米国と中国の「偵察気球戦争」が危うく膨らんでいる。バス3台分の大きさの巨大な白い気球が米国を東西に横断し、4日に大西洋上空で撃墜された姿は、米国人の脳裏に「中国脅威」の生々しい象徴として刻印された。米国の戦闘機は10日と11日にもアラスカとカナダの上空でまた別の「未確認」高高度物体を相次いで撃墜した。
中国では2010年代から地球表面から19~96キロの高度にある近宇宙(nearspace)で偵察活動を行うための高高度気球と成層圏飛行船プログラムを中国科学院、人民解放軍などが進めてきた。これまで中国官営メディアにもこれと関連した報道を数多く報じた。500基を超える先端衛星を運用する中国が、なぜ冷戦時代の遺物である偵察気球を運用するのだろうか。費用が安く、レーダーに捉えられにくく、目標物の上に長時間滞在しながら偵察できる点などが言われている。米中のいずれもが、見えないところで可能な限りの手段を動員し熾烈な情報戦を繰り広げているのは言うまでもない。
問題は、中国がなぜこの時期に大胆にも米国領空を侵犯し偵察気球を飛ばしたのかということだ。昨年末、習近平主席が3期連続就任した直後から、中国は米中関係を安定させるために努力してきたが、念入りに準備してきたブリンケン米国務長官の訪中は偵察気球のせいで水の泡になった。「米中関係の改善に反対する中国軍内部の強硬派が習主席の知らぬ間に行ったのではないか」という分析まで出ているが、習近平主席の強固な権力と軍に対する統制力を考慮すれば、その可能性は低い。
気球が「誤作動」を起こしたという分析の方が説得力がある。中国は、はるか高い高度で偵察活動をするように気球を設計・運用してきたが、今回は問題が発生し、正常高度より低く飛行して「発覚」したということだ。シンクタンク「マラソンイニシアティブ」のウィリアム・キム氏はAFP通信に「中国が人工知能(AI)を活用し、大気質などにより自動的に高度を調整する気球を運用したとみられる」とし「本来は地上から20~30キロメートルの高度で運用されるはずが、今回の偵察気球は約14キロメートルの高度で動いた」と分析した。
中国は「作戦失敗」で窮地に追い込まれた。米国は、中国が数十年間にわたり世界中で行ってきた秘密監視プログラムの一部だとし、韓国をはじめ40カ国での中国による気球偵察活動についてブリーフィングした。「反中同盟」戦線の強化だ。中国は「民間企業の観測気球」と主張しているが、軍事用であることを示す証拠があまりにも多く明らかになっている。体面を傷つけられた中国は、「米国が過剰対応している」、「情報戦を繰り広げている」と反発しながらも、愛国主義世論が過度に噴出しないようインターネットを統制している。中国は事件の余波をコントロールしながら、対話再開の時期を苦慮しているだろう。
バイデン氏と習近平氏いずれも気球で戦い続けるには、台湾・ウクライナ・経済・核兵器統制など解決しなければならない宿題が多すぎる。だが、米国政界と世論では冷戦時代のソ連に対する「赤色恐怖」を想起させる反中強硬論が沸き立っている。中国強硬愛国主義世論の行方も未知数だ。ブリンケン米国務長官は果たして訪中日程を再び決めることができるだろうか。