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ウクライナ戦争の決算【朴露子の韓国、内と外】

登録:2025-02-19 20:42 修正:2025-02-20 08:08
ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン政権の国家的犯罪行為以外の何物でもない。しかしそれと同時に、私たちがここで学ぶべき点が一つある。大国はこのような重大犯罪を犯しても処罰されることは決してない。逆に隣接大国の利害関係に抵触すると判断される一方向・不均衡外交路線を取った中小国家は、結局大国本位の弱肉強食国際秩序で大災難を迎えかねない
イラストレーション:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 1000キロメートルを超えるロシア・ウクライナ戦争の戦線では、今この瞬間にも双方の軍人が大切な命を失いつつある。しかし、プーチン大統領とトランプ大統領の間の通話など、米国とロシア間の一連の交渉が成功裏に進むという点から見て、この戦争もまた、もう終焉に向かっている。もちろんまだ速断は禁物だ。これまで伝えられた米ロ交渉の内容は、ロシアがウクライナ領土約20%を強奪することを既成事実として認めている。ロシアはウクライナの石炭埋蔵量の60%以上がある東部地域を力で奪った。これを追認するということは、ウクライナの政治家の誰にとっても政治的自殺であるため、ウクライナが米ロ間の協議事項に従わずに当分「速戦」を選ぶこともありうる。だが、米国の支援がない速戦もやはり見込みがないだけに、年内にある種の休戦が成立する可能性が大きい。そのため、この時点でこの戦争が私たちに何を教え、どんな教訓を残したのか、あらかじめ分析してみても良いだろう。

 第一に、侵攻被害国であるウクライナの立場だ。ロシアの武装干渉が始まった2014年以前まで、ウクライナは地政学的断層線に立ち、西側とロシアの間で多角的なバランス外交を繰り広げてきた。一方では、すでに2002年からウクライナはNATO(北大西洋条約機構)加盟を長期的目標に設定し、米国のイラク侵攻に参加するなど、西側寄りの姿勢を取ってきた。しかしもう一方では、ロシアは引き続きウクライナの最大交易相手国として残っており、親ロシア系の人物がウクライナ政府の要職に布陣していた。2013年10月には徴兵制を廃止するほどにウクライナの安保に対する危機感はさほど強くなかった。親西欧志向とロシアに対する経済的依存は共存が可能だった。2014年以前までのウクライナの立場は、中国への経済的依存と親欧米志向を併せ持つ台湾・シンガポールとも比較できるだろう。

 2013~2014年のユーロマイダン事件と、その直後に登場した強硬親欧米政府は、このバランスを崩してしまった。ロシアはクリミア半島の領土を強奪し、ドンバスで親ロシア民兵隊を支援し、ウクライナの軍需工業の中心地を事実上奪った。その後、もう一つのバランスを前提に結ばれたミンスク協定も、まともに機能しなかった。ついにウクライナは2022年2月24日からロシアの全面的侵攻を受け、その時までに強奪された領土だけでなく、西側に逃れ難民になってしまった600万人を超える人口まで失った。実際、専門人材の相当部分を失ったのだが、終戦を迎えても彼らは焦土化した故郷に再び戻らない可能性が高い。ウクライナの死傷者の数は、米情報機関の推測によると約50万人。人と土地、工業と資源の相当部分を失ったウクライナにとって、このすべてのことは亡国に匹敵する過去最大級の災害だ。

 ロシアの侵攻はプーチン政権の国家的犯罪行為以外の何物でもない。しかし、それと同時に私たちがここから学ぶべき点が一つある。大国はこのような重大犯罪を犯しても処罰されることは決してない。逆に隣接大国の利害関係に抵触すると判断される一方向・不均衡外交路線を取った中小国は、結局、大国本位の弱肉強食の国際秩序で大災害を迎えうる。私たちが忘れてはならない、もはやジャングルになってしまったこの世界の法則ならぬ法則だ。

 第二に、この戦争に事実上間接的に参戦してきた西側だ。3800億ドルという欧米圏の天文学的支援は、ウクライナの完敗だけは阻止した。しかし、不景気の中で続いたウクライナに対する戦費支出は、究極的には欧米圏でトランプのような極右ポピュリズムにより多くの票を与えた。2022年以降、欧米圏全体で極右の株価は大幅に上昇した。同時に戦争は西側の軍事的弱点もあらわにした。ロシアは1年に300万発の砲弾を生産しているが、欧米圏の砲弾生産量は今年だけ見ても200万発に満たない。このような状況で欧米諸国は、この数十年間に前例のない軍備拡張をいま実行している。世界的に昨年だけでも軍備は7.2%も跳ね上がった。結局、ウクライナ戦争を含む危機状況で、欧米圏の国家は今や右傾化を繰り返し、警察・安保本位の、保護貿易を好むやや退行的な政策をあちこちで選ぶことになった。しかし、対外的に関税戦争を宣言し、領土拡張の野心を示すトランプ2期の米国ほど退行した社会もないだろう。

 すでに廃墟になってしまったウクライナから、これまで支援した武器に対する見返りとしてレアアースの鉱山を持っていくという極端な重商主義の政客であるトランプには、米国の世界覇権を維持しようとする考えはないようにみられる。世界覇権は貿易秩序の維持などを含意するものだが、トランプの政策はむしろ既存の貿易秩序を破壊する。結局、トランプ政権下の米国の政策によって被害を受ける中小国は、依然として開放貿易に固執する大国、その中でもまずは中国に寄り添うことになるだろう。欧米圏の極右化と武装強化、新保護主義と重商主義の主流化、そして中国の国際的役割の強化と米国など欧米圏の国際的地位の弱体化も、ウクライナ戦争のもう一つの結果だ。

 第三に、ロシアの領土拡張で結論が出るとみられるこの戦争は、ロシアの超強硬権威主義政権をさらに強化させた。その上、戦争特需が経済浮揚策の役割を果たしたという点もやはり大きく作用した。米国は今になって保護関税を導入しているが、ロシアの場合は西側の制裁が輸入価格を上げることで事実上ほぼ3年間保護関税と同じ効果を発揮してきた。結局、戦争という危機の中で、侵略国のロシアもその影響力が衰えつつある米国も、互いに程度の差はあるものの、同じく保護主義と新権威主義に向かってどんどん右傾化し、退行的に変わっていく。

 この退行に終止符を打つことができるのは、結局、国境を越える市民社会と進歩運動以外にはない。戦争が終わる局面を利用して「反戦」と「反権威主義」、「反民族主義」という共感を持っている西側の人、ウクライナ人、ロシア人は共に手を握り、全世界的退行に国際的連帯で対抗しなければならない。韓国の進歩的市民社会も、この運動の一部になり得るだろう。

/ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1183133.html韓国語原文入力:2025-02-19 09:50
訳J.S

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