、隔離や接近禁止などの緊急臨時措置が取られたのは100件当たり0.4件に過ぎない」。この日ソン・ランヒ韓国女性の電話事務局長が明らかにした家庭内暴力に対する処罰の実態だ。イ・ジェジョン共に民主党議員が警察庁から入手した資料によれば、2015年から2018年6月までに検挙された家庭内暴力事犯16万4020人のうち、拘束された人は1632人に過ぎなかった。一方、家庭内暴力の再犯率は同じ期間に4.1%から8.9%に2倍以上増えた。また、家庭暴力事犯の起訴率は8.5%(2016年基準)に過ぎない。加害者を処罰する代わりに、相談を条件に起訴を猶予する制度が施行されているからだ。

 被害者が頼る法的手段は「接近禁止申請」程度だ。キム・スジョン弁護士は「被害者が受ける“接近禁止申請案内書”が、あたかも金科玉条のように見なされている」と話した。現行の「家庭内暴力処罰法」は、「緊急臨時措置」や「被害者保護命令制度」を通じて、加害者を住居地から退去させたり被害者の家と職場から100メートル以内への接近を禁じている。だが、これに違反したとしても、過怠金の賦課で終わるために実効性が低い。住民登録の閲覧を制限するなど、被害者の個人情報保護を優先する方向で制度を改善しなければならないという主張が出てくるのもそのためだ。

■“予告された殺人”、その端緒から防げ

 元夫、元恋人の暴力は奇襲的に襲ってくるわけではない。監視や威嚇のような“ストーキング”は、処罰制度が見逃す重要な端緒だ。イ・スジョン京畿大学教授(犯罪心理学)は「ストーキングが常習的に繰り返されれば、加害者を拘束しなければならない」と強調した。別れの直後から暴力が発生するまでの処罰“空白”期間から厳正に対応してこそ“予告された殺人”を減らすことができるという話だ。国会には「ストーキング犯罪の処罰等に関する特例法」制定案が5件発議されているが、2年以上にわたり係留中だ。

 最近釜山で発生した「一家殺害事件」のように、婚姻関係でない間柄で発生する暴力も死角地帯だ。キム・ジェリョン弁護士は「デート暴力は、接近禁止のような臨時措置を取れる条項すらない。『家庭内暴力処罰法』に規定された家族範囲を、別れた恋人にまで広く解釈しなければならない」と主張する。実際、米国ミネソタ州の家庭暴力法は、法の適用を受ける対象を配偶者だけでなく「現在共に居住中や、過去に共に居住した人」、「有意な恋愛関係や性関係に関連した人」まで包含している。

■“家庭の平和”の代わりに“被害者保護”を

 チ・ソンミ女性家族部長官はこの日午後、ソウル市江西区のあるカフェで、家庭内暴力で母親を失った3人の姉妹に会って慰労し、こうした悲劇が繰り返されないよう関連法制度の改善に最善を尽くすと明らかにした。

 米国のように「逮捕優先主義」を導入することも代案に挙げられる。米国の多くの州では「推定拘束制度」を設け、現場で暴力がなくとも警察が推定し暴力があったと認められれば、加害者を逮捕し調査する権限を付与している。

 「家庭の平和と安定の回復」を目標にする家庭内暴力処罰法の目的を、「加害者の処罰」と「被害者の保護」に変えて、「反意志不罰罪」条項を廃止する必要もある。現在国会には、被害者が処罰を願わなくとも公訴を提起できる条項を新設する「家庭内暴力処罰法」改正案が発議されている。

パク・ダヘ、ファン・イェラン、シン・ミンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/women/867885.html韓国語原文入力:2018-10-29 20:04
訳J.S

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