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[朴露子の韓国、内と外] 韓国人の前例のない親米化をどう見るか

登録:2023-05-17 20:38 修正:2023-05-18 14:41
韓国の進歩勢力は、理想とするエコロジカルな福祉国家のモデルを中国に見出すことができない。中国の党・国家権威主義は韓国人に1970~80年代の韓国を連想させ、ロシアのウクライナ侵攻にいたっては日帝の大陸侵略など恐るべき歴史の記憶を想起させる。「米国にいくら問題が多くても、それでも中国・ロシアに比べればましだ」というのが、多くの韓国人が共有する情緒だ。
イラスト:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 新自由主義時代の韓国につく「世界最高」ないし「世界最低」、「世界最悪」がいくつかある。代表的には、富裕国の中で非正規職労働者(賃金労働者全体の約37%)が最も多い国が韓国であり、高齢者貧困率(37.6%)が最も高い国も韓国だ。合計特殊出生率(0.78)は世界最低で、自殺率(10万人当たり23.6人)は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最悪だ。

 韓国が持つ「世界最高」のうちの一つに、市民の「外国に対する見方」に関する統計もある。米国に対する好感度だ。「米国に好感を持っている」と答えた韓国の回答者は89%で、アジアでは断然最高、世界ではポーランド(91%)の次に高い(米国の世論調査機関ピューリサーチセンター「2022グローバル・アティテュード・サーベイ」)。米国の長年の同盟国であるイスラエルや日本も、米国への好感度はそれぞれ83%と70%と高い方だが、韓国の爆発的な「アイ・ラブ・アメリカ」には及ばない。

 こうした「絶対的な米国好感」は、歴史的にきわめて新しい現象だ。米国との関係はあまりに近しくそれでいて非対称的だったために、しばしば「反米」にまで広がるくらいだったからこそ、関係設定が負担になるほうが「正常」に近かった。李明博(イ・ミョンバク)政権の屈従的で拙速な対米外交に対する拒否感がろうそく抗争に広がったのは、わずか15年前のことだ。現政権では対米・対日盲従と拙速が日常茶飯事になったが、これに対する国民の抵抗は当時ほど熱いとは言えない。過去のような「反米」は久しく見られず、親米一辺倒の外交に対する合理的な批判すらも大きな反響がないのが最近の世相だ。一体、韓国人を世界最高の「模範的な親米主義者」にしたのは何なのか。その要因として3つを挙げてみる。

 第一に、世界で「豊かな国」となった韓国人の新しい集団自意識がある。韓国が世界的に高所得社会になったという統計が出たところで、高物価・原油高・高金利の「新3高」現象による庶民の苦しみは減りはしない。ところが、いくら個人の暮らしが苦しくなっても、苦しんでいる庶民でさえ、世界的食物連鎖において韓国が占めるようになった決して低くない地位を随所で感じられる。欧米圏の高学歴者を含む外国人人口も増え続け、新型コロナウイルス感染症以前の1年間の国外への旅行客数は3千万人に近づいた。欧州の先進国のように、韓国も庶民を含め半分以上の国民が国外旅行をする国になった。「貧しい国」から世界史的にも珍しく「富裕な国」になっただけに、その地位を保障する従来の世界秩序を肯定し、守ろうとする集団意識が自ずと育つことになる。米国の覇権こそが従来の秩序を象徴するため、米国の覇権に対する韓国人の態度も過去と同じとはいかないのかもしれない。

 北朝鮮や統一に対する意識が大きく変わった点も、やはり同じく「富裕な者の論理」で説明できる。北朝鮮がいまの世界秩序において当分は「富裕な国」に並ぶことができないというのは、多くの韓国人にとって自明なことであるため、20~30代の61%は統一が「必要ない」と答えている。彼らにとって米国は富と地位を守ってくれる警察であり、一方で北朝鮮は富と地位を脅かし、そのうち金を乞うであろう面倒で負担の大きな「貧しい親戚」に見えるだろう。北朝鮮メディアは「血は水より濃い」という言葉で同胞意識に訴えようとするが、新自由主義の韓国で「血」以上に重要なのは「金」だろう。

 第二に、米国と地政学的対立を繰り広げるグローバル「挑戦勢力」に対し、韓国人が特に魅力を感じていないという点だ。韓国の保守勢力はいうまでもなく歴史的に親米だが、一方で韓国の進歩勢力も、理想とするエコロジカルな福祉国家というモデルを中国に見出せない。中国の国内総生産(GDP)に占める福祉支出(約10%)は、韓国よりももっと低い。中国の党・国家権威主義は韓国人に1970~80年代の韓国を連想させ、ロシアのウクライナ侵攻にいたっては、日帝の大陸侵略など恐るべき歴史の記憶を想起させる。「米国にいくら問題が多くても、それでも中国・ロシアに比べればましだ」というのが、多くの韓国人が共有する情緒だ。

 第三に、韓国メディアが経済大国である中国に対する競争意識を煽っているという点だ。韓国と中国は地域的な分業構造を形成しながらも、多くの完成品品目においては世界市場で競争している。韓国企業が相対的に技術の優位性を持つ主要品目は、半導体以外はほとんど残っていない状況で、韓国メディアは「分業」よりも「競争」を偏ったかたちでドラマチックに強調する。その結果、80%にのぼる中国への非好感度もまた「世界最高」に近く、それに伴い、中国と銃声なき戦争を繰り広げている米国に対する好感度が上がっていく。

 このような要因が複合的に作用した結果としての韓国の前例のない親米化は、ある意味では簡単には覆しえない長期的な傾向だ。韓国ほどではないが、従来の世界秩序の恩恵を受けていると考える人が多い欧州諸国でも、米国に対する好感度は60%程度にはなる。中国モデルに対する拒否感や、中国に対する競争意識も、当分は変数ではなく定数として作用するだろう。加えて、韓国の保守メディアは露骨で一方的な偏向報道で嫌中・反北・親米の「バブル」を膨らませている。

 問題は、こうした長期的な親米化・保守化が、親米一辺倒の対外政策や、統一政策を事実上放棄することにつながり、米中対立の状況で徴兵制の永久維持など軍事主義が進み、ひいては米中の武力対立時に米国からの介入要求の圧迫などにつながる危険性が大きい点だ。メディアならば当然、地政学的対立の一方に無条件で忠誠を捧げ「全賭け」する態度を警戒し、問題提起しなければならないが、韓国にはそのようなメディアは少数に過ぎない。

 米国の隣国であり、友好国中の友好国であるカナダは、2003年の米国のイラク侵攻に加担しなかった。ドイツとフランスも米国の友好国・同盟国だが、米中対立が激しくなっているにもかかわらず果敢に北京を訪問し、首脳外交を行うなど、米国とは全く違う中国への態度を見せた。韓国も究極的には「盲従」ではなく、朝鮮半島の平和と国益に基づいた対米外交を展開すべきではないだろうか。そのためには、保守メディアが作り出した行き過ぎた親米バブルをまず取り除かねばならない。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1092030.html韓国語原文入力:2023-05-17 02:37
訳J.S

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