原文入力:2011/07/15 02:06(3017字)
朴露子(バク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学
去る2011年7月8日、「平昌に決まった」という知らせを私はタクシーのラジオ放送で聞きました。講義を終えてからほとんど疲れきった体で宿所に戻ろうとしていましたが、急に放送局のニュース解説者のすすり泣くような震える声が聞こえてきました。解説者の口調から、疲労でほとんど夢うつつの状態だった私はそれが平昌の話ではなく平壌放送ではないかと思うほどでした。そこでも最高指導者などの神聖視される人物や彼らに関わる催しなどについては、通常いかなる拒否も許さない、ほとんど絶対的な感情が充満した口調でニュースを伝えています。「平昌に決まった」という話の口調も同様にいかなる反対も基本的に許しませんでした。私たちの力強い跳躍!一流先進国の夢が現実に!世界4大スポーツイベント開催国!強くなった私たちの国力!国民の力で!このような掛け声に反対の声を出す人なら、大韓民国の国籍を剥奪されなければならない国敵、非国民に違いないといった雰囲気でした。いや、大韓民国という国家は必ずしも警察の鎮圧棒や下請けやくざたちの角材、鉄パイプだけでその反対者たちを取っ捕まえているわけではありません。集団ヒステリーへと駆り立てるレベルにおいては、まさにゲッベルス(Paul Joseph Goebbels、1897~1945)博士にちょっとした教えを授けることができるのも韓国官辺、親資本的なメディアです。この雰囲気がどんなに圧倒的なものだったら、普段は少しでもまともな状態を保っている『京郷新聞』さえも急に「平昌の夢、夢の祝祭」のような、その新聞らしくない話を取り上げざるを得なかったのでしょうか。『京郷新聞』さえも揺れるほどなら、もはや天下のすべてが酔いどれ状態で正気を失っていると見なければなりません。そして昔の賢者の教えどおり、天下がすべて酔っているなら そこで酔っていない人ほど危うい存在はないのです。
「平昌の夢」を口にする人々は、88年ソウル五輪をよく引き合いに出します。「88の夢」が韓国を一瞬にして後進国から中進国に変えたなら、平昌は「先進化跳躍」への一里塚になるというような話です。まあ、「88の夢」は生きる場を追い出され数万もの露天商たちには悪夢中の悪夢だったのですが、何より生きる基盤を根こそぎ失ってしまった撤去民たちには文字通り最悪の悪夢でした。オリンピック関連の再開発で追い出された約3万名の河川敷の住民たちが1983年から熾烈な闘いを繰り広げ多くの犠牲者を生んだ木洞、『上渓洞オリンピック』というインディーズ映画で国際的にも有名になった上渓洞の撤去民たちの闘い、オリンピックを控え上渓洞の撤去現場で圧し死された生徒オ・ドングン君と彼の死体を盗み密かに火葬させた殺人魔的な独裁権力の「事件処理方法」、新堂洞撤去民闘争における幾多の死亡者、負傷者たち ― 私たちは最早これらのことを完全に忘れたのでしょうか。参考までに申し上げますと、「オリンピック残酷史」は必ずしも露天商や撤去民たちに限りません。平昌の7兆ウォンの華麗な競技場など様々な施設を直接作る人々は、建設下請企業などが(多くは口頭契約,日当などで)雇う非正規労働者と外国人労動者たちです。このような時は安全規則が守られないことは日常茶飯事で、死亡事故を含む事故が多発します。今現在4大河川殺し事業の過程で20人もの労働者が「無理心中」させられてしまいました。彼らの非業の死について平昌誘致の「夢」を成し遂げたと話した大韓民国を代表する当該長官は「事故らしい事故は何件もなく、その多くは本人のミスで……」と言いましたが。「平昌の夢」が繰り広げられる過程で果して何人の労動者たちが「本人のミスで」圧死、転落死、感電死、衝突死などをさせられるのでしょうか。「平昌の夢」をおっしゃる方々は、果して圧しつぶされ骨の一本一本が折れ、人が死に行く瞬間に何を思うか、少しでもわかるのでしょうか。いや、国家と資本ほど多くの殺人を犯す主体もありませんが、その下手人たちは人間の生と死に対してそれほど深刻に悩んだりはしないようです。
「88年ソウル五輪が韓国を世界に知らせた」と?その通りです。幾多のアジア諸国の庶民たちに韓国を「先進的で豊かな国」と知らせた結果、絶望的な貧困を脱出しようとする彼らの行列は1989~90年から韓国に向かうようになりました。彼らを待っていたものは?低賃金長時間労働、「早く早く、こん畜生」といった美しいわれらの国語の真髄、賃金未払い、そして取り締まり、取り締まり、取り締まり……。「夢」は悪夢だったことの実体を現わしてしまいました。もちろん貧乏人の悪夢は金持ちの吉夢のはず。被害を被る方がいれば、得をする方も確かにいるものです。1988年のソウル五輪の場合は、その開催期間に「偉いお客さん」たちを満足させるための性産業がほとんど国家的な後援を受けた結果、性産業大国としての偉大な大韓民国は近い日本のみならず遥か彼方の欧米にまで その名声を轟かせ 大いに国威発揚しました。今や一流先進国に相応しくその性産業も数万人のフィリピン、ロシア、中国、北朝鮮出身者を多様に雇い(あるいは準奴隷のようにこき使い)「模範的な性産業国」である日本を明日にでも圧倒しそうな勢いです。克日の快挙?「平昌の夢」は幾多の抱主たちにも吉夢ですが、それと同時に我ら皆の血税である7兆ウォンを工事費に注ぎ込み、その多くから暴利を貪る建設業者にも福音のような知らせです。不動産バブルが今にもはじけるかどうかという最近の沈滞状況では本当にすごい知らせです。地価は上がるでしょう。ほかにも公式後援業社たちも水を得た魚の気持ちでしょう。三星と韓進が後援するオリンピック祭典の中で、誰が白血病で死んだ人々や釜山影島で最近非業の死を遂げた3人の労働烈士や、スービック造船所で数年間に事故死させられた30名余りのフィリピン労働者たちを覚えていますか?オリンピックの「夢」はあらゆるものを覆い隠してしまいます。不法相続から殺人的な労働弾圧まで。
話が長くなってしまいました。事実、敢えて今の私のように言葉をたくさん濫用しなくてもオリンピックが土建業や放送業、小売業、性産業などのための国家の格別の「浮揚策」という点も、また愚民化、すなわち民衆に対する国家、資本の包摂の機構として活用されるという点もあまりにも自明のことです。私にとって自明でないのは一つだけです。一体、資本独裁の虜である私たちは、どうして私たちの血税で百害あって一利ない無駄使いをする支配者たちを相手にまともに闘いを挑むことすらできないのでしょうか。4大河川殺し事業や済州島海軍基地建設反対闘争があるなら、平昌での土建業者たちの大きな宴に反対する闘いが一つくらいは組職されなければならないのではないかと思います。私たちはその程度も国家や資本から精神的に独立できなかったのでしょうか。悔しいです。本当に悔しいです。
原文: 訳J.S