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安煕正前知事、性暴力裁判で一審無罪「威力関係は事実だが威力を行使した証拠ない」

登録:2018-08-15 00:45 修正:2018-08-15 07:19
裁判所「威力による性暴力ではない」 
女性界「被害者に沈黙を強要する判決、 
加害者に抜け出すマニュアルを与えたということ」
今月14日午後、ソウル麻浦区のソウル西部地方裁判所の前で花火フェミアクションのメンバーが秘書のキム・ジウン氏に性的暴行を加えた疑いで裁判に持ち込まれた安煕正前忠清南道知事に対する一審無罪判決を糾弾して集会を開いている=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 権力を利用して政務秘書に性的暴行を加えた容疑で裁判に持ち込まれた安煕正(アン・ヒジョン)前忠清南道知事が一審で無罪判決を受けた。1月、昌原(チャンウォン)地検統営(トンヨン)支庁のソ・ジヒョン検事の「権力型性暴力」の暴露後に触発された「#MeToo運動」の初の判決だっただけに、これから先の「#MeToo」裁判にも影響を及ぼすものとみられる。女性界は「今回の判決は性暴力を認知し、社会に知らせるまで何百回も悩むのを繰り返す被害者たちに沈黙を強いること」だとし、裁判部の決定を糾弾した。

 ソウル西部地裁刑事11部(裁判長チョ・ビョング)は、14日に開かれた安前知事の判決公判で、安前知事のすべての容疑に無罪を言い渡した。今回の裁判は安前知事の「業務上威力」を裁判部が認定するかが核心だった。威力とは「人の意思を制圧できる有形・無形の力」を意味する。

■「威力行使の証拠不足」との判断…女性界の反発

 裁判所は「安前知事と被害者のキム・ジウン氏が業務上威力関係にあるという点は認めることができるが、安前知事が威力を行使して姦淫したという証明が不足する」と判断した。裁判所は判決文で「有力な次期大統領選候補として取り上げられている点、別定職公務員である被害者の任免などの権限を持っているという点で、これは威力に該当する」と認めた。しかし、裁判部は「被告人が威力を一般的に行使してきたり、これを乱用して『威力の存在感』自体で被害者の自由意思を抑圧したと見るような証拠が不足し、抵抗を困難にする物理的強制力が行使された具体的証拠は見当たらない」とし、「最も重要で核心的であり事実上唯一の証拠が被害者の供述」だと明らかにした。

 女性界は強く反発した。キム氏を支援する安煕正性暴力事件共同対策委員会(共対委)は、判決の後、西部地裁前で記者会見を開き、「暴力事件の強力な証拠である被害者の供述の信憑性を否定し、依然として業務上威力に対する判断を厳しく狭く解釈した」とし、「被告人の権勢と影響力が行使され、被害者が抵抗すべきかどうか答えを出せない状況に至ったた基本的な状況を、裁判所がきちんと読み取れなかった」と批判した。さらに、「性暴力が起きたその時、その空間における有形の力の行使だけに焦点を合わせた狭い解釈と判断は、強姦について性的自己決定権を行使できなかった事情をもれなく調べる最近の最高裁判例の流れにすら追いついていないもの」だとし、「威力による姦淫とわいせつ行為の条項が死文化されている」と主張した。

■「抵抗しなかった」対「男性中心の性暴力通念」

 裁判所はキム氏の供述を「そのまま信頼しがたい」と判断し、その根拠にキム氏が積極的な抵抗をしなかったという点を注目した。判決文のうち「被害者は床を見つめながら、つぶやく形で拒絶の意思を表現したと言うが、被告人の要求でそっと抱く行為に及んだりもした」「被害者は被告の行為がMeToo運動に反すると言及したり、オフィステルのドアを開けて出ていくなど、最小限の回避や抵抗をしなかった」などがそのような内容だ。裁判所はさらに、「女性が自由意思の制圧がない状態で、性関係を結ぶことを決定したにも関わらず、事後に相手側の処罰を要求するのは、性的自己決定権を自ら否定する行為」と判断した。安前知事弁護人団がキム氏を「学歴の高い女性」「主体的で決断力のある女性」などと描写した弁論の戦略を裁判部がそのまま受け入れたわけだ。

 しかし、裁判所のこのような論理は裁判過程でキム氏が「被害者であることを立証するために」向き合わなければならなかった苦痛をそのまま再現したものという批判が出ている。韓国性暴力相談所付設研究所「ウルリム」のキム・ボファ責任研究員は「性暴力犯罪で、なぜ抵抗しなかったのかを被害者に尋ね、抵抗しなかった責任さえも被害者に負わせてきたが、今回の事件も同じ脈絡」だとし、「被害者だったらこうしただろうという基準を作っておいて、本物と偽物の被害者を分けようとするのはあまりにも古い男性中心の性暴力通念」と話した。キム研究員はさらに、「どんな性暴力の状況でも女性は大声を出して抵抗することが可能だという考えは、現実とかけ離れている」とし、「韓国社会が『威力』をどのように見ているのか、今回の判決で明らかになり絶望感を感じている」と話した。

 裁判所が安前知事に不利な供述などは受け入れなかったという指摘もある。キム氏を支援するチョン・ヘソン弁護士は「キム氏がテレビ放送で初めて被害事実を知らせた後、安前知事自らフェイスブックに認めた自己告白は何だったのか、威力による姦淫ではなく合意で行われた性関係なら、その証拠は果たしてどこにあるのか、被害者の言葉に合致する前職の随行秘書の証言はどうしてそのように簡単に排斥したのか、あまりに多くの疑念を残す判決」と指摘した。

■権力型性犯罪に「免罪符」の先例つくる懸念

 同日の判決が類似した権力型性犯罪に「免罪符」を与える恐れがあるという懸念も提起された。共対委は「あらゆる有形力・無形力を行使し苦しめる上司たちはもう『免許』を持つようになったのか? 性暴力で告発されず、告発されても抜け出せるマニュアルを持つようになったのか?」と裁判部に問い返した。

 民主社会のための弁護士会のイ・ソンギョン弁護士は、性犯罪を扱う司法部の態度が一歩前進する機会を逃したとみた。イ弁護士は「韓国社会には業務上威力による性犯罪が蔓延している。学校の先生であることもあり、学校の先輩、職場の上司であるかも知れない」とし、「象徴性を持った今回の事件の判決を通じて蔓延した業務上威力による性犯罪に警鐘を鳴らすことを願っていたのに、この日の無罪判決で一歩も前に出られなかった」と評価した。さらに、「マスコミのスポットすら受け取ることのできない類似の事件に悪影響を及ぼさないことを望む」と付け加えた。

 被害者のキム氏はこの日、裁判後に立場文を発表し、「法廷で被害者らしさや貞操について話された時、結果はすでに予見されたのかもしれない」とし、「この不当な結果にへこたれず、権力者の権力型性暴力が法によって正当に審判を受けられるように最後まで闘う」と明らかにした。同日、裁判後に取材陣の前に立った安前知事は「国民の皆様、申し訳ありません。恥ずかしいです。たくさん失望させました。生まれ変わるようさらに頑張ります」と頭を下げた後、裁判所を後にした。検察は「被害者は被害事実を一貫して供述し、さまざまな人的・物的証拠によって被害者の供述の信憑性が認められたにも関わらず、裁判所は異なる判断をした」とし、控訴する考えを明らかにした。

チャン・スギョン、イム・ジェウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/857638.html韓国語原文入力:2018-08-14 22:37
訳M.C

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