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「けんかして仲良くなる」というトランプ大統領の新ドクトリン【コラム】

登録:2026-01-16 07:23 修正:2026-01-17 07:17
米国のドナルド・トランプ大統領が13日(現地時間)ミシガン州デトロイト訪問を終えてメリーランド州アンドルーズ統合基地に到着した後、記者団と話している=プリンスジョーンズ/ロイター・聯合ニュース

 米国のドナルド・トランプ政権が、ベネズエラ侵攻に続き、イランにも武力介入の脅しをかけている。主権国家に対して武力侵攻を、あたかもビリヤードの玉を突くように行うことについて、国際法違反だとか戦後国際秩序が崩壊するとか言うことには、もはや口が疲れるほどだ。

 ベネズエラ侵攻やグリーンランドを米国領にすると脅すのは、いわゆるトランプ大統領の「ドンロー主義」、すなわち西半球優先主義の戦略だと解釈される。トランプ大統領の西半球優先主義は、米国の国力の限界に対応したものだ。全世界的に米国が主導した自由主義国際秩序の覇権を維持するための費用と義務には、もはや耐えられなくなり、もう負担したくないというのが、トランプ大統領の主張と行動だ。米国はアメリカ大陸に堅固な城塞を築き、雄大なユーラシア大陸については、オフショア・バランシング戦略を採用しようとしている。中国とロシアにはある程度の勢力圏を認め、代わりに、この地域では米国の同盟国を前面に出して勢力均衡をはかり、必要な場合には米国が介入するというものだ。

 ベネズエラ侵攻によって、カリブ海に対する米国の掌握力は明らかに高まった。しかし、問題は、今回のベネズエラ侵攻の実益は何かということだ。

 ニコラス・マドゥロ大統領の身柄を確保したが、ベネズエラでは依然としてマドゥロ大統領不在のマドゥロ政権は維持されている。トランプ大統領はマドゥロ大統領さえ捕らえれば、ウゴ・チャベス前大統領以降のベネズエラの既存勢力と、よく言えば協力し、悪く言えば癒着している。ベネズエラの石油の統制権を確保できるかもしれないが、石油会社は投資を避けている。生産コストが高いうえ、老朽化した生産施設を修復する費用を計算すると、ベネズエラの石油は石油会社にとっては、食べられはしないが捨てるには惜しい鶏のあばら骨(鶏肋)のような存在だ。もともと石油メジャーは、石油の需要が減少して供給が増加している現状を考慮し、ベネズエラの石油を市場から完全に排除することを望んでいたという話も出ている。

 現時点では、依然として戦略資源である石油に対する全世界的な統制力を確保し、中国とロシアに圧力を加えるという壮大な戦略的構想と解釈することもできる。イランへの武力介入も、そのような観点でみることもできる。中国は消費する石油の約20%をイランから輸入している。ベネズエラに続き、イランにも統制力を確保できれば、中国はもちろん、石油輸出に生死がかかっているロシアの首輪も握ることができる。

 問題は、ベネズエラは米国の裏庭であるため、マドゥロ大統領を捕らえることができたが、イランを攻撃する場合、その目標と目的は、はたしてどの程度に設定できるのかということだ。イランを攻撃して被害を与えることはできるが、その余波が、イランのイスラム共和国の体制崩壊につながる可能性もある。その場合、米国が軍事力を展開し、「レジーム・チェンジ」(政権交替)と「ネーション・ビルディング」(国家再建)を推進しないかぎり、イランは米国や中東にとって助けになるどころか、全世界に多大な混乱をもたらす震源地になるだろう。たとえ、イランで政権交替と国家再建を推進するとしても、イラクとアフガニスタンのケースはその結末をよく示している。

 イランと敵対しているサウジアラビアなどの中東のスンニ派王政国家が、トランプ大統領にイランを攻撃しないようロビー活動と説得を行っているという。攻撃後の混乱も恐ろしいが、トランプ大統領がどんな行動にでるのか分からないからだ。

 ベネズエラ侵攻後に選挙がいつ行われるのか、ロドリゲス臨時政権に代わる勢力が登場するかは、五里霧中だ。トランプ大統領は、チャベス前大統領とマドゥロ大統領の既存勢力とは、「いいことはいい」(いろいろな問題はあるかもしれないが、ひとまずよしとする)として、やり過ごす可能性が高い。マドゥロ大統領のいないマドゥロ政権もこれを機に、米国に負けるふりをすることで、かねてから望んでいた石油輸出の再開や、封鎖と制裁の解除も実現するかもしれない。

 トランプ大統領がイランを攻撃するとしても、ベネズエラ侵攻後のような状況が再現される可能性がある。トランプ大統領はイランの核と石油に対する統制力を回復したと宣言し、イランも同様に既存の体制勢力が健在なまま、米国の統制下で国際社会に復帰する可能性が高い。

 「けんかして仲良くなる」という言葉がある。米国とベネズエラをみると、まさにその言葉がふさわしい。トランプ大統領は、話を聞かない子どもを殴り、自分の優位性を認めさせることで満足感を得るガキ大将だ。しかし、チャベス主義者が健在なベネズエラが、米国に従順であり続けるだろうか。米国とイランはどうだろうか。

 いまやトランプ大統領の米国は、武力介入を対外政策の主要な手段として用いている。しかし、その武力介入は、むしろ米国の敵に長期にわたり翼を与える効果を生じるのではないだろうか。トランプ大統領の米国が横行する世界では、われわれは、もはや常識的な判断を中止しなければならない。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1239782.html韓国語原文入力:2026-01-15 00:07
訳M.S

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