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[寄稿]「軍部隊の誘致を争うくらい困難な地方の状況」…韓国で地方は消滅中

登録:2023-01-20 06:44 修正:2023-01-24 07:17
チョ・ムニョン|延世大学文化人類学科教授
尚州市は3日、「大邱市軍事施設移転誘致尚州市汎市民推進委員会」の発足式を行い、軍の誘致戦に飛び込んだ=尚州市提供//ハンギョレ新聞社

 最近ハンギョレ新聞に掲載されたある記事が目を引いた。大邱市(テグシ)が軍部隊統合移転方針を発表したことを受け、慶尚北道の複数の市・郡が誘致競争に飛び込んだという内容だった。軍部隊施設の誘致を希望する地域は、慶尚北道の尚州市(サンジュシ)、永川市(ヨンチョンシ)、漆谷郡(チルゴクグン)、軍威郡(クンウィグン)、義城郡(ウィソングン)の5カ所にのぼる。

 首都圏の住民からすると、明らかに奇異なことだ。軍部隊を歓迎する理由などない。住宅価格を下げる忌避施設だと反発が沸き起こるのが目に見えている。開発制限区域に指定されることへの不満も相当なものだろう。なのに、慶尚北道の地方自治体はいわゆる「ミリタリータウン」の誘致に必死だ。候補地ごとに誘致業務を担当する専担チームが設けられた。全て大邱周辺に隣接した市郡であるため、(軍部隊を誘致すべき)正当性の主張も似通っている。軍事作戦の要衝地であることを強調するために、朝鮮戦争はもとより壬辰倭乱(文禄・慶長の役)、丙子胡乱(丙子の乱)時代の記録にまでさかのぼる。全国どこにでも2時間で行ける「四通八達交通の要衝地」という宣伝も欠かさず登場する。

 普段なら見出しだけチラッと見て、クリックしなかったはずの記事だ。しかし、今回は違った。記事を見る数日前まで尚州にいたからだ。そこで会った尚州出身の農村社会学者、チョン・スクチョン先生の言葉が脳裏に残っていた。

 「 (ここの人たちが)軍部隊の誘致を望むくらい、いかに困っているかがわかるでしょう」

 尚州市の面積はソウルの2倍だが、人口は9万5千人程度に過ぎない。出生率の低下と人口流出が同時に起きた結果、政府の「消滅危険地域」リストの常連になった。慶「尚」道という地名の語源でもある地域の由緒ある歴史は、野原にそびえる博物館や記念館では詳しく紹介されているが、相当な財政が投入されたはずのこの建物にわざわざ足を運ぶ人は多くない。

 協同組合歴史文化館を訪問したが、昼休み中で閉まっていた。しばらく待ってから入場すると、市役所の職員が迎えてくれた。週末だから文化解説士の代わりに出勤したという。歴史館も、近くの絹博物館も、ほとんど誰にも邪魔されず観覧できるほど、閑散としている。近くにそびえ立つ韓服(ハンボク)振興院を見ると、かえって心配が先走る。韓服の大衆化とグローバル化のため、2年前に約200億ウォン(約20億8千万円)をかけて作られたという。「絹の里」尚州に建てられた振興院が、市長の言葉どおり「未来韓服産業の拠点」になるだろうか。おせっかいかもしれないが、ここを誰がどうやって補修し、維持していくのかが気になった。70代後半の叔母は幼い頃「蚕の王」に選ばれ尚州郡守から一等賞をもらったというが、尚州でも蚕糸は日常というよりも展示、体験、保存の領域になって久しい。

 「消滅」の脅威に直面した地域が、寿命を延ばすために無駄なことをやっていると言いたいわけではない。批判よりも閉塞感が襲ってくる。「軍部隊の誘致を望むくらい、いかに困っていることか」というチョン・スクチョン先生の言葉に、(繰り返される定員割れに)「地方の大学としてはやるべき自助策はもう全部やり尽くした」というチ・ジュヒョン先生の文(『黄海文化』2021年秋号)に、首都圏市民でありソウル所在の大学で働いている私はどう答えるべきだろうか。

 日本列島を揺るがした「地方消滅論」が朝鮮半島に直輸入されて以来、地方は余命僅かの宣告を受けて慌てているが、長い間地方の自然を収奪し、安値で専有してきた首都圏居住者の多数は、依然として4つの見解の中の一つを持っているようだ。一つ目に、地方は知らなくても構わない。大韓民国には「朝・中・東(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)」と「ハン・京・オ(ハンギョレ新聞、京郷新聞、オーマイニュース)」があるだけで、地域メディアは知ったことではない。二つ目に、地方の土豪の方が問題だ。地方が腐敗して地方を殺しているのに、どうしろというのか。三つ目に、地方が体質改善できなかった代償を代わりに払うはめになるのではないかと心配だ。人口減少による地方財政危機を補うのに中央の税金が使われるのはもったいない。四つ目に、地域が唯一の希望だ。気候災害時代の人間中心主義を克服する転換はマウル(まち、村)が主導するだろう。欧州がアフリカを植民地支配の代わりに援助で統治する際、アフリカ諸国の無能と依存を叱咤し、同時にアフリカの原初性を崇拝したこととかなり似ている。

 皆それぞれ新年の抱負を持っているだろうが、私は「消滅」というレッテルが貼られた地域の様々なところで関係を築き上げ、淡々と、そして一生懸命生きていく人々により頻繁に会うつもりだ。最近出版した本『貧困の過程』を読み返しながら、どこか違和感を覚えたからかもしれない。私が論じた韓国の貧困も、若者も、多くの場合、首都圏と都市をデフォルトにしていたのではないか。研究者であり、首都圏植民地支配の関与者として、今になって自分に問いかける恥ずかしい質問だ。

//ハンギョレ新聞社
チョ・ムニョン|延世大学文化人類学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1076299.html韓国語原文入力:2023-01-19 09:59
訳H.J

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