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韓国で死んだカンボジア労働者ソクヘンさん、その後【寄稿】

登録:2025-08-12 02:35 修正:2025-08-12 07:54
キム・ドンス|ルポ作家、『幽霊たち:ある大学の清掃労働者の物語』著者
民主労総、金属労組、移住労組などの組合員が4月27日午前、ソウル鍾路区の普信閣前で行われた「2025移住労働者メーデー」集会で、移住労働者の強制追放、危険の移住化をやめるよう求めている=チョン・ヨンイル先任記者//ハンギョレ新聞社

 2020年冬、カンボジア出身のヌオン・ソクヘンさんは、氷点下18度の厳しい寒さの中、まともな暖房施設も整っていないビニールハウスで寝ているあいだに死亡した。このビニールハウスは、彼が働いていた京畿道抱川(ポチョン)のある農場の雇い主が用意した宿舎だった。移住民(移住労働者など外国人移住者)団体は、ソクヘンさんが人の住む場所ではない宿舎で過ごしていた理由は彼のビザにあると述べた。

 彼は非専門就業(E-9)ビザの発給を受け、韓国で4年10カ月近く暮らしていた。このビザを持つ労働者は「雇い主の許可」がないと退職できない雇用許可制の適用を受ける。ただし雇い主に瑕疵(かし)があれば雇い主の許可は必要ないが、今度は「政府当局の許可」を得なけなければならない。結局のところ、自らの意志では転職できないのだ。

 外国人雇用法25条1項2号の「外国人勤労者の責任ではない事業所の変更理由」(雇用労働部告示)によると、雇い主の瑕疵としては休・廃業、労働条件違反、不当な処遇などがある。特に労働条件違反(第4条)と不当な処遇(第5条)条項は、それぞれの項目に当てはまる事例をかなり詳しく類型化している。移住労働者が職場でどのように搾取されているかをよく示す一種の記録だと感じられるほどだ。例えば労働条件違反の項目では、職場変更が申請できる賃金未払いの累計だけで4種類ある。その中の一つを紹介すると、月賃金の10%以上の金額が4カ月以上支給されていないか、遅配が発生している場合だ。

 もちろん、職場変更理由に該当していても、証拠提出、雇い主の意見聴取など、行政的手続きを経なければならない。その過程がいつ終わるかも、事業所変更が許可されるかも分からない中で、結果が出るまで雇い主と分離されることもない。劣悪な労働条件を免れるための最善の選択が、かえって心理的苦痛を強めるということだ。とりあえずは「もう少し我慢してみよう」という気持ちが湧くだろう。労働者の退職そのものを難しくする雇用構造は、職場に及ぶ使用者の権力をさらに強めるテコの役割を果たす。ソクヘンさんが働いていた農場も、彼の死後に行われた調査で、いくつかの労働法違反が発見された。

 だが、労働法「だけは」よく守っている職場は、劣悪ではないのだろうか。そんなはずはない。代表的な例をみると、3K業種であり移住民の雇用率の高い農業・漁業は、労働基準法の一部条項が例外的に適用されない。E-9ビザを有する農・漁業の従事者は、雇い主がその一部条項に常習的に違反していても、職場変更が申請できないのだ。

 ソクヘンさんの死後、雇用許可制廃止論が沸騰したが、政府と国会は廃止ではなく「改善」を強調した。では、何が変わったのか。雇用労働部の告示が改正された。ソクヘンさんの死より前の2018年からすでに、ビニールハウス宿舎の提供は雇い主の有責事由だった。ただし、「政府当局に自律的な改善を命じられたにもかかわらず、使用者が正当な理由なく決められた期間内に履行しなかった場合」という但し書きが付いていた。この条項の但し書きは廃止された。使用者に改善する機会を与えていた以前とは異なり、「ワンストライク・アウト制」を導入したわけだ。だが、行政手続きを経た後に最終的に政府当局の退職許可を得るという条件は、今も維持されている。雇用許可制の要にはまったく手を付けなかったのだ。憲法裁判所も、雇用許可制は憲法違反ではないとの決定を相次いで下している。

 最近、全羅南道移住労働人権ネットワークは、全羅南道羅州(ナジュ)のあるレンガ工場で働いていたスリランカ出身の労働者の映像を公開した。同僚たちが、彼をレンガの束にビニールで縛りつけただけでは足りず、フォークリフトで持ち上げて疾走するように移動する場面が映っていた。人権蹂躙(じゅうりん)にとどまらず、労災発生すれすれの暴力行為を繰り広げたのだ。彼もE-9ビザで韓国在留中だった。「フォークリフト事件」も雇用労働部告示の不当な処遇にぴったり当てはまる事例だ。だが暴露という方法は、人権蹂躙の現場を早期に脱する起爆剤となった。彼が社長の承諾を得て職場変更を申請すると、たった一日で雇用労働部の許可が下りた。大統領の怒りに触れたからだ。普通の行政手続きをいちいち踏んでいたら絶対にありえなかったスピートであり、事業所変更申請が受け入れられたかも確信できない。

 政府は「フォークリフト事件」後、雇用許可制の改善を表明した。最も懸念されるのは、ソクヘンさんの死後がそうだったように、雇用許可制の根本的な問題は放置したまま、雇用労働部の告示の字句だけ追加したり修正したりして済ませてしまうことだ。いくらその告示に労働者に有利な条件があふれたとしても、退職に許可の要る構造の中では、大統領の一言より劣る結果となる。労働搾取から脱するためには、いかなる改善策よりも「職場の自由な移動」が必要だ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ドンス|ルポ作家、『幽霊たち:ある大学の清掃労働者の話』著者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1212729.html韓国語原文入力:2025-08-11 18:36
訳D.K

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