このコラムは4週間おきに書いている。次の原稿を書いているであろう3月の今ごろは、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領には別の呼称が使われている可能性が非常に高いということだ。そのころには、彼は呼称に1字が加えられて「尹前大統領」と呼ばれているだろう。尹錫悦氏と呼ばれるまでには、刑事裁判で判決が確定するなど、もう少し時間が必要かもしれない。はっきりしているのは、彼が内乱首魁の容疑者として拘束されてからも現職大統領として特別待遇を受け、虚勢を張ってきた時間が、今やほぼ終わりつつあるということだ。
「弾劾反対」の声は強そうにみえるが、「弾劾賛成」の民意に比べれば常に少数に過ぎない。今月14日から15日にかけて行われたメタボイスの調査によると、賛成は60%、反対は37%だ。他の調査でもおおかた20ポイント前後の差がある。中道層は賛成69%、反対27%で差がさらに大きい。熱烈な尹支持層の積極的な回答による過抽出を考慮すれば、実際の差はさらに大きいだろう。チョン・グァンフン牧師にソン・ヒョンボ牧師、チョン・ハンギル講師まで出しゃばって「精一杯かき集めた」結果がこの程度だ。弾劾を求める民意は依然として堅固だ。陰謀論とフェイクニュースによる世論の揺さぶりは失敗に帰結しつつあるわけだ。
憲法裁判所に直接圧力をかけて尹大統領の罷免を阻止するという戦術も、うまくいっていないようだ。与党「国民の力」の議員たちが4回も憲法裁を抗議訪問して「憲法犬判所」のような罵詈雑言を浴びせたが、憲法裁の審判日程にはさほど影響を及ぼしていない。過激なデモ隊による憲法裁判官個人に対する威嚇は、大多数の国民の眉をひそめさせるだけだ。与党による裁判官弾劾攻勢も、果たして彼らは韓国の憲政システムを尊重し、守る意思のある勢力なのかという疑問ばかりを増幅させている。
騒ぎ立てようがごり押ししようが、弾劾列車は結局、尹錫悦の罷免という終着駅に遅れることなく到着するだろう。罷免以外に道はないということは、一つの仮定を思い起すだけでも、誰もが予想できる。もしも弾劾が棄却されたら、尹大統領は直ちに職務に復帰する。そうなればどんなことが起こるだろうか。戒厳許可証を得たと思った彼は、もういつでも野党のけん制を大義名分として軍と警察を国会に投入できる。赦免権と人事権を用いて内乱罪容疑もすべて消そうとするだろう。過激な支持層の街頭政治をあおり、憲法上のけん制機関と装置を破壊しようとする可能性もある。ソウル西部地裁での暴動のような恐ろしい出来事が、大統領の庇護(ひご)の下、日常的に起こりうるということだ。全斗煥(チョン・ドゥファン)独裁にとどまらず、ナチス・ドイツ時代のような悪夢の時間が到来しうる。
国民の顔色をうかがって戒厳カードを再び切ることはないとしても、問題は消えない。ほとんどの国民が罷免を要求したにもかかわらず生き残った大統領の命令が通るはずがない。残された2年を超える任期の間、大韓民国は国政のまひした「不能共和国」へと転落せざるを得ない。そうでなくても比類なき無能さで国力をむしばんでいたのだから。尹大統領の復帰は、大韓民国を衰亡の道へと追いやった決定的な一撃として記録されるだろう。いかなる憲法裁判官もその責任を負おうとはしないだろう。8対0、全員一致での罷免が予想される理由はここにある。
与党の主流もそのようなことはよく分かっている。だがら、口では弾劾反対を叫んでいても、心はすでに「早期大統領選挙」に向かっているのだ。そうでなければキム・ムンス、オ・セフンらの大統領選の有力候補が開催する行事に数十人の議員が列をなしているなどということが今、あえて起こるはずがない。実際のところ、現在、党指導部が弾劾に反対しているのも、無能な王の帰還を望んでいるというより、熱烈な支持層を大統領選挙まで与党の磁場に縛りつけておくことを意図したものだろう。
もちろん、それも無謀な試みに過ぎない。熱烈な支持層にこだわる限り、弾劾反対のフレームから脱することはできない。「尹錫悦の赦免」を要求する人々を包摂した瞬間、中道層は離れていく。弾劾賛否の構図で大統領選挙を行えば、与党は敗北せざるを得ない。弾劾に賛成した候補が党内予備選挙を勝ち抜いて本選に出ることだけが、唯一かつ蜘蛛の糸のような希望になるだろう。だが、すでに極右の影響力が強まるだけ強まっているため、その可能性も高いようにはみえない。
国がこのようなありさまになり果てたのは、尹大統領に文句も言えなかった与党に大きな責任がある。それでもまだ国政を担うと言っている。恥を知らない。内乱擁護も一線をはるかに越えている。反省や刷新のような「見せかけのみそぎ」すらなく、極右の素顔を誇示している。このような政党を待つのは、いつになく鋭く厳しい審判以外ありえない。
ソン・ウォンジェ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )