現行の通信秘密保護法(第14条)は「何人も公開されていない他人間の対話を録音したり、電子装置または機械的手段を利用して聴取することはできない」と定めている。これは、会話の当事者が(会話を)録音する場合は相手の同意を求めなくても良いという意味だ。韓国社会で通話録音が合法行為だという根拠だ。
韓国社会を揺るがす主な事件には、決まって通話録音が登場する。2016年の国政壟断捜査当時、朴槿恵(パク・クネ)大統領の最側近であるチョン・ホソン大統領秘書官の携帯電話からは、チェ・スンシル氏が国務会議内容に関与したり、ミル・Kスポーツ財団基金募金について指示するなど、国政に介入した情況が含まれた通話録音ファイルが多数発見された。昨年、野党「共に民主党」の党大会の現金封筒散布捜査の出発点は、イ・ジョングン前民主党事務副総長の携帯電話に保存された3万件あまりの通話録音だった。
通話録音で最も大きく「有名税」を払った人物は尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の夫人、キム・ゴンヒ女史だろう。キム女史は2021年8月から6カ月間「ソウルの声」記者と53回にわたり7時間以上電話で話した録音記録が公開され苦境に立たされた。最近は「政治ブローカー」ミョン・テギュン氏の携帯電話録音ファイルが政局の雷管に浮上した。これを通じて、尹錫悦大統領の公認介入を示唆する通話内容が公開された。
大統領まで通話録音の「わな」にかかる状況で、政界の警戒心は最高潮に達している。与党「国民の力」のキム・サンフン政策委議長は「適切な法的制裁が必要だと思う」と主張しており、半導体と人工知能(AI)をテーマに開かれた同党の初当選議員の勉強会では、通話録音防止技術に関する質疑応答があったという。
これまで通話録音規制の試みがなかったわけではない。国民の力のユン・サンヒョン議員は、相手の同意なしに通話内容を録音すれば、最大10年の懲役刑が可能な通信秘密保護法改正案を発議した。しかし、公益情報提供の萎縮などの批判の声があがり、発議から2カ月後に撤回した。2017年、自由韓国党(現国民の力)のキム・グァンリム議員も、利用者が通話録音を相手に告知する内容の「通話録音通知法」(電気通信事業法改正案)を発議したが、支持を得られず廃棄された。
今のところ、「すべての通話は録音される」と考え、自ら「言葉に気をつける」ことが万が一の狼狽を防ぐ最善の方策であるわけだ。