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韓国の政治を見つめる米国の3つの視点【寄稿】

登録:2025-01-21 00:55 修正:2025-01-21 08:56
米国社会は全般的に非常戒厳措置に批判的であり、韓国で憲法と法律に則って弾劾手続きが進められることを歓迎している。トランプ大統領も、韓国政治の輪郭がはっきりし、次期指導者が現れるまで待つという態度だ。問題は、冷戦反共主義を掲げる米国の極右勢力だ。彼らが韓国の太極旗部隊のような極右勢力と超国家的な連帯を構築し、トランプ大統領に影響力を行使すると同時に、韓国政治に不適切に介入してくると、韓米関係は前代未聞の破局へと突き進む恐れがあるということに留意すべきだろう。
 
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教
尹錫悦大統領の支持者たちが今月12日午後、ソウル龍山区漢南洞の大統領官邸付近で、太極旗と星条旗を振りながら弾劾反対集会をおこなっている=チョン・ヨンイル先任記者//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は米国の「ダーリン」だった。韓米同盟と韓米日3カ国協力の熱烈な支持者で、米国が主導する民主主義連合でも最も忠実なパートナーだったからだ。そのような彼が大義名分のない非常戒厳を宣布し、大韓民国の憲政秩序を脅かしたというのは、米国としても想像できないことだった。尹大統領の行動とそれに伴う韓国政治の危機局面を見つめる米国内の視点は、大きく3つに分かれる。

 バイデン政権を筆頭とした自由国際主義者たちは、ほとんど裏切られたと感じて、尹大統領を痛烈に批判する。戒厳宣布が不完全に終わるやいなや、尹錫悦政権の後見人役を果たしてきたカート・キャンベル国務副長官が真っ先に「深刻な誤った判断」だと批判した。続いてロイド・オースティン国防長官の訪韓が撤回され、予定されていた核協議グループ(NCG)会議とそれに関連する図上演習も延期された。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、尹大統領の非常戒厳宣布を「衝撃的であり、誤りだ」と指摘した。先日離任したフィリップ・ゴールドバーグ前駐韓米国大使も「戒厳は起きてほしくなかった不幸な事件」だと述べたが、戒厳解除と大統領の弾劾訴追という韓国の民主的手続きに対しては敬意を表した。

 米議会でも批判的な空気が濃い。朝鮮半島終戦宣言と平和決議案を主導したブラッド・シャーマン下院議員やアンディー・キム上院議員らの民主党議員たちは、「非常戒厳は民主主義と法治、さらには韓米同盟を傷つけるもの」と批判した。道徳的価値観と民主主義を重視する米国の主流社会は、戒厳措置に批判的でありつつも、韓国の民主主義の回復力に賛辞を送っている。

 一方、ドナルド・トランプ大統領や彼の側近たちは、非常戒厳が宣布されてから1カ月が過ぎ、尹大統領が弾劾の崖っぷちに立たされているにもかかわらず、いっさい論評していない。トランプ大統領の取引主義的傾向から考えて、予測しうる現象だ。彼は価値観よりも国益を優先し、他国に対する不必要な内政干渉に反対する。昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊した際にも、「私たちの戦いではない。米国は介入してはならない」と直ちに一線を引いている。これはまた、トランプ2.0外交政策において韓国は相対的に優先順位が低いということを示唆するものでもある。トランプはプーチン、習近平、金正恩(キム・ジョンウン)らの強力な指導者との「ディール」を好む。政治的未来が不透明な尹錫悦のような指導者に関心を傾ける理由はなさそうに思える。

 トランプ大統領の側近として知らる米国保守連合(ACU)のマット・シュラップ議長が先月14日、職務が停止された尹錫悦大統領と極秘に会談し、2016年の大統領選挙でトランプ候補の選対本部長を務めたポール・マナフォートも最近非公開で訪韓し、大邱市(テグシ)のホン・ジュンピョ市長、与党「国民の力」のクォン・ソンドン院内代表ら一部の与党関係者に会ったという。しかし、トランプ大統領の統治スタイルから考えて、彼らの行動は意味あるものにはみえない。対韓国政策を決定するのはトランプ自身のみだからだ。

 最後に、非常戒厳を支持し、弾劾勢力を敵視する視点もある。冷戦・反共主義を基盤とする米国の極右保守勢力だ。最近、米下院のアジア太平洋小委員会の委員長に選出された共和党のヨン・キム下院議員が代表的な例だ。ヨン・キムは今年1月6日の「ザ・ヒル」への寄稿で、「弾劾主導勢力は北朝鮮に対する融和政策、中国への順応を好んでおり、これは朝鮮半島の安定と地域全体に大きな災いをもたらす可能性が高い」と指摘しつつ、彼らはインド太平洋の安保にとって死活的な韓米同盟と韓米日3国のパートナーシップを傷つけることに努めてきたという主張を展開した。

 「MAGA(米国を再び偉大に)」を代表する人物で、第1期トランプ政権でホワイトハウスの首席戦略官を務めたスティーブ・バノンも、中国介入論を主張しつつ懸念を表明している。デモと政治不安で尹大統領が退陣することになると空白が生じ、それが中国によって韓米同盟を傷つけるために利用されうるというのだ。彼らは、韓国の極右保守の主張する「従北主義者の清算」にも共感する。

 このようにみると、米国社会は全般的に非常戒厳措置に批判的であり、韓国で憲法と法律に則って弾劾手続きが進められることを歓迎している。トランプ大統領も、韓国政治の輪郭がはっきりし、次期指導者が現れるまで待つという態度だ。問題は、冷戦反共主義を掲げる米国の極右勢力だ。彼らが韓国の太極旗部隊のような極右勢力と超国家的な連帯を構築し、トランプ大統領に影響力を行使すると同時に、韓国政治に不適切に介入してくると、韓米関係は前代未聞の破局へと突き進む恐れがあるということに留意すべきだろう。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1178735.html韓国語原文入力:2025-01-20 08:00
訳D.K

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