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下着姿、裸の王様の実体 【寄稿】

登録:2025-08-09 06:54 修正:2025-08-09 09:20
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授
4月19日、ソウル鍾路区東和免税店近隣で自由統一党が開いた「国民抵抗権光化門国民大会」の参加者たちが「尹(前大統領)アゲイン」と書かれたプラカードを持っている/聯合ニュース

 大統領選挙から2カ月が経った。韓国社会は12・3親衛クーデターで民主主義の崩壊と軍による残酷な国家暴力を経験するところだっただけでなく、数カ月間にわたり尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権と極右勢力による憲政体制への攻撃で、ややもすれば内戦に突き進みかねない極度の不安にさいなまれた。1987年以後、一度も経験したことのないこのような国家的危機の末に、ついに弾劾と政権交代を成し遂げ、今や社会が安定を取り戻しているが、私たちは必ず「12・3の教訓」を明確にし、それ以前とは根本的に異なる大韓民国を作らなければならない。

 クーデターがもし成功していたら、実現していたはずの世界はぞっとするものだ。戒厳司令部の布告令は国会、政党、地方議会を解散し、一切の政治活動を禁じるとともに、言論・出版と集会・結社の自由を廃止すると宣言した。内乱勢力は政権に批判的な政治家、判事、ジャーナリスト、聖職者、労組、選挙管理委員たち、(当時最大野党の)「共に民主党」の党員たちを大勢逮捕、収容、処刑する計画を立てており、(当時与党の)「国民の力」と多くの政府高官たちがこれを共謀・同調・黙認・庇護した。

 そのため、尹錫悦当時大統領は弾劾され、政権は変わったものの、韓国には重要な質問が残っている。どうしてこのようなことが可能だったのか。一体何が問題だったのか。今、韓国社会はどこに立っているのか。王様ごっごを楽しんだあげく刀を振り回したのに、今は下着姿で横になって逮捕状の執行を拒んでいる裸の王様の実体は何か。

 何よりも今回の危機の間、この国の相当数のパワーエリートが極右的信念を持っているという事実が明らかになった。尹前大統領はこれまで見せてきた暴力的思考を戒厳国家という実体的国家暴力として実行に移したが、さらに衝撃的なのは政府、与党、軍、学界、法曹、言論、宗教界の少なくない人々がこれを支持したという事実だ。そのような極右勢力は突然生まれたわけではない。ニューライトの時から強固になった極右パワーエリートのきめ細かいネットワークが底辺の構造的実体であり、それは今なお健在だ。

 国民の力はそのような極右派によって事実上掌握された。国民の力の大統領選候補のキム・ムンス前労働部長官は、2020年にチョン・グァンフン氏とともにキリスト自由統一党を結成し、党代表を務めた人物だ。今や彼は、国民の力の代表になる可能性が高い。 一方、自由統一党大統領選候補のク・ジュワ氏はキム・ヨンヒョン前国防部長官の弁護人だ。また、最近国民の力に入党して党代表候補の検証を自ら買って出たチョン・ハンギル氏は、また別の極右指導者ソン・ヒョンボ牧師の同僚だ。もはや国民の力は、ニューライト、キム・ヨンヒョン派、チョン・クァンフン派、ソン・ヒョンボ派など、あらゆる極右勢力の集結地となった。

 ところが、このような極右的な「理念」は腐敗した「利益」と密かにつながっている。 「自由民主主義」と「愛国保守」、「滅共」を掲げているが、実は尹錫悦前大統領と夫人のキム・ゴンヒ女史、その母親と兄、昇進を狙う将軍たち、出世しようとする検事、首相、長官たちの私利私欲を満たすために憲政を破壊し、国民の生命と自由を危険にさらしたのが12・3の本質だ。尹前大統領夫妻と彼らの家族、友人、知人、事業パートナーたちが、国民の力の党内選挙と公認に介入し、利益を手に入れ、党を掌握したという証拠が、特検捜査で一つずつ明らかになっている。

 宗教も政界と癒着関係で深く関わっている。尹錫悦弾劾反対の中心に極右・保守プロテスタント勢力があったという事実はよく知られている。しかし、尹前大統領夫妻とそのそばにはまた天供(チョンゴン)、コンジン法師、内乱を総指揮した「赤ちゃん菩薩」ことノ・サンウォン元情報司令官など多くのシャーマンがいた。それだけでなく、新天地、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が国民の力信徒を入党させ、の大統領選候補や党代表選挙に特定の人の当選を助け、尹前大統領と側近の政治家たちは彼らに特恵を提供する形で、取り引きしたという疑惑についても捜査が行われている。このような捜査内容が事実ならば、「金銭」と「権力」を中心にすべての宗教を網羅する巨大なエキュメニカル(ecumenical:キリスト教派の統一を目指す)腐敗ネットワークが構築されていたわけだ。

 このような体制は極右ファシズムの潜在性を多分に持っている。社会経済学者カール・ポランニーはファシズムが資本主義に内在した「反民主的ウイルスの最も悪性的な形」だと言ったが、これは民主的方式で支配する能力のない既得権集団の利益追求と反民衆的嫌悪こそが、大衆民主主義に対する不満を増幅し動員する真の力という意味だ。韓国はこのようなファシズムの一般論理に加え、反共極右テロと軍事独裁の特殊な歴史的背景まであるため、流血的ファシズムの危険性が特に高い国だ。

 韓国の極右政治勢力は西欧の右翼政党に比べ、理念的洗練性、文化的資産、統治能力がすべてにおいて脆弱だが、その野蛮性と暴力性で他の追従を許さない。だからこそ、彼らはいったん政治権力を獲得すると、国家機構を私有化して権力を永久化しようとするのだ。欧州の極右は談論と政策をさらに巧妙にして選挙で多数の獲得を目指すのに比べ、韓国の極右は選挙で執権した後、選挙を廃止する親衛クーデターを選んだ。これは偶然ではない。彼らに「権力」が与えられてはならない。

 今後、彼らに政治的再起のチャンスがどれほどあるだろうか。弾劾政局の間、国民の圧倒的多数は民主主義を擁護し、戒厳・極右勢力に同調する世論は憲法裁判所の宣告と大統領選挙を経てさらに減少した。いまだに「尹(前大統領)アゲイン」を叫んでいる国民の力の支持率は20%へと落ち込んだ。しかし、このような状況は永遠ではないだろう。2004年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領弾劾が棄却され、「開かれたウリ党」が総選挙で圧勝した時、2017年に朴槿恵(パク・クネ)元大統領が弾劾され、文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足した時、多くの人が「保守政治の壊滅」を見通したが、彼らはわずか2年後に再起して政権を取り戻した。この悪循環のサイクルを今度は断ち切らなければならない。

 以上の歴史と構造を振り返ってみると、この国で極端と暴力を終息させ、民主主義を真に強固にするためには次の3つが決定的に重要だ。

 第一に、社会の多数が極右的主張と行動に明確に反対し、この社会の合意が何なのかを確実に示さなければならず、政府は法のカーテンの後ろにある政治、宗教、極右勢力の不法的利権ネットワークを解体すべきだ。第二に、極右の理念および勢力と徹底的に断絶する民主的保守が、政党政治と社会で勢力としてしっかり成長する必要がある。民主党に投票したくない有権者にとって、極右が唯一の選択肢になってはならず、極右が自らを保守と名乗ることを許してはならない。最後に、最も重要なのは、民主政府が革新と保守を包括する統合の政治と実質的な問題解決能力で多数の支持連合を安定化しなければならない。これらはいずれも短時間で簡単にできるものではない。しかし、それは私たちが進むべき道だ。

//ハンギョレ新聞社
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1211796.html韓国語原文入力:2025-08-06 11:00
訳H.J

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