「私たちには山のほかに友人はいない」。クルド人の格言だという。人口3千万人前後で中東で4番目に多いが、トルコ南東部からアルメニア、イラク、イラン一帯に散らばって住む、国を持たない世界最大の民族がクルド人だ。彼らの独立国家建設は周辺大国の妨害と裏切りによる挫折の連続だった。今世紀にも米国に代わってテロ組織ISの撃退に積極的に取り組み、独立への支援を期待したものの、米国のドナルド・トランプ大統領(当時)は支援どころかシリア北東部の自治クルド人に対するトルコの攻撃に目をつぶった。そのような裏切りにあった。どの国も信じられない彼らにとっては「友人は山だけ」なのだ。
この格言が当てはまるのはクルド人だけだろうか。「友人」の前に「永遠の」という修飾語をひとつ付けるだけで、「友人は山だけ」という言葉はあらゆる国の国民がうなずけるだろう。膨張する勢力に立ち向かって生き残り、繁栄を目指す国は、必要ならば昨日のかたきとも手を握ったり、友邦に背を向けたりしなければならない。そもそも国同士の協力にタダはない。壬辰倭乱で明が朝鮮に大兵力を送ったのは、何よりも自国の安全のためだった。明は戦後、財政が厳しくなり、銀を採掘していなかった朝鮮から数十万両の銀を巻き上げていった。これは海辺の砂粒ほどもある数多くの事例のひとつに過ぎない。
このところの韓国の立場もかなり困惑するものだ。世界2位の経済大国となった中国は軍事力を増強し、地域の覇権を目指して疾走している。すでに軍事大国である日本は、米国の支援と協力を追い風として軍事力をさらに強化している。北朝鮮は、米国との交渉が挫折したことを受け、核による威嚇を本格化させている。ロシアのウクライナ侵攻は「台湾危機」が遠くない将来に起こりうることを気付かせる。米軍が駐留中であり、南北が対峙中の朝鮮半島は、決してその磁場の外にあるわけではない。韓国の当面の課題は、中国の武力の使用を抑え込むことだ。そのためには日本と協力する必要がある。もちろん日本も同じ立場だ。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は1日、三一節記念演説で「複合危機や深刻な北朝鮮の核の脅威などの安保危機を克服するための韓米日3カ国協力は、いつにも増して重要になっている」と述べた。最後は「私たちみなが己未独立宣言の精神を継承し、自由、平和、繁栄の未来を共に作っていこう」と締めくくった。しかし、記念演説を繰り返し読んでみても、うまくつながらない。
記念演説から、中核となる文章を抜き出してみた。大統領は「3・1運動は国民が主人である国、自由な民主国家を建てるための独立運動だった」と述べた。そして突然、「世界史の変化に十分に備えられず、国権を喪失し苦痛を受けた我々の過去を振り返らなければならない」と語った。さらに、その少し先でいきなり「今、日本は過去の軍国主義侵略者から、韓国と普遍的価値を共有し、安保と経済、グローバルアジェンダで協力する協力パートナーに変わった」と語った。論理がしばしば飛躍するこの日の記念演説の結論は「韓米日3カ国協力を頑張ろう」というものだ。
私は、大統領は深刻な失言をしたと思う。「日本と協力しよう」と言ったからではない。三一節とはいかなる日か。日本の朝鮮総督府の記録でも、この運動には100万人以上の人々が参加し、日本の鎮圧過程で553人が命を落とした。パク・ウンシク氏の記録では7509人が死亡したという。そのような犠牲の上に臨時政府は樹立されたのだ。「日本統治時代」を「臨時政府時代」へと変えた胸熱き運動を記念する日に、大統領は「世界史の変化に十分に備えられず国権を喪失」したことを反省しなければならないと述べた。大統領は「日本との協力」を強調するために、まだ解消されていない日本との歴史問題に言及すべき場を、あのような発言で補った。少なくとも三一節にはしてはならない発言だ。
韓日関係は「日本軍慰安婦に対する賠償」、「強制動員に対する賠償」問題でかなりの間ぎくしゃくしている。両国いずれにも得にならない状況であることは間違いない。かといって韓国が一方的に膝を屈するやり方では対立も解消されず、まともな協力関係も構築できない。大統領の発言は「ただはいつくばろう」と言っているように聞こえた。韓国は世界第6位の軍事力を持っており、国内総生産規模は世界10位圏の国だ。旧韓末の状況とは天と地ほどの差がある。国を取り戻すために銃剣に立ち向かった先烈たちの気迫と犠牲を称える日、大統領は国民の誇りを深く傷つけた。
チョン・ナムグ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )